13a 森に棲む野鳥の生態学〈森を守る野鳥たち〉
〈マツノマダラカミキリとキツツキ類〉
マツノマダラカミキリは,マツの材線虫病の媒介者であるため,その防除対策として
薬剤のほか,材線虫病抵抗性育種,カミキリ誘引物質の開発,線虫やカミキリを殺す様
々の天敵の研究が進められています。その一環としてキツツキ類が登場することになり
ました。
キツツキ類は枯木に潜むカミキリやゾウムシの幼虫をよく食べることは知られていま
すが,マツノマダラカミキリの幼虫の捕食は従来ほとんど知られていませんでした。昭
和50年に宮城県石巻市で,枯れたマツにキツツキ類の食べた跡があることが分かり,そ
の後の調査ではアカゲラ,コゲラ,オオアカゲラなど多くのキツツキがマツノマダラカ
ミキリの材内幼虫を捕食していることが確認されました。
キツツキ類は樹皮をはがし,材入孔から舌を延ばして蛹室の真上から穴をうがって幼
虫をとります。幼虫がいること,及び幼虫が生きていることを正確に察知しますが,そ
のメカニズムは分かりません。
キツツキ類のなかでもアカゲラの捕食率が高く90〜100%です。アカゲラの嘴はコゲ
ラ,アオゲラより頑丈で硬いマツの材内にいる幼虫をほりだすのに適しているからです。
アカゲラは1日に64頭の材内線虫を捕食します。
また多くの野鳥は,マツノマダラカミキリ成虫を捕食することが明らかになっていま
す。
キツツキ類によるマツノマダラカミキリ捕食率の調査データ
県 地 名 捕食率%(*印は人為寄生木にせるデータ)
岩手 滝沢鳥獣試験地 100.0*
岩手大学演習林 100.0*
林試東北支場内 89.0*
一関市ウトガ森 87.0*
岡山 蒜山 91.9*
秋田 県林業センター内 92.0*
秋田市向浜 58.2
天王町 45.3
愛媛 小田町 55.0
福島 郡山市 35.6*
いわき市 10.3
宮城 石巻市 8.1
金華山 38.3*
山形 山形市 31.1
鳥取 郡家町 4.0
岩美市 0.0
高知 浦ノ内町 0.0
愛知 瀬戸市 0.0
アカゲラの生息と捕食率の高さ
調査地 捕食率% アカゲラの生息地
石巻市楯ノ山 8.54
石巻市同北1.5km 23.75 ○
石巻市佐須浜 2.72
石巻市小竹浜 0
石巻市くるみ浜 4.30
金華山 38.30 ○
山形市盃山 28.20
山形市風間 22.20
山形市営林署内 14.80
山形市金勝寺 59.20 ○
〈鳥類群集の捕食能力〉
害虫の通常密度の時の捕食レベルを明らかにするために,岩手山麓の滝沢鳥類試験地
において,鳥類群集全体による食葉性昆虫幼虫類への捕食率を推定してみます。対象時
期は広葉樹の開葉の進んだ5月中旬から6月末とし,その間に生産された幼虫量をそこ
で繁殖している全野鳥の親鳥と巣雛がどのくらい食べるか,つまりバイオマス換算の捕
食率を推測するものです。巣雛は各鳥種のつがいがその間1回は育てあげることとしま
す。この捕食率を明らかにするためには,幼虫生産量と繁殖つがい数及び巣雛と親鳥の
幼虫捕食量を求める必要があります。
この期間の幼虫生産量121.26乾kgに対する鳥類群集全体によるバイオマスとしての捕
食率は30.0%となりました。この値は,制御可能な一定レベルの捕食率の範囲にぴった
り収まります。また,もし6月15日までにすべての繁殖つがいが1回目の巣立ちを終え,
多くの若鳥が巣立っておりその餌内容が親鳥と同じとすれば,6月末までの15日間に24.
5kgのガ類幼虫を食べることになります。親雛若鳥を合わせた総捕食率は約50%に達する
ことになります。
因みにこの試験値のシジュウカラ個体群が捕食するガ類量を計算してみると,親雛若
鳥を合わせて6月末までに平年で17.1kgとなり,鳥類群集全捕食量の26%に達します。
この例の平年密度は21つがいです。
滝沢全生息鳥の親と雛による幼虫類の重量捕食率(28ha当たり)
幼虫当初現存量 14.26 kg
5月中旬〜6月幼虫生産量 121.26 〃
合計幼虫量A 135.52 〃
-----------------------------------
親鳥による幼虫総摂食量 36.69 〃
雛 〃 3.94 〃
合計摂食量B 40.63 〃
-----------------------------------
捕食率 B/A 30.0 %
〈ノウサギとイヌワシ〉
ノウサギは若い造林木や天然林の稚樹を食害し,餌不足の時には幹までかじって若木
を枯死させます。特にスギ,ヒノキ,アカマツの1〜5年生の実生苗ミショウナエ,コナラ,
ブナ,サクラなどの稚樹の食害が目だちます。防除法はにんにく用ポリネット袋の被覆
,アスファルト乳剤やチウラム剤にラノリンを併用した忌避剤の展着,くくりわな,猟
銃による捕獲などがありますがなかなか手間がかかります。
ノウサギの死亡要因は,狩猟,飢え,病気,キツネ・テンの捕食のほか,オオタカ,
ノスリ,クマタカ,イヌワシ,フクロウなどの猛禽類による捕食があります。
イヌワシによるノウサギ制御能力を試算してみます。イヌワシの1年の潜在能力をノ
ウサギ156頭とし,イヌワシの一つの縄張りのなかにつがいと1羽の若鳥がいるとする
と合計468頭のノウサギを1年で捕食する能力があることになります。
若い造林地では,ha当たりノウサギ0.5頭以上で被害が発生するとの調査例がありま
す。この被害地域のノウサギ密度をha当たり0.25頭に下げればよく,イヌワシの1家族
は 468 ÷ 0.25 = 1872 ha の地域のノウサギ制御の潜在能力を持っていることにな
ります。イヌワシ1つがいの平均行動面積は約5千haで,このなかにはノウサギが生息
しない環境も多いことから,イヌワシがノウサギ個体群に与える影響は少なくないと考
えられます。
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