03a こんにちは昆虫たちよ〈昆虫基礎〉
 
〈有翅昆虫の一般的体制〉
 頭部は外観上1環節からなりますが,実際は6体節が融合したもので頭蓋を形成しま
す。付属肢は触覚(第2節)と口器を形成する大腮タイサイ,小腮,下唇(第4-6)節の
みが発達し,他は消失しています。また頭部には1対の複眼と3個の単眼を有します。
 胸部は3節よりなり,各節には1対の脚と第2・3節(中・後胸)には,1対の膜質
の翅を有します。翅は前後翅シともよく似ていて,縦走する翅脈(気管)によって支え
られています。
 腹部は11節よりなり,第11節には1対の尾角(尾毛)があります。尾角は多数節から
なります。
 消化系は1本の消化管と二つの付属肢からなります。消化管は前腸,中腸,後腸の3
部に分けられます。1対の唾線は前腸の両側に存在し,口腔の腹面近くに開口します。
6本のマルピーギ管は中腸と後腸の境から生じています。
 中枢神経系は大脳,食道下神経球と腹走神経系からできています。大脳は3個の神経
球が融合したもので,主としてホルモンの分泌,複眼と単眼の視覚,触覚と上唇の感覚
と運動をつかさどっています。大脳は1対の側食道神経索で食道下神経球に連結してい
ます。食道下神経球も3個の神経球が融合したもので,主として口器の感覚と運動をつ
かさどります。腹走神経策は3個の胸部神経球と9個の腹部神経球が1対の腹面を縦走
する神経索で結ばれたもので,梯子状の構造をもちます。
 循環系は体の背面中央を縦走する1本の背脈管で代表され,腹部に存在する部分が心
臓,胸部に存在する部分が動脈です。動脈は脳の後ろに開口します。心臓は腹部環節ご
とにくくられ,多少ふくらんだ心室が連なり,心室にはそれぞれ1対の心門が開口しま
す。体液は心門から心室に入り,前方に送られ,動脈を経て脳の後ろに流出し,体液を
流れてまた体の後方に還ります。昆虫の体液は血リンパ液ともいわれ,血液とリンパ液
の区別はありません。心臓の下には囲心臓隔膜があります。
 呼吸系は各体節ごとに発達する外胚葉起原の気管群が前後左右に連結して構成されま
す。気管は前後に連結して縦走主幹を左右に連結して連鎖主幹を形成します。気管の開
口部を気門といいます。気門は10対あり,中胸,後胸,第1-8腹部の両側面に開口し
ます。気管は気管枝,毛細気管と次第に細かく分枝し,体内にくまなく分布します。
 生殖系は雌雄で非常によく似ています。雄には1対の睾丸があります。睾丸はそれぞ
れ小数の睾丸小胞からなり,輪精管に連絡します。輪精管は後方で1本に合して射精管
となり,陰茎に開口します。雌の卵巣はいくつかの卵巣小管よりなりますが,この卵巣
小管は雄の睾丸小胞にあたります。成熟した卵は輪卵管に出てきます。輪卵管は後方で
合して中央輪卵管となり,後端は窒を形成します。受精嚢は窒の背壁に開口しまた1対
の付属腺も窒に開口します。雌には産卵管,雌には交尾器が発達します。
 
〈昆虫の分類学〉
 △現代の分類学
 動物の分類学は,原則として形態に基づいて研究が行われます。その目的は一口にい
って,生物進化の姿をとらえ,その有り様を体系化することです。
 昆虫における現代の分類学は大別して系統分類学と数量分類学の二つの流れがありま
す。系統分類学はさらに伝統的分類学と系統分岐学に分かれ,どちらもある特定の形質
(例えば双翅類は前翅2枚のみが発達し,後翅は平均棍コン,ツエとなります)を重視しま
す。数量分類学は原則として諸形質を等価とみなして,コンピュータを駆使して行う分
類学です。
 △同定
 応用昆虫学の実際においては,害虫又は益虫の種名を正確に知ることがまず必要で,
かつ重要なことです。
 昆虫の種名を決定することを同定(identification)といいます。同定は既存の分類体
系に照らし合わせて当面の標本の種名を引き出すことですから,とりもなおさず分類学
の有用性を立証するものです。
 △分類,階層,タクソン
 生物の分類(classification)とは,生物の間の連続性,類似性などの関係を基礎とし
て,いくつかの群に秩序づけられることをいいます。このような群のカテゴリーとして
は,界(kingdom),門(hpylum),綱(class),目(order),科(family),属(genus),種
(species)などがあります。これらのカテゴリーはレベルの違いによって上下の秩序に
ランクされます。この系列を階層又はヒエラルキー(hierarchy)といいます。昆虫分類
学の実際では,綱以下のカテゴリーをさらに細分して,次に示すような13の階級(rank)
に配列する場合が多いです。
 
  綱    Class
     亜綱  Subclass
    目    Order
     亜目  Suborder
      上科  Superfamily
       科    Family
        亜科  Subfamily
         族    Tribe
          亜族  Subtribe
           属    Genus
            亜属  Subgenus
             種    Species
              亜種  Subspecies
 
 この階層では,上位のレベルほど包括的であることはいうまでもありません。例えば
蜂とか蟻とか呼ばれる昆虫は世界中で10万種以上が知られていますが,これらはわずか
約70の科に含められ,この70の科はわずか16の上科にまとめられ,この16上科はたった
二つの亜目に,これらはすべて一つの目(膜翅目)に包括されます。
 階層における各々の階級は,現実的に一つの単位と認められる分類可能な生物の群を
表すものであると理解されるときに,これをタクソン又は分類単位(taxon,複数はtaxa)
といいます。セイヨウミツバチ(Apis mellifera)(種),アゲハチョウ(Papillio)(属
),アリ類(Formicidae)(科),甲虫類(Coleoptera)(目),昆虫類(Insecta)(綱),
節足動物(Arthropoda)(門)などはそれぞれタクソンです。
 △種
 種(species)の概念あるいはカテゴリーとしての種の定義は長い間生物学の話題を賑
わせています。MayrやSimpsonなどがこの定義をしていますが,これらに具体性をもた
せて説明しますと,種は他の種から分かれて進化を続ける系統である(進化が進むほど
種間の距離が開く,ただし地史的時間が必要),十分に分化を遂げた種は他の種とは生
殖的に隔離されている,現実的には種は個体が集まって形成され個体群として存在しま
すということです。この個体群は多くの小個体群すなわちデーム(deme)から構成されま
す。種はそれぞれに形態的,生理的,生態的,遺伝的な特有の形質をもち,また各々の
地理的分布をもつものです。
 自然界ににおける完全に客観的な存在は個体です。生物学的には個体のもつ意義は大
きいです。それにもかかわらず,個体が分類され命名されることはありません。分類の
対象はグループであって,その基本単位が種です。
[次へ進んで下さい]