14b 森に棲む野鳥の生態学〈森林の鳥類群集の生息実態〉
 
〈バイオマスと摂食量〉
 全種合計個体数に占めるある種の個体数の割合を優占度といいます。次の表は,繁殖
期に縄張り記図法によるデータをもとに,優占上位3種と,体重100g以上の大型鳥(主
にハト,キジ,カラス,カッコウの仲間と猛禽類で,どれも優占3種には入らない)な
どの合計優占度,及び体重でみて合計優占度(全体重に占める各グループの合計体重の
割合)を計算してみたものです。
 
         グループ別の個体数と体重の優占度
 
          〔優占3種〕     〔大型鳥〕      〔その他〕
         優占度% 体重%   優占度% 体重%   優占度% 体重%
 
岩手田山ブナ林   43.9     19.6         11.0     50.3         45.1     30.1
志賀針葉樹林    46.9     16.7          6.2     49.2         56.9     34.1
水俣常緑広葉樹林  54.2     19.2          9.8     62.2         36.0     18.6
富士須走壮齢人工林 46.9     32.3          8.2     47.5         44.9     20.2
 〃  若齢人工林 68.0     44.2          4.8     36.5         27.2     19.3
 
〔平均〕      52.0     26.4          8.0     49.1         40.0     24.5
 
 上の表によると優占3種において個体数が多いが,バイオマスでみた現存量はごく小
数の大型鳥が半分を占めています。
 
           グループ別摂食量の比率%
 
          〔優占3種〕〔大型鳥〕〔その他〕
 
岩手田山ブナ林       28.4       34.7      36.9
志賀針葉樹林        40.9       26.5      32.5
水俣常緑広葉樹林      33.3       40.0      26.7
富士須走壮齢人工林     40.4       31.0      28.6
 〃  若齢人工林     56.5       20.2      23.2
 
〔全平均〕       39.9       30.5      29.6
 
〔若齢林を除く平均〕    35.7       33.1      31.2
 
 上の表によると成熟した森林においてはその地域に最も適した少数の優占種と,いく
つかの特有の大型種,さらにその中間的な鳥種が必ず生息し,その三つのグループが餌
資源の流れを結果として三等分した形で生活していることを示しています。
 繁殖期の優占種はおおむね食虫性か雑食性の小鳥で構成されます。個体数の多さは,
消費する餌の生産量の多さと効率的な採餌能力に比例したものでしょう。こうした優占
種は多数種共存することはできません。大型種は猛禽や清掃屋,大型果実食者,毛虫屋
など少し変わった餌をとる種類で構成されています。その他の中間種は優占種や大型種
の利用しない餌やニッチなど,残された部分を利用するものと,主分布地から離れてご
く少数生息するもので構成されています。
 
 
森林の鳥類群集の生息実態〈鳥類群集のタイプ分け〉
 
〈類型は存在するか〉
 個々の鳥種は固有の天然分布範囲を持っており,主分布地域を中心に生息密度に傾斜
があります。しかし海峡による遮断とか気候を反映した植生の違いから,いくつかの種
がセットで分布範囲を定めている傾向があります。また優占種同士は相当広い面積にわ
たり重複して分布しています。特に優占種を中心として地域や森林タイプごとに,ある
範囲内は類似した構成の鳥類群集がみられるのです。
 類型化を行うことは,日本や世界の森林の鳥類群集がどのような優占種構成であるか
を一目で比較するのに都合がよく,森林生態系の中で重要な役割を果たす鳥類群集の保
護管理にとって,望ましい類型の指標を得るためにも是非必要なことです。
 
〈鳥類群集組成の安定性〉
 岩手山麓滝沢鳥獣試験地における12年間の調査では,はじめ多かったアカハラ,モズ,
クロツグミが減少し,キビタキ,ヤマガラが増えましたが,シジュウカラ,ヒヨドリ,
アオジの上位3種の優占は変わっていません。
 富士須走においては,若齢林では優占上位3種はアオジ,ウグイス,アカハラで4年
間変わっていません。壮齢林でははじめの3年間はシジュウカラ,アカハラ,コルリで
したが,その後シジュウカラ,コルリ,ヒガラに変わりました。また若・壮齢林ともキ
ビタキ,センダイムシクイを含め純森林性の鳥が増加しました。壮齢林では,林の構造
事態が大きく変化し,別の林相タイプに遷移しつつあるためであると考えられます。
 
〈繁殖期群集の類型〉
 類型化は群集間の種類別個体数の優占度構成の類似性を類似度指数を用いて計算し,
クラスター分析により行います。方法はホイッターカーの類似度指数と群平均法による
デンドログラム化です。ここでは日本各地の先験的に大別した九つの森林タイプごとに
行いました。
 
          繁殖期の類型別優占種及びグループ優占度
 
番 類型名(略称)         鳥類群集名           優占度%
号             1位      2位    3位   夏鳥 カラ類
 
1 北・ハイマツ岩礫 ビンズイ     ノゴマ    カヤクグリ 33.19   0   
2 本・ハイマツ岩礫 カヤクグリ    イワヒバリ  ビンズイ   7.99   1.05
3 ダケカンバ    ルリビタキ    ウグイス   メボソムシクイ    21.70  13.57
4 北・亜寒帯針天  ヒガラ      マヒワ    コガラ    18.61  23.82
5 本・四・亜寒帯針天 ヒガラ      メボソムシクイ      ルリビタキ  21.35  28.69
6 北汎針広混    アオジ      ヒガラ    キビタキ   32.39  23.14
7 苫小牧地方    センダイムシクイ ホオジロ   アオジ    45.89  16.54
8 本・中北ブナ   シジュウカラ   ヒガラ    キビタキ  24.23  40.56
9 西南ブナ     ヒガラ      ゴジュウカラ コガラ    3.93  68.21
10 ミズナラ     キビタキ     センダイムシクイ     シジュウカラ     33.45  26.00
11 温針天      ヒガラ      シジュウカラ       ヤマガラ    14.19  55.02
12 クヌギ・コナラ  ヒヨドリ          シジュウカラ    ホオジロ    20.67  20.35
13 シイ・カシ・タブ ヒヨドリ          ヤマガラ   シジュウカラ   11.12  26.68
14 冷温壮単人    ヒヨドリ          ホオジロ   ヒガラ      10.08  18.72
15 冷温壮人・広   コルリ           ヒガラ    シジュウカラ     33.73  29.67
16 冷温壮人・疎   アオジ           ヒガラ    アカハラ    16.02  26.57
17 暖壮単人     ヒヨドリ          ホオジロ   カワラヒワ   7.45  14.51
18 暖壮人・広    ホオジロ          ヒヨドリ   メジロ     9.84  12.68
19 暖壮若人     アオジ           ウグイス   ホオジロ    9.71   9.83
20 暖若人      ウグイス     ホオジロ   モズ      1.88   4.65
 
 ハイマツ,ダケカンバ帯と亜寒帯針葉樹林を除くと,ヒガラ,シジュウカラ,ヤマガ
ラ,ウグイス,キビタキ,ホオジロ,アオジ,ヒヨドリの8種は広く優占することが分
かります。つまりこれら8種は日本の暖・温帯の繁殖期の森林鳥類群集の基本構成種と
見なすことができます。
 夏鳥は西南日本を除く落葉広葉樹林で合計優占度が高く,北海道の汎針広混交林や苫
小牧及び温帯の広葉樹を混えた壮齢人工林にも多いです。これは初夏に落葉樹林で爆発
的に餌が増加するためです。
 一方シジュウカラ類は温帯に分布の中心性を持つことが示されています。
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