13b 森に棲む野鳥の生態学〈森を守る野鳥たち〉
〈天敵効果のまとめ〉
野鳥による種々の害虫の捕食例
アメリカシロヒトリ 各種小鳥 捕食率 52〜91%
トウヒノシントメハマキ アメリカムシクイ類 20〜40
カラマツハバチ 各種小鳥 65
ハモグリバエ アオガラ 62
マツノオオキクイ キツツキ類 50
トウヒキクイムシ 〃 85
エンゲルマンモミキクイ 〃 98
これらの数値から,森の野鳥は森林害虫を相当のレベルで捕食していることが理解で
きます。
何百,何千と卵を産む昆虫に対し,せいぜい10個ぐらいしか卵を産まない野鳥が,そ
の増殖力だけで害虫の大発生に太刀打ちすることは,もともと無理な話です。野鳥によ
る害虫の制御は,潜伏発生期とそれが増加に向かう初期の段階でのみ可能です。そのた
めには高密度多様な鳥類群集が恒常的に生息し,ランダムな捕食によって害虫の密度を
常に潜伏発生のレベルに抑えることと,害虫の局所的な増加に対し密度依存的に集中捕
食する作用が働かなければなりません。そしてその作用の存在はこれまでの説明でほぼ
証明されたといえます。
森を守る野鳥たち〈種子散布者としての野鳥〉
〈野鳥の好む種子〉
野鳥は様々の植物の種実を食べています。世界の野鳥の仲間には穀物食の鳥,種子食
の鳥,果実食の鳥などどういった種実を好むかによるグループ分けまであります。日本
でも穀類を好むスズメ,雑草の種子を好むホオジロ,ベニマシコ,ドングリを好むカケ
ス,ヤマドリ,柿や梨を好むムクドリ,オナガなど,鳥の嘴の型や大きさ,棲み場所な
どによって,好んで食べる種実の範囲が異なる例がみられます。しかし結実期が比較的
限定される温帯では,食べる種実の範囲は相当部分ダブッていて,他の餌が無ければ無
理しても食べることがあります。
野鳥の食べる種実
ア ア オ オ カ カ カ キ キ コ シ ジ ツ ヒ ム ヤ ヤ レ
カ カ シ ナ ケ ラ ワ ジ ジ ム ジ ョ グ ヨ ク マ マ ン
ゲ ハ ド ガ ス ス ラ バ ク ュ ウ ミ ド ド ガ ド ジ
ラ ラ リ 類 ヒ ト ク ウ ビ リ リ ラ リ ャ
ワ ド カ タ ク
リ ラ キ 類
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アカマツ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
イチイ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
サンショウ ○ ○ ○ ○ ○ ○
エゴノキ ○ ○ ○ ○ ○ ○
ガマズミ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
クロガネモチ ○ ○ ○ ○ ○ ○
クワ ○ ○ ○ ○ ○ ○
コナラ ○ ○ ○ ○
シキミ ○ ○ ○ ○
スダジイ ○ ○ ○ ○
ナツグミ ○ ○ ○ ○
ナナカマド ○ ○ ○ ○ ○
ニワトコ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
ハゼノキ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
ヒサカキ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
マサキ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
ムクノ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
ヤマザクラ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
野鳥が食べる木の実の味は人間にとっても美味しいものでしょうか。シイノミ,クリ,
グミ,クワ,ムクノキ,ウグイスカグラ,ヤマブドウなど確かに美味しいものも多いで
す。しかしドングリ,クロガネモチ,サンショウなど渋味,苦味,辛味に富むものも多
いし,野鳥がよく食べるガマズミ,サクラの実なども必ずしも美味しいとはいえません。
ウルシやシキミ,エゴノキなど人間がおじけをふるうものまで野鳥はよく食べています。
果樹園のブドウを襲うムクドリは熟して甘くなった木から順にたべるといわれています。
色に対する好みはどうでしょうか。野鳥が好む漿果類ショウカルイをみると,ガマズミ,ナ
ナカマド,ニワトコの赤色やツルウメモドキ,トキワサンザシ,柿など橙色のものが圧
倒的に多いです。しかしクワの熟したものやマサキ,クロガネモチ,ヒサカキなど黒色,
黒紫色のものを食べます。薄紫色のムラサキシキブの実を食べますが,一般には薄紫の
漿果は山野に多くはありません。
ダイズ,トウモロコシに異なる色を塗って野鳥に食べさせた実験では,
良く食べる色 褐,赤,黄
普通の色 黒,青,白
嫌う色 紫,緑
となっています。この結果は,実際に野鳥が好む漿果の色の順におおよそ合っています。
森の野鳥は前述した動物質の餌のほか,6〜7月ごろから結実する多くの木の実を餌
として生きています。特に昆虫類が少なくなった秋冬季には木の実が野鳥の重要な餌と
なります。ヨーロッパのシジュウカラはブナの結実の悪い年の翌春には,繁殖つがい数
が減ることが知られています。昭和61年の冬に本州以南で多くのギンザンマシロの初飛
来が報告されましたが,これはこの鳥の好む針葉樹の実の不作が関係しているとみられ
ます。このように野鳥は森の木の実に強く依存して生きているわけですが,それでは木
の実は単に野鳥の餌として消費されるだけなのでしょうか。
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