02 こんにちは昆虫たちよ
 
         こんにちは昆虫たちよ〈はじめに〉
 
               引用 「新応用昆虫学 -改定版-」 朝倉書店発行
 
                この昆虫シリーズは,「新応用昆虫学 -改定版-」の
               記事について,森林林業に関わりのあるジャンルに的
               を絞って抜粋(一部修正)したものです。    SYSOP
 
〈インフォメーション〉
 昆虫は現在種名が明らかなものだけでも90万種,しかも年々2千種以上の新種が学会
に報告され,未記録種も含めると百万種以上が存在し,全動物種数の3/4〜4/5を
占めるといわれています。また,ほぼ完全な翅ツバサを備えた昆虫は約2.5〜3億年前の
古生代石炭紀後期に出現したというのに,人類の出現はようやく現世の新生代第四紀洪
積世の初め,たかだか50万〜100万年前のこととされています。このように数のうえでも
起源の古さからも昆虫は人間を圧倒しますし,人類はその最初から昆虫と付き合わされ
てきたことになります。勿論大部分の昆虫は人間と直接の利害関係もありませんが,ご
く一部の昆虫が,恒常的にあるいは一時的に極めて深刻な打撃を与え,また多くの利益
をももたらしてくれています。
 
〈昆虫と人間の生活〉
 
          昆虫と人間の生活とのかかわり
 
健康・衛生 刺咬・吸血と病気の媒介 − 衛生害虫(ハエ,カ,ノミ,シラミ,アブ,
       ブユ,その他)
      昆虫生産物の医療材料への応用(蜜蝋など)
 
食糧    農作物・貯穀類・食品の食害汚染 − 農業・貯穀・食品害虫(ウンカ,
       ヨコバイ,ニカメイガ,コクゾウ,ノシメコクガ,その他)
      家畜の刺咬・吸血と病気の媒介 − 畜産害虫(ハエ,カ,ノミ,シラミ,
       アブ,ブユ,その他)
      昆虫又は昆虫の生産物の食用供給 − 有用昆虫(イナゴ,ザザムシ,ミ
       ツバチの蜂蜜,その他)
      農作物の授粉 − 花粉媒介昆虫(ミツバチ,マメコバチ,その他)
 
衣料    動物性・植物性繊維,毛皮,皮革の食害 − 繊維害虫,畜産害虫(カツ
       オブシムシ,タバコシバンムシ,ワタミゾウムシ,スクリューワーム,
       その他)
      絹糸の供給 − 絹糸昆虫(カイコ,サクサンなど)
 
住居    樹木・木材の穿孔・食害 − 森林・乾材害虫(キクイムシ類,マツカレ
       ハ,シロアリ,その他)
 
嗜好・化粧 茶,コーヒー,タバコなどの加害 − 工芸作物害虫(チャハマキ,その
       他)
      昆虫の生産物の化粧品材料への応用(蜜蝋)
 
交通・通信 配管類の充填障害,大発生による視界妨害,その他(アブ,ドロバチ,ハ
       キリバチ,ユスリカなど)
      電柱・電話線ケーブルの産卵・穿孔加害(セミ,小形甲虫類,その他)
 
エネルギー 水力発電所導水路壁面への造巣による電力障害(トビケラ類)
 
科学・芸術 生物学・化学・生物工学諸分野への貢献,文学・美術の対象
・教育   工芸品材料(タマムシ,その他)
      教育材料(カイコ,カブトムシ,その他)
      法医学 − 遺体死亡時間の推定
      骨格標本の仕上げ(カツオブシムシ類)
 
スポーツ  釣の餌(ブドウトラカミキリ幼虫,ユスリカ幼虫,トビケラ,その他水生
       昆虫)
 
