51_2a 鳥を詠める和歌
 
[鴎カマメ・カモメ]
山とには 村山有れど 取りよろふ 天の香具山 のぼり立ち 国見をすれば 国原クニ
バラは 烟立ち篭め 海原は かまめ立ちたつ うまし国ぞ 蜻島アキツシマ やまとの国は
                              (萬葉集 一雑歌)
 
きのくにの きのくにや しらゝの浜に 真しらゝの浜に おりゐるかもめ はれ そ
の玉もてこ
かぜしもふいたれば なごりしもたてれば みなぞこきりて はれ その玉見えず
                                  (催馬楽)
 
かもめ居る洲崎のいはもよそならず 浪のかけこす袖にみなれて(十六夜日記)
 
[都鳥ミヤコドリ(鴎・城鳥)]
ふなぎほふ ほり江のかはの みなぎはに きゐつゝなくは みやこどりかも
                               (萬葉集 二十)
 
みやこ鳥ともをつらねてかへりなば ちどりははまになくなくやへん
くもぢをばつらねてゆかんさまざまに あそぶ千鳥のともにあらずや
都鳥千鳥をはねにすゑてこそ はまのつとゝて君にとらせめ
きみとはゞいかにこたへん浜にすむ ちどりさそひにこしみやこ鳥
                            (空穂物語 吹上之上)
 
名にしおはゞいざことゝはん都鳥 我思ふ人はありやなしやと(伊勢物語 上)
 
ことゝはゞありのまにまにみやこ鳥 都のことを我にきかせよ
                      (後拾遺和歌集 九羇旅 和泉式部)
 
春にあふ心ははなのみやこどり のどけき御代のことやとはまし
すみだ川すむとしきゝしみやこ鳥 けふは雲井のうへに見るかな
返す
にごりなき御代にあひみるすみだ川 すみける鳥の名をたづねつゝ
                         (古今著聞集 二十魚虫禽獣)
 
ことゝはんはしとあしとはあかざりし わがすむかたのみやこどりかと(十六夜日記)
 
ことゝはむ鳥だに見えよすみだ川 都恋しと思ふゆふべに
思ふ人なき身なれども隅田川 名もむつましき都鳥哉(廻国雑記)
 
都鳥うごくばかりのうつし絵に こめけむ筆の心をぞしる
                         (有徳院殿御実紀附録 十六)
 
[千鳥チドリ(鴎)]
やちほこの かみのみこと ぬえぐさの めにしあれば わがこゝろ うらすのとりぞ
いまこそは ちどりにあらめ のちは などりにあらむを いのちは なしせたまひそ
いしたふや あまはせづかひ ことの かたりごとも こをば(古事記 上)
 
おきつもは へにはよれども さねどこも あたはぬかもよ はまつちどりよ
                         (日本書紀 二神代 一書曰)
 
あめつゝ ちどりましとゝ などさけるとめ(古事記 中神武)
 
はまつちどり はまよはゆかず いそづたふ(古事記 中景行)
 
淡海アフミの海 夕浪千鳥 汝ナガ鳴けば 情ココロもしぬに 古へ念ほゆ
吾が背子が 古家フルヘの里の 明日香には 乳鳥チドリ鳴くなり 島待ちかねて
                              (萬葉集 三雑歌)
 
河渚カハスにも 雪はふれゝし 宮の裏ウチに ちどり鳴くらし ゐむところなみ
                               (萬葉集 十九)
 
おもひかねいもがりゆけば冬の夜の 川かぜさむみちどりなくなり(貫之)
夕さればさほの川原の河霧に ともまどはせる千どりなく也(紀友則)
                             (拾遺和歌集 四冬)
 
浜千鳥なきてぞさそふ世中に あとゝめんとはおもはざりしを(十六夜日記)
 
飫海オウノウミの 河原の乳鳥 汝鳴けば 吾が佐保河の 念ほゆらくに
                          (筆のすさび 中 万葉集)
 
[善知鳥ウトフ・ヤスカタ・ヨナ鳥]
ますらをのえむひな鳥をうらふれて 涙をあかく落すよな鳥
                         (烹雑の記 前集上 秘蔵抄)
 
[鵜ウ・シマツドリ・マトリ]
鵜の鳥は水道利する物なれば 服の脹しをよくいやしけり(食物和歌本草 四)
 
天離アマザカル 夷ヒナとし在れば 彼所ソコ此間ココも 同じこゝろぞ 家イヘさかり としの経ヘ
ぬれば うつせみは 物念ひしげし そこゆゑに 情ココロなぐさに(中略)叔羅河シクラガハ
なづさひのぼり 平瀬ヒワセには さでさし渡し 早瀬には 水鳥ウを潜カづけつゝ 月に日
に しかしあそばね はしきわがせこ(萬葉集 十九)
 
しら浜にすみの色なるしまつ鳥 ふでもおよはゞゑにかきてまし(十六夜日記)
 
[水乞鳥・翡翠ヒスイ・ソヒ・ソビ・ソニドリ・魚狗カハセミ]
かはせみは魚の骨喉に立たるに 煮て食たるも黒焼も吉(食物和歌本草 二)
 
ひすいこそのんどにほねの立たるに くろやきもよし煮て食も吉(食物和歌本草 七)
 
そにどりの あをきみけしを まつぶさに とりよそひ(下略)(古事記 上)
 
夏の日のもゆる思ひのわびしきに 水こひ鳥のねをのみぞなく(伊勢集 上)
 
君をゝきてことこひするかおく山に みづこひ鳥のみづこふがごと
                             (散木葉謌集 八恋)
 
[鶺鴒セキレイ・マナバシラ・ツツナハセトリ・ニハタタキ]
あめつゝ ちどりましとゝ などさけるとめ(古事記 中神武)
 
もゝしきの おほみやひとは うづらとり ひれとりかけて まなばしら をゆきあへ
にはすゞめ うずすまりゐて けふもかも さかみづくらし たかひかる ひのみやひ
と ことのかたりごとも こをば(古事記 下雄略)
 
さ夜衣かへすかひなき身にはたゝ 君を恨みて袖ぞぬれぬる
                   (続千載和歌集 七物名 入道前太政大臣)
 
[稲負鳥イナオホセトリ・ニハタタキ]
逢事をいなおほせどりのをしへずば 人をこひぢにまどはましやは
                           (奥儀抄 下ノ上 古歌)
 
わが門にいなおほせどりの鳴なべに けさ吹風にかりはきにけり
                      (古今和歌集 四秋 よみ人しらず)
 
山田もる秋のかりいほにをく露は いなおほせどりの涙成けり
                          (古今和歌集 五秋 忠岑)
 
かりにとて我宿のへにくる人は いなおほせ鳥にあはんとや思ふ(能宣朝臣集)
 
小夜更ていなおほせ鳥の啼けるを 君がたゝくと思ける哉(大和物語 上)
 
霜しろき朝けの風のさむけきに なくや門田のいなおほせどり(新撰六帖 二 家良)
 
逢ふ事はいなおほせ鳥の鳴しより 秋風つらき夕暮の空
                 (新続古今和歌集 十二恋 入道二品親王道助)
 
[さくなぎシャクナキ(大シャク・中シャク・小シャク)]
あやしくも風におるてふさくなぎの はしばみよりもながくみゆらん(藻塩草 十)

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