16 日本の鳥の分布
日本の鳥の分布
参考:世界文化社発行「世界文化生物大図鑑」
日本列島の主部は温帯に属しますが,全体的には亜寒帯から亜熱帯に跨ります。従っ
て留鳥リュウチョウはもとより,北方に繁殖する鳥の越冬地(冬鳥)又は南方への通過地(旅
鳥),或いは南方の鳥の繁殖地(夏鳥)にもなります。即ち日本は北方系や南方系の鳥
が入り混じる位置にあります。それらの鳥の分布の割合は海峡などを境に移り変わりま
す。日本列島の分布的要素の概略は次のとおりです。
1 東部シベリア北極沿岸地域
この地域は北極海に面するツンドラ寒帯地域で,シロフクロウ,シロハヤブサ,ユキ
ホオジロ,ツメナガホオジロ,ゾウゲカモメなどが代表種で,冬期少数ですが北海道ま
で南下します。ハクチョウ,コクガン,オオハムなどは定期の冬鳥として渡来し,キョ
ウジョシギ(標識鳥の回収)その他のシギ類は,渡りの際に日本を通過します。日本ア
ルプスのライチョウと同種のものも棲息します。
2 アラスカ,アリューシャン地域
日本に渡来するシジュウカラガン(現在減少し,人工増殖されています)はアリュー
シャンが繁殖地です。日本で標識したキョウジョシギがアラスカのプリビロフ島,東シ
ベリアで回収されました。新北区系ですがアラスカからシベリア東端部(次の項のチュ
コト半島など)に跨って分布するシロエリオオハム(日本太平洋岸に多く渡来),アメ
リカウズラシギ,ヒメウズラシギ,オオハシシギ,ハクガン,ミカドガン,カナダガン
などは日本に少数が渡来し,アメリカコガモ,アメリカヒドリ,オナガガモ(アメリカ
で標識のもの),オオホシハジロ,ヒメハジロ,オオキアシシギなどが多分このルート
で迷鳥メイチョウとして日本に到達します。
3 シベリア東端(チュコト半島),カムチャツカ,千島地域
コガモやユリカモメは標識によってカムチャツカから多く日本に来ることが分かりま
した。オオセグロカモメはカムチャツカから日本沿岸の特産,クロジも北日本からカム
チャツカ南部までの特産種です。ウミスズメ目の海鳥の多くが北日本,千島,ベーリン
グ海に分布し,千島に沿ってエトロフウミスズメ,コウミスズメ,エトピリカ,その他
フルマカモメ,ハイイロウミツバメ,コシジロウミツバメ,ミツユビカモメなどが多い
です。
4 東部シベリア,サハリン地域
この地域は主としてヤクーツクを中心とするエニセイ川以東のシベリアの森林地帯で,
サハリンまで含めます。この地域はオオハクチョウ,ヒシクイ,マガンやカモ類,シギ
類,タヒバリ,ツグミ,アトリ,カシラダカ,ベニヒワなどの繁殖地で,サハリン,或
いは日本海を渡って日本に冬鳥として越冬します。繁殖鳥として日本と共通な種はノゴ
マ,ルリビタキ,メボソムシクイなどで,これらは北海道や本州では高山の夏鳥です。
留鳥のカラ類,キツツキ類,フクロウなど日本と同種別亜種が棲息します。
5 東部南シベリア(アムール,ウスリー地域),中国東北,朝鮮半島地域
この地域は,北はヤブロノイ,スタノボイ山脈から,西は大興安嶺に包まれる森林地
帯,松花江,黒竜江沿岸で,南サハリンから北海道に対応する緯度にあり,1000mを越す
山はありませんが,植生も共通点が多く,北海道やサハリンを北限とする日本の夏鳥と
同種の多くの鳥が分布し,分布的親密度が最も高いです。それは,シベリア系の鳥でこ
の地域に南限分布するもの,中国東部・東北系の鳥でこの地域に侵入するもの,中近東,
モンゴル,トランスバイカル地方に主分布しこの地域に分布を伸ばしているもの,東洋
区系の熱帯性鳥類で北限種としてこの地域や本州以南に分布するもの,などを含むから
です。そして,西方では大興安嶺の西アルグン河流域でモンゴルやトランスバイカリア
地方の鳥相へと遷ります。
6 バイカル湖,モンゴル地域
この地域の鳥類は中近東やヨーロッパの鳥相の延長となり,ダイシャクシギ,ホシハ
ジロ,ツクシガモなどは冬鳥として渡来しますが,アカツクシガモ,クロハゲワシを始
め日本への渡来は,迷鳥として記録されるものが多いです。
7 中国南部,東洋区(南アジア)地域
この地域に由来する鳥類はハシブトガラス,キジバト,カルガモなどが,ウスリーや
日本に分布北限を伸ばしており,クマタカ,ヨシゴイ,タマシギなどは,大陸では中国
を北限とします。またカンムリワシ,キンバト,ミフウズラ,オオクイナなどは琉球を
北限とします。
8 広域分布
広域分布する鳥類も日本の鳥相に可成り多く,全北区分布するトラフズク,ミソサザ
イ,キバシリなど留鳥や,マガモその他のカモ類,汎旧北区に分布するエゾライチョウ,
オオハクチョウ,ヒシクイ,ユリカモメ,その他シギ類,キツツキ類,カラ類など,更
に汎旧世界分布するカイツブリ,カワウ,カワセミなど,汎世界的に分布するミサゴ,
ゴイサギ,ササゴイ,イヌワシ,ハヤブサなどがあります。
9 日本固有種
日本は古く大陸から分離し,かつ海峡で南北に断続していますので,各島に固有の種,
亜種として分化した鳥があります。亜種としても分類されるニホンキジ,本州以南のカ
ケスやエナガ,その他アカモズなど,種としてヤマドリ,アオゲラ,カヤクグリ,セグ
ロセキレイ(亜種ともされます),コマドリ,ヤマガラ,アカハラ,アオバトなどがあ
ります。また,琉球にはルリカケス,ノグチゲラ,ヤンバルクイナ,アカヒゲ,ミヤコ
ショウビン(絶滅),ズアカアオバト,リュウキュウカラスバト(絶滅),小笠原諸島
にはメグロ,オガサワラガビチョウ(絶滅),オガサワラカラスバト(絶滅),オガサ
ワラマシコ(絶滅)などがあります。琉球,小笠原諸島には絶滅種が多いです。アカコ
ッコは伊豆七島の特産です。
10 海鳥類
海鳥については別に扱いますと便利です。日本の鳥相に多いのは,北方のベーリング
海から千島,アリューシャンを中心に分布するウミスズメ科,カモメ科の鳥類と,南半
球から渡来し越冬するミズナギドリ目の海鳥,熱帯海域のネッタイチョウ,カツオドリ,
グンカンドリ,アジサシ類などが主体となります。
北方のものは日本近海への越冬種が主で,南からのものは台風などで熱帯から迷行し
て来る記録が主です。しかし100マイル沖からは南半球のミズナギドリ類の正規の渡来海
面があります。
日本固有が主体の繁殖海鳥にはウミネコ,オオミズナギドリ,ヒメクロウミツバメ,
クロウミツバメ,アホウドリ,カンムリウミスズメ,オオセグロカモメ,ケイマフリ,
ウミウなどがあります。
なお,南極から渡来するものにナンキョクオオトウゾクカモメがあり,タスマニアか
ら北上して来るハシボソミズナギドリは最も個体数が多いで知られ,日本沿海で死亡し
て打ち上げられる幼鳥が多いです。
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