 上表のように昆虫は,およそ人間社会の生活活動要素のあらゆる面に関係しているこ
とが理解されましょう。しかし,そのなかでも健康,衛生と食糧の面で相互のかかわり
が最も大きく,衛生害虫,農業害虫の研究が重視そされる所以です。また一方で,昆虫
は自然界の食物連鎖の構成要員として,極めて重要な存在であるとともに,カイコやミ
ツバチのように有用昆虫として,あるいは害虫の天敵として人類に貢献しています。
 旧石器時代(BC7000)の頃のものといわれるスペイン,アラーニャの洞窟の壁画に
は,すでに野生ミツバチの巣から採蜜する女性の姿が画かれ,古代エジプト第一王朝(
BC3200)の時代にもミツバチの女王や太陽神からの使者とされたスカラベ(糞ころが
し,鞘翅目)が王権の象徴に使われています。また,中国では殷インの時代(BC1600〜
1100)に養蚕が行われていたといわれています。わが国でも弥生時期(BC300〜AD
300)の銅鐸の人,鹿,犬,カエルなどとともに,トンボ,カマキリが描かれ,古代人
の昆虫への関心の高さをうかがわせられます。
 有史以来の記録に残る災害ともいうべき昆虫による大きな損害例のいくつかについて
みてみましょう。
 バッタ(飛蝗)の大発生による被害は,歴史上多くの記録が残され,旧約聖書の出エ
ジプト記十章にも出てくるほどで,中国では宋から元,明ミンを経て清シンの時代に至る約
1200年間に実に280回以上,ほとんど4〜5年に1回の割で大発生に見舞われています。
また,日本でも昭和5年ごろまではトノサマバッタによるバッタの大発生が北海道を中
心にたびたび起こり,特に明治13〜17年,北海道十勝地方に起こった大発生は,当時の
開拓農業に大打撃を与え,政府もその対策に苦慮させられました。関東地方でも昔から
利根川下流域にたびたびトノサマバッタが大発生し,江戸市中にまでも飛来したようで
す。
 バッタは低密度で生育していれば,定住型の孤独相でいるが,大発生が起こり,数世
代を高密度で生育すると移住型の群居相となり,これが飛蝗(ワタリバッタ)と呼ばれ
ます。
 昔から日本人を飢餓の苦しみに陥れてきたのは,イネの害虫のウンカ類とニカメイガ,
サンカメイです。特に享保17年(1732)のウンカの大発生は,米の平年収量の27%弱と
いう大凶作を招き,全国の餓死者12000人,飢えに苦しむ者200万人,餓死した牛馬14000
頭に及ぶという日本史上最大の飢饉をもたらしました。明治30年のセジロウンカ,昭和
15,41,42,44年のトビイロウンカ,セジロウンカの大発生,またニカメイガ,サンカ
メイガなども稲作に被害を与えています。
 他方,ペストを媒介するノミ,発疹チフスを媒介するコロモジラミなどの衛生害虫に
よる被害があります。
 
〈昆虫学,応用昆虫学の諸分野〉
 昆虫学は,動物学,植物学,自然科学の一分野として確立されました。20世紀に入っ
て農業・衛生医療の害虫対策の面から昆虫学が重視され,応用的分野が強調される傾向
が強くなりました。
 昆虫学は一般には,基礎昆虫学(Fundamental Entomology Generai entomology)と応
用昆虫学(Applied entomology)とに大別され,前者は昆虫に関する基礎的諸問題を扱い,
後者は人間の利害関係から昆虫の諸問題を扱います。しかし,基礎と応用とは互いに密
接な関係にあり,両者はいわば車の両輪をなしています。
 基礎昆虫学には昆虫分類学,昆虫形態学,昆虫生理学,昆虫生態学,昆虫遺伝学など
の分野がありますが,近時,昆虫生化学を昆虫生理学から分化させて扱う場合もあり,
昆虫行動学も独立した分野として台頭してきています。
 応用昆虫学は対象となる昆虫と各産業・社会構造との関係から,農業昆虫学(Agricu-
ltural entomology),森林昆虫学(Forest entomology),衛生昆虫学(Medical entomol-
ogy,Sanitary entomology)に分けられるのが普通で,養蚕学(Sericultural science),
養蜂学(Apicultural science)はそれぞれ独立して扱われ,後者は畜産学の一分野とし
て扱われることが多いです。応用昆虫学は害虫ばかりでなく益虫も扱うこととなります。
 また昆虫以外のダニ,線虫も便宜上応用昆虫学で取り扱われることが多いです。

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