15a 森に棲む野鳥の生態学〈林業と野鳥の調和のために〉
林業と野鳥の調和のために〈地域的な保護対策〉
〈山腹の連続性〉
森林に棲む野鳥の標高的棲みわけ関係や季節的移動の実態からみて,一つの山塊の天
然林は山頂から麓まで連続して保残しなければなりません。山塊の横のつながりと,山
腹のつながりを合わせ,日本の森林を縦横に連続するようにする必要があります。
〈小面積皆伐と幅広い保残帯〉
生息野鳥が周辺に移動しやすく,人工林化後の害虫獣の発生に際して近くに棲む野鳥
の捕食が容易にできるように,天然林皆伐は1ha以下の小面積とし,また保残帯は100m
以上の幅にする必要があります。
〈択伐と天然更新〉
択伐にあっては樹洞や餌の多い木を残すように留意し,天然更新にあっては除草剤散
布や林床掻き起こしは生態系への影響が大きいと考えます。
〈施業の地域的分散〉
天然林,択伐林,二次林,人工林をモザイク状に配置し,樹種,樹齢,林分構造の異
なる林を隣接させ,下刈,除間伐,択伐,皆伐などの作業を広く分散させて行えば,鳥
類群集への直接的,間接的悪影響は緩和されます。
林業と野鳥の調和のために〈林内の保護対策〉
〈広葉樹の導入〉
針葉樹人工林への広葉樹の混入程度は,樹冠層では10%以上,中大層木全体で3分の
1以上の被度にします。明るいカラマツ林などでは林床のササのみが優占しないように,
中下層に3分の2程度の被度にする必要があります。
〈混交造林や複層林〉
針広混交林,群状・列状混交林のほか,針葉樹同士の混交造林,また複層林について
も異なる樹種の組み合わせとします。
〈巨木,枯木の保残〉
巨木の一部や折損木,枯木の保残,広葉樹二次林の一部は大径木林へと誘導します。
〈作業時期の調整〉
営巣期間中の林内作業は避ける必要があります。イヌワシの制限区域は巣から800mで
す。
〈営巣場所やねぐらの供与〉
樹洞性の鳥には巨木,折損木の保残,成長が早く虫害や枝抜けで樹洞になりやすいコ
バヤマハンノキなどを植栽します。
草木に営巣する野鳥にはブッシュ,低木の保残,下刈高を高くして枝股・ひこばえを
多くし,スギやヒノキの人工林では,巣の架けやすいウラジロモミ,トウヒ,カヤなど
を混植します。林縁にはマウント群落を造ります。
大型のワシタカ類には人の近寄りにくい断崖,尾根に生えるアカマツ,モミ,ヒメコ
マツ等の巨木や,通直な幹の上部の太い枝が掌上に分かれた広葉樹大木を残します。
生立木によく巣を造るクマゲラには通直で枝下高が高くやや傾斜した幹の方向が疎開
しているトドマツ,ブナ,サワグルミ,シナノキなどの大木を残します。
巣箱供与は自然状態の営巣場所が造成されるまでの応急措置です。
若齢人工林では直接架けると木に傷がつき,また天敵が侵入しやすいので,直径10cm,
高さ2〜3mの塩化ビニルパイプの上に設置します。シジュウカラ類,キビタキ用とし
て,ha当たり数個以上とします。
フクロウ類にも巣箱が効果があります。
アカゲラは自分でほった穴に営巣しますので,穴のあいた巣箱は利用しません。穴を
あけていない巣箱で試してみませんか。
「森に棲む野鳥の生態学」由井正敏著 創文 抜粋
THE END
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