14e 森に棲む野鳥の生態学〈森林の鳥類群集の生息実態〉
森林の鳥類群集の生息実態〈森林施業の影響〉
〈ブナ林の施業〉
ブナ天然林地帯で行われている様々の施業が鳥類群集に及ぼす影響を,岩手・秋田両
県にまたがる八幡平において記図法センサスにより調査しました。
皆伐新植の場合ははじめは密度,種類数ともほぼゼロになることが分かりました。そ
の後スギの成長につれ鳥類群集の豊かさは徐々に増加しますが,元の天然林のレベルに
はほど遠いです。広葉樹を混交して階層構造の発達した林に仕立てるにはまだ数十年の
歳月がかかるでしょう。
調査区別の鳥類群集に占める林縁性鳥種の優占度は次の表のとおりです。
ブナ林地帯の施業形態による林縁性鳥種の優占度の違い
調査区と林相 林縁性鳥種の優占度%
玉川ブナ天然林区 5.6
田山二次林区 9.0
玉川30%択伐区 16.3
玉川80%皆伐保樹保残区 34.8
スギ若齢人工林区 92.0
スギ皆伐新植区 100.0
〈下刈,除間伐の影響〉
下刈シタガリは温帯では雑草木が貯えていた養分を吐き出す6月中旬から夏に行われま
すが,その時期にはまだ多くの野鳥が営巣しています。ウグイス,アオジ,ホオジロ,
アカハラ,モズなど林縁ブッシュ性の野鳥の巣は,年々莫大な数が下刈によって破壊さ
れていると想像されます。地面に巣を造るキジやオオジシギなども被害を受けます。
スギやヒノキ人工林の間伐カンバツの手遅れになっている若齢林では,樹冠がうっ閉し
て林内が真っ暗で下草も生えないので,繁殖する野鳥はほとんど居ません。早く間伐し
て林内に光を入れ,下草木を生やして林地を保護し,同時に野鳥も棲めるようにして欲
しいものです。
人工林の保育不足や不適地造林のため不成績造林地になりますと,カンバ類やナラ類
が侵入してしてきます。このような場合は無理をして単純林に誘導するよりも,針広混
交のままその林地に適した優良木を育てた方が,林業上も野鳥のためにも好ましいと考
えます。
〈伐採作業,林道工事等の影響〉
伐採作業は,伐採対象の林に棲んでいる野鳥に根こそぎ影響を与えます。またその周
辺の鳥にも影響を与えます。周辺の林には伐採地を追われた鳥が侵入して,縄張り争い
が激化します。伐採により林縁ができるので林縁性鳥種が進出し,純森林性鳥種と競合
します。
伐採による隣接環境の変化,あるいは伐採音や人・車の出入りを嫌ってイヌワシ,ク
マゲラなどの警戒心の強い鳥は巣を放棄します。林道やダム工事の騒音も同じように影
響を与えます。また林道開設によって林縁性鳥種が上昇分布します。
伐開地ができることでビンズイにように一時的に生息条件が好転する野鳥もいますが,
そのメリットは森林生態系全体からみればごくわずかです。伐開地に発生する昆虫を狙
ってハリオアマツバメ,イワツバメなどが上空に群れをなしたり,残された枯れ木にノ
スリ,ハイタカなどが止まってノウサギ,ノネズミを狙うこともありますが,これは一
時的な補償作用であり,生息環境の環境の森林そのものが減少する影響の方が大きいで
す。
森林の鳥類群集の生息実態〈都市近郊の鳥類群集〉
〈単純な鳥種構成〉
住宅の密集した都市内部に棲みつく野鳥の種類は,繁殖期において数種,冬季で12種
程度で森林に比べて非常に少ないです。冬季に多くなるのは,主に庭先の木の実,餌台
の食物を求めて冬鳥,漂鳥などが来ることによります。
都市に優占する野鳥の種類
(繁殖期)
都市・文献NO. 帯広(26) 宇都宮(55) 北九州(115)
優占種第1位 スズメ スズメ スズメ
2 ドバト ムクドリ ツバメ
3 ハクセキレイ ヒヨドリ カワラヒワ
4 カワラヒワ キジバト ヒバリ
5 ハシボソガラス カワラヒワ ホオジロ
6 トビ オナガ ドバト
(冬季)
都市・文献NO. 宇都宮(55) 逗子(139) 北九州(115)
優占種第1位 スズメ スズメ ツグミ
2 ムクドリ ヒヨドリ スズメ
3 ヒヨドリ ドバト ヒヨドリ
4 キジバト ムクドリ ドバト
5 カワラヒワ トビ メジロ
6 ジョウビタキ メジロ カワラヒワ
スズメ,ムクドリ,ドバト(野鳥?),ヒヨドリ,カワラヒワなどがいつでもどこで
も多いです。特にスズメが多いですが,スズメは夏冬を問わず人家の多さに依存して密
度を高めているのです。
都市に緑が多くなるとモズ,シジュウカラ,メジロなど森林やその周辺を好む野鳥が
次第に増えてきます。
近年東京都内にコゲラ,アオゲラなどキツツキ類の進出が目立ちます。戦時中に減少
した緑がその後徐々に回復し,特にキツツキ類が巣穴を造る中・大径広葉樹が育ってき
たものと考えられます。キツツキ類が都市に豊富に棲みつくためには,都市周辺にその
母体群となるキツツキが多いこと,つまり広葉樹大径木のある森林が広く残っている必
要があります。
〈緑被率と鳥類群集の関係〉
神奈川県逗子市において都市の緑と野鳥の関係について,いわゆる俗化鳥(スズメ,
ドバト,ムクドリ,カラス類)を除いた出現鳥種数を調査しました。樹木の占める割合
が多ければ,野鳥の種類数が増加することが分かりました。この傾向は栃木県宇都宮市
での夏と冬,北海道帯広市での夏の調査でも報告されています。
逗子市での調査では緑が多ければ単純に多様性が増えるわけではなく,異質の林がモ
ザイク状に組み合わされるほど,冬季の鳥類群集の多様性は大きいです。
俗化鳥は市街化が進むほど種類数,密度とも増える傾向にあります。都市周辺に棲み
つくようになったチョウゲンボウやオオタカは,不自然に増えてきたドバトやスズメな
どを餌にしています。
「森に棲む野鳥の生態学」由井正敏著 創文 抜粋
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