04 こんにちは昆虫たちよ〈害虫防除〉
 
          こんにちは昆虫たちよ〈害虫防除〉
 
〈害虫防除の構想〉
 △はじめに
 人類と昆虫のかかわりあいは,次の三つに大別されます。
 1)益虫
  カイコ,ミツバチのような有用虫,及び害虫に寄生する虫,害虫を捕食してくれる
  捕食虫などの天敵
 2)害虫
 3)直接には人類に利害関係のないもの
 しかし,このような分類は,必ずしも明確なものでなく,幼虫が農作物の害虫であっ
ても成虫が蝶となって花粉媒介虫として有用であることもあります。そして立場により,
地域,年代,社会情勢などによって著しく異なります。現存する昆虫は90万種以上にも
及ぶともいわれていますが,そのなかで害虫とされる昆虫はごく一部で,大部分は人類
に直接利害関係がありません。しかも重要害虫として毎年重大な被害をもたらすものは,
さらにそのなかの一部であり,捕食性昆虫がすべて害虫となるとは限りません。このよ
うに,なぜ害虫となるかということは応用昆虫学の重要なテーマでもあります。
 害虫によって起こされる損害は,作物又は人畜そのものにおける一時的損害と,その
対策のために栽培時期を変更したり,検疫を行う必要性が生じたりする二次的損害とに
分けられます。そして一時的損害は害虫による作物の食害とか,人畜の吸血害のような
直接害と,ツマグロヨコバイのイネの萎縮病ウイルス,ヒメトビウンカのイネの縞葉枯
病ウイルス,コガタアカイエカの日本脳炎ウイルス,ハマダラカ類によるマラリア原虫
の媒介のように媒介昆虫としての間接害とありますが,これらの損害の程度やその評価
は生物学的要因のみならず社会情勢によっても大いに異なります。
 △害虫防除の歴史
 科学の発達していない時代には害虫による被害を回避するために,まじないや祈りを
することが行われました。このことは現在も虫除札とか虫送りの行事として残っていま
す。
 わが国の稲作は古くから虫害によってしばしば飢饉にみまわれていました。徳川時代
における享保の飢饉として知られている米不作の原因はウンカによるものとされており,
このころ筑前国(福岡県)において「ウンカ類に対する注油駆除法」が行われていまし
た。これは水田に水を満たし,鯨油を水面に注ぎウンカを溺死させるというもので,世
界の害虫防除史のなかでも最も先駆的なものです。また作付けの時期を前後にずらして,
メイチュウの産卵を避けたり,松明タイマツによる成虫の灯火誘殺,採卵,株の掘取による
越冬幼虫の駆除などが行われてきました。
 その後合成殺虫剤DDTなどの出現により,いわゆる農薬時代をつくり,農産物の増
産,疾病の予防に多大の貢献をしてきました。かくして殺虫剤による防除は作物栽培体
系をも変えるに至りました。
 しかしながら,殺虫剤の不用意な多用は,@生態系の単純化による害虫密度の増大,
A害虫の殺虫剤抵抗性の発達,B今まで重要でなかった害虫の勢力の増大,C殺虫剤残
留による人畜や自然界の生物への悪影響などの問題が起こってきました。1965年FAO
が主催したシンポジウムでSmithとReynoldsは「あらゆる適切な害虫防除技術を相互に
矛盾のない形で使用し,経済的被害を生じるレベル以下に害虫個体群を減少させ,かつ
その低い個体群レベルに維持させるための害虫管理のシステム」という定義で総合防除
(integrated control)を提唱しました。
 △害虫防除の意義
 害虫防除(pest control)とは害虫発生の予防と駆除の略で,予防は発生の抑制及び被
害の回避などを指し,駆除は発生後における殺虫処理を意味します。予防と駆除とは,
これを人間の病気に例えると衛生と治療のような関係にあり,われわれはこれの両者の
調整に絶えず注意を払わねばなりません。
 害虫防除の意義,目標は,害虫の損害を軽減し,収穫物の増収と品質向上による収入
の増加のみならず,こうした背景のもに栽培方式の拡大化,品質の改良もおし進められ,
害虫防除の効果評価はいっそう広い視野から検討されるようになりました。作物栽培体
系は害虫防除法の発達により近年著しい変革を遂げました。害虫防除のねらいが,以前
のような被害軽減第一主義から,新しい方向へと転換しつつあることは,とくに注目さ
れなければなりません。
 このように,害虫防除の効果は広い視野から検討されなければなりませんが,被害軽
減効果を論ずる場合には,その経済性をとくに重要視する必要があります。それは一般
に,
  防除効果 = (防除によってもたらされた利益) ― (防除経費)
によって判定されますが,しかし,これは国又は地方自治体が行う場合と個人のそれと
は事情が異なり,また一時的対策と長期的対策とでも計算が相違すること,また当然の
ことながら,経済的社会的情勢によっても価値が変化するなど,上記の査定は必ずしも
簡単ではありません。
 近年,国民経済の向上と農業技術の発展によりますます防除費は増加している傾向に
あります。
 害虫の防除法は通常次の4種に大別されます。
 (1)化学的防除(chemical control)
 (2)機械的・物理的防除(mechanical and physical control)
 (3)耕種的防除(cultural control)
 (4)生物的防除(biological control)
 これら4種の害虫防除法のほかに国家あるいは地方自治体が法令などを制定して行う
法令防除があります。これは単なる経済効果のみでなく,進入害虫の防止,撲滅などが
含まれます。近年,放射線などで不妊化した害虫を放飼して野生虫と交配させ次世代の
発生を抑制したり,遺伝的に不適当な性質を有する系統を放飼して害虫個体数を減少さ
せる試みが行われており,これらを自滅的防除,遺伝的防除(genetic control)といい
ます。
 
               害虫防除の分類及びその主要例
                                                                              
 目      標   化学的防除  機械的・物  耕種的防除  生物的防除
                   理的防除
                                                                              
駆除 発生した害虫を  殺虫剤散布  捕殺・灯火         生物農薬
   対象とした殺虫  誘引剤による 誘殺・加熱
            大量捕殺
                                                                              
予防 発生の抑制    耐虫性の付与 不妊化処理  発生環境の改 天敵利用
            交尾阻害          変・耐虫性品
                          種の利用
                                                                              
 〃  被害回避     忌避剤の利用 遮断     栽培時期の調
                   マルチ・証明 節
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