14a 森に棲む野鳥の生態学〈森林の鳥類群集の生息実態〉
 
       早池峰山の繁殖鳥類の標高的棲みわけ
 
  小型ツグミ類  ルリビタキ − コマドリ − コルリ
  大型ツグミ類  マミジロ − アカハラ − (クロツグミ)
  ムシクイ類   メボソムシクイ − エゾムシクイ − センダイムシクイ
  シジュウカラ類 ヒガラ − シジュウカラ − ヤマガラ
  小型カラス類  ホシガラス − カケス − (オナガ)
 
〈垂直分布の変化〉
 日本の繁殖期の森林では,気象条件の標高的な違いよりも,そこに生息する植生の違
いが大きく影響すると考えられます。
 日本の森林植生は大きく分けて,
 
 ヤブツバキクラス域  (暖帯常緑広葉樹林帯)
 中間域        (暖温帯落葉広葉樹林帯)
 ブナクラス域     (冷温帯落葉広葉樹林帯)
 トウヒコケモモクラス域(亜寒帯針葉樹林帯)
 
の四つですが,これらの分布は北に行くほど分布標高は低下します。それにつれて固有
の森林タイプを好む鳥種の分布も下降します。
 例えばハイマツ林に生息するカヤクグリという日本特産種やブナ帯上部以高で繁殖す
る夏鳥のメボソムシクイの分布は次のようになっています。
 
        地方別繁殖期の分布の違い
 
    〔カヤクグリ〕         〔メボハムシクイ〕
  中部地方    2000m以上    日本アルプス  1500m以上
  尾瀬      1800m 〃     富士山     1200m 〃
  八幡平・早池峰 1550m 〃     尾瀬      1200m 〃
  大雪山     1400m 〃     八幡平     1100m 〃
  斜里岳     1000m 〃     下北恐山     800m 〃
 
 夏鳥は秋には飛び立ち,漂鳥は寒さが増すにつれて下降し,留鳥のシジュウカラ類,
キツツキ類,キクイタダキ,ホシガラスなども移動下降するなど季節的にも垂直分布は
変化します。
 森林の人工林化など人為的要因により,例えば俗化鳥(ハシブトガラス,ムクドリな
ど)の上昇分布があります。
 
〈森の中の棲み分け〉
 ホオジロ属の例では,近縁種間における生息環境(ハビタットという)の棲み分けを
しています。ホオアカ,ホオジロ,ノジコ,アオジ,クロジの順に上昇しますが,これ
らは採餌,営巣場所,ソングなどほぼ共通の生活スタイルを持っています。したがって
同じ地域に生息する(同所的という)ためには,ハタビットや採餌層を少しずつ違えて
(生理的隔離,又はニッチを異にするという)生活する必要が生じたわけです。
 次に岩手県早池峰山のウグイス亜科に属する鳥ではキクイタダキが針葉樹の樹冠外側
に,メボソムシクイが針広を問わず林の内部に,エゾムシクイが谷斜面から林の中・下
層に,ウグイスが林縁を中心に各々棲み分けています。小型ツグミ類ではコマドリが針
葉樹林谷斜面に,ルリビタキが樹冠上部でソング(雌は通常林床で活動している)し,
コルリはブナ林下層に棲み分けています。シジュウカラ類はヒガラが針広を問わず樹冠
上部に,コガラが同じく幹よりの内部に,シジュウカラは広葉樹の林内中・下部に棲み
分けています。さらに針葉樹幹はキバシリ,広葉樹幹にはゴジュウカラといった棲み分
けもみられます。
 
〈グループ組成の類似〉
 異なる地方や異なるタイプの森林に形成される鳥類群集は,その構成種は違っていて
も類似した生態的地位を占め(ギルドという),いくつかの定まった鳥のグループが必
ずといってよいほど存在します。
 
            森林別採食ギルド構成種
 
採食ギルド  大雪山針葉樹林    秋田玉川ブナ林    水俣常緑広葉樹林
 
林内枝葉   ヒガラ,コガラ,キク ヒガラ,コガラ,シジ ヤマガラ,エナガ,シ
       イタダキ       ュウカラ,エナガ   ジュウカラ     
 
林内空間   サメビタキ,キビタキ キビタキ,オオルリ  オオルリ,サンコウチ
       ,オオルリ                 ョウ,キビタキ,コサ
                             メビタキ
 
樹幹     ゴジュウカラ,アカゲ オオアカゲラ,アカゲ コゲラ,アオゲラ,オ
       ラ,コゲラ,クマゲラ ラ,ゴジュウカラ,キ オアカゲラ     
                  バシリ,コゲラ              
 
地上ブッシュ ルリビタキ,ウグイス クロジ,ウグイス,ミ ヤブサメ,トラツグミ
       ,ミソサザイ,コマド ソサザイ,コルリ,ヤ          
       リ,コルリ,クロジ  ブサメ,マミジロ             
 
上空     アマツバメ      イワツバメ,ハリオア サンショウクイ  
                  マツバメ                 
 
雑食     ハシブトガラス    ハシブトガラス    ハシブトガラス   
 
毛虫     ツツドリ       ジュウイチ      ツツドリ      
 
種実     ホシガラス,キジバト カケス,ウソ,キジバ ヒヨドリ,イカル,ア
       ,マヒワ,ウソ,イス ト          オバト,カケス   
       カ                               
 
猛禽     ノスリ        ハイタカ       サシバ,フクロウ  
 
 
 上記は繁殖期の鳥類群集の思惟採食ギルド別構成種です。
 採餌習性のギルドの分化がすすむと,類縁関係がないのに体の大きさや嘴クチバシの型
まで類似してきます。これを収斂シュウレン効果といい,生物が限られた資源を有効活用す
るように競合し適応分化した結果は,どこの林をとっても類似した鳥の社会構成に落ち
着くことを示しています。
 地域ごとの種の形成,絶滅の経過が異なるためにバラツキがありますが,空いたニッ
チには近縁種の形質やニッチの拡充で補充されます。キツツキ類のいない小笠原諸島で
は,メグロが朽木に縦に止まってキツツキのようにふるまうとの報告もあります。
 
〈種類数と個体数〉
 富士須走での繁殖鳥類群集の等比級数則によれば,若齢林ではアオジ,ウグイス,ア
カハラの3種が70%を優占しているのに対し,壮齢林ではシジュウカラ,アカハラ,コ
ルリが50%を優占しています。
 富士山のミズナラ林帯における繁殖期と秋冬季のラインセンサスデータを用いた対数
正規則によれば,個体数が中位を示す種類の数が群集の中では多く,個体数のごく少な
いものとごく多いものは群集の中では少ないという関係が分かります。
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