04a こんにちは昆虫たちよ〈害虫防除〉
 
 △総合防除
 害虫防除は農林業にあっては植物保護,医学の面にあっては人の健康保持の一環とし
て考えられるべきものです。したがって各分野,とくに病害,雑草害の防除との密接な
連携ないし栽培法や条件との配慮が必要です。
 (1)対象種の決定:いかなる害虫種を対象とするのか,とくに多数の種類がいる場
   合には,重要度の順位を定めて対象種をはっきりさせることが望まれます。季節
   によっても異なるので,季節配置にも合わせて考える必要があります。
 (2)防除範囲の選定:共同防除を実施するとか媒介昆虫の防除や,フェロモンなど
   による防除,あるいは大発生などで蔓延の可能性のある場合には防除対象区域を
   定めなければなりません。
 (3)具体的方法の検討:具体的にいかなる防除法を採用するかは対象害虫の生態及
   び発生予察の結果などを十分考慮し,期待する効果の程度,経費及び資材,労力
   及び実行の難易,事後の影響,中毒などの危険性などに注意しなければなりませ
   ん。
 総合防除(integrated control)という言葉は初期には「天敵と農薬を調和ないし相補
的に使用して害虫を防除する体系」と定義されていたが,その後先に述べた「あらゆる
適切な害虫防除技術を相互に矛盾のない形で使用し,経済的被害を生じるレベル以下に
害虫個体群を減少させ,かつその低い個体群レベルに維持させるための害虫管理のシス
テム」という基本的考え方に変わり,さらに害虫管理(pest management)という考えの
もとに農生態系(agroecosystem)のなかで広い角度から害虫防除を実施しようという方
向に向かいつつあり,総合的害虫管理(integrated pest management,IPM)と呼ば
れています。
 
〈発生予察・被害解析〉
 △害虫個体数の推定
 発生予察(forecasting)とは,害虫個体群の将来の動向 ― 発生時期及び量 ― を前
もって予測する作業で,わが国では昭和16年以降国の事業として制度化されています。
 本格的な発生予察システムにおいては前もって個体群の動向を調査,把握しつつその
情報を基準に作業が進められます。すなわち各時点での個体群現存量の把握が発生予察
の第一歩といえますが,これは実際には相当な難業ですので,状況によって様々な便法
がとられます。一般には広域を対象とした大まかな推定には粗くとも手軽な方法が求め
られます。燈火誘殺法(ライトトラップ法)やフェロモントラップ,粘着トラップ,水
盤トラップなどの方法によって個体数を推定します。
 しかしこれらの諸法はいずれも間接的な推定法であるため,気象条件などの影響を受
けやすいほか,実際の生息個体数,すなわち絶対密度が直接推定できないという共通の
欠点を持ちます。発生予察の基礎調査においては,これらの簡易推定とは別により精密
な絶対密度推定である区画法や標識再捕法によるべきです。
 区画法は,調査範囲を多数の小区画に仮想的に区分した後に適当な数の区画をその中
からランダム,又は系統的に抽出し,抽出した区画については全数調査を行ってその結
果をもって全体の平均密度を推定する方法です。この方法の弱点は活動性の高い昆虫 ―
 例えばキャベツ畑にいるモンシロチョウの成虫 ― の調査には使い難いということで
 す。
 標識再捕法は対照的に活発に動く昆虫に適した推定法です。事前に対象区域から適当
な数の個体を採集し,マークをつけて放します。その後任意の数の個体を採集して,比
例関係から総個体数を推定するものです。
 △発生時期と発生量の予測
 被害発生前のある時点で対象とする害虫個体群の現存量や齢構成が分かれば,それを
もとに以後の個体群の動向を予測することが可能となりますが,その前提としてはその
種の個体群動態システムの実態を把握しておかなければなりません。被害との関連にお
ける発生時期の予察は防除適期を定める上で重要でありますが,これは積算温度法則に
おける温量定数と発育ゼロ点が既知であれば,予想される以後の気温経過をもとに予測
することが可能となります。休眠中の個体群が対象の場合には,さらにその休眠の覚醒
時期についての調査も必要になります。
 
〈化学的防除〉
 化学薬品を使用して防除する方法を化学的防除と呼び,一般には薬剤防除とも呼んで
います。
 害虫の化学的防除に用いられる薬剤は殺虫剤ですが,殺ダニ剤,殺線虫剤,殺鼠剤,
殺菌剤,除草剤,植物生長調整剤などを総称して農薬と呼んでいます。
 △殺虫剤の種類
 消化中毒剤(毒剤)とは,薬剤が害虫の口器を経て消化管内にはいって中毒作用を起
こさせ死亡させるもので,咀嚼ソシャクあるいは舐食テイショク型の口器を有する害虫,例えば
鱗翅目の幼虫,直翅目,鞘翅目の幼・成虫などに対し主に使用されます。
 接触殺虫剤とは,害虫の体表面に直接あるいは,散布された床などに害虫が接触して
薬剤が体壁を通じて体内に侵入し死亡させるもので,古くから使用されている除虫菊,
ニコチン剤,アルカリ剤,マシン油剤をはじめ,DDTなどの有機塩素剤等々がありま
す。
 燻蒸クンジョウ剤とは,薬剤をガス状態して,害虫の気門を通して呼吸系に侵入して死亡
させるものです。土壌燻蒸は地表に孔をあけ薬液を注入します。
 浸透殺虫剤とは,作物の根や茎葉,樹幹などから薬剤を吸収させ,作物体内の各部分
へ行きわたらせ,これを加害する害虫が摂食して死亡させるもので,家畜の餌に混ぜた
り,注射することにより寄生する害虫を防除する場合もあります。殺虫作用は主として
消化中毒剤的であるが,接触剤的な面もあります。作物体内に薬剤が吸収されてしまう
ので天敵を直接被害させないこととか,作物の茎や葉の内部に潜む害虫にも有効なこと
が特色です。
 補助剤とは,殺虫剤の効力を十分発揮させるために添加する補助物質の総称で,@有
機溶媒などに混ぜる乳化剤,A主剤の濃度を薄める坦体(乳剤,水和剤,粉剤,粒剤),
B散布液を固着させるための展着剤,C主剤の殺虫力を増進させるための共力剤などが
あります。
 誘引剤とは,害虫を毒餌や捕虫器などに誘引する薬剤です。性フェロモンなど性に関
する誘引物質の存在は古くから知られております。
 忌避剤とは,害虫を作物あるいは人畜その他有用器物に接近させないようにするため
に使用する薬剤で,不快な臭気や味を持つものもあり,ナフタリンやしょうのうは古く
から利用されています。
 化学不妊剤とは,昆虫の生殖器の発育を阻害させたり,生殖細胞に阻害を起こさせた
り,卵又は精子の生殖能力をなくして,増殖を抑える薬剤をいいます。
 制虫剤又はインセクティスタティックスとは,昆虫を直ちに殺すのではなく,発育や
生殖を抑制して害虫密度を低下させる薬剤です。
 △殺虫剤の使用法
 殺虫剤の有効成分の量は処理面積に比較すると極めて少量であり,有効成分そのまま
を均一に処理して防除効果をあげることは困難です。したがって補助剤を加えて処理を
容易にするばかりでなく,防除効果を高め,薬害を軽減し,使用者に対する安全性を高
めることも重要な目的となっています。
 溶剤散布とは,各種噴霧器を用いて溶剤を散布することで,ミスト散布機による濃厚
液散布も行われます。
 粉剤散布は,水利の悪い場所や傾斜地に適するなど作業そのものも簡単で,大面積の
防除も容易です。粉剤の具備すべき条件として,分散性,飛散性,付着性,固着性,安
定性があげられます。早朝あるいは夕方の上昇気流のない,無風のときがよく,霧の有
無は効果にあまり影響しません。
 粒剤散布は,素手あるいはゴム手袋をはめ,手まき又は散粒機で散布します。浸透殺
虫剤の粒剤を葉上に散布して速効的効果をねらうtop dressingが行われます。
 煙霧剤散布とは,散布液粒子を煙霧質(直径2〜20μ以下)にして散布する方法です。
 燻蒸は,気化しやすい液体,その他を用いて毒ガスを発生させる方法です。
 その他の方法としては,浸透殺虫剤や粘着剤を樹幹その他に塗布したり,種子などを
水でぬらして粉衣にしたり,害虫の加害樹孔に毒剤を充てんしたり,水面に薬液を滴下
したり,薬液に種苗を浸漬したり,外部寄生虫のついた家畜を薬浴させたり色々ありま
す。蚊取線香のように,殺虫剤の有効成分を加熱して煙にして使用する燻煙もあります。
 △殺虫剤使用上の注意
 @昆虫の食物摂取方式や発生時期・発生量・日周活動時刻,また作物の加害部位や潜
伏場所を熟知しておくことが必要です。孵化幼虫はは薬剤に対する感受性が高く,加害
の直前であるので効果があります。A害虫には天敵が存在しているので,非選択性殺虫
剤を広範に多量に使用することは好ましくありません。
 △殺虫剤の具備条件
 @殺虫力強大,A残効性大,B物理性良好,C品質一定,D貯蔵中品質不変,E他剤
との混用可能,F作物・人畜に無害,G使用法簡便,H安価などが以前から要求されて
いますが,A残効性については,これからは残留毒性や環境汚染の面から一考する必要
がありましょう。
 △殺虫剤の作用機構
 殺虫剤の作用機構は,殺虫剤が施用されてから,昆虫体の作用点に達するまでの経路
は,施用から虫体表までと,体表から体内にはいり作用点に達するまでの二つに大きく
分けられます。
 不活性物質の作用機構としては,例えば珪藻土,ベントナイト,タルク,無水ケイ素
など化学的に毒性を持たない不活性物質は,貯蔵穀物に混ぜておけば殺虫作用がありま
す。
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