12d 森に棲む野鳥の生態学〈森の野鳥の暮らし向き〉
 
〈雛の食べる量〉
 イギリスのシジュウカラ8羽の例では,孵化から巣立ちまでの約17日間に合計約4000
回の給餌が行われ,乾燥重量で約90gの餌が運ばれたといいます。
 一つの巣に雛が多いと,1羽当たりの給餌量は少なくてすみます。これは体熱消費量
の合計が雛数に比例せず,雛全部の塊りの表面積に比例するからです。また冷夏のとし
は給餌量は多いが,九州のシジュウカラの調査報告によれば,気温が高すぎると逆に雛
の摂取量が多くなるといいます。
 親は雛の空腹状態をよく知っていないので,,雛が空腹になって鳴き騒いでいる間は
餌を運ぶ仕組みになっています。雛のうちどの雛が一番空腹かは,その雛が最も鳴いて
口を高く突き出すことで分かるのです。
 
                               雛の総給餌量
 
          成鳥の 1巣 1巣当た 1雛当た 餌に占める蛾類重量比
  鳥種      体重  雛数 りの総摂 りの総摂  幼虫  成虫
            g   羽 食量 g  食量  g    %   %
 
  イカル       63      3     43.71     14.53     94.41    0.13
  ヒヨドリ      67      3     81.57     27.19      1.10   11.50  
  シジュウカラ    16      8     90.00     11.25     63.70   16.32
  アオジ       21      5     58.08     11.62     66.01    4.77
  アカハラ      66      4    177.91     44.48     38.23    4.37
  クロツグミ     61      4    227.33     56.83     16.22    0.57
  ヒガラ        9      9     84.47      9.43     60.71    1.10
  キビタキ      15      4     57.70     14.42     28.76   13.25  
  サンコウチョウ   22      3     32.04     10.68      1.03   13.64
 
〈親の餌と雛の餌〉
 シジュウカラの親は,餌とりが忙しく,また1回に1匹しか運ばないので,自分が食
べる餌より大きい餌を巣に運びます。ガの成虫もよく雛に与えますが,蝶はほとんど与
えません。
 シジュウカラは林内中下層を中心とする茂みを探索して採餌すること,キビタキはも
っぱら林内中層で空中を飛ぶ虫や枝葉につく虫に飛びついて採餌すること,ヒヨドリは
林の上中層の茂みのなかを探索するほか様々の方法で餌をとります。
 ある地域に存在する鳥類群集の鳥種は,他種との競合関係のもとで,住みつく環境,
林相あるいはその微細構造,さらに繁殖時期と営巣場所,林内活動空間と採餌法(嘴クチ
バシの型、体の大きさの違いも含めて)などを違えて生活しています。したがって必然
的に出会う餌資源が限定され,各鳥種特有の餌内容構成となってきます。これらの生活
スタイルの違いを総称して生態的地位(ニッチ)が異なるといいます。
 このように採餌方法,種間競合などにより,親と雛との餌内容は似ています。
 
       野鳥の親と雛の餌の乾燥重量構成%
 
           シジュウカラ   キビタキ     ヒヨドリ
  餌内容       親鳥  雛    親鳥  雛    親鳥  雛
 
  鱗翅目幼虫  69.1  57.0    51.8  33.8    20.3   0.9
   〃 蛹          4.1                         0.5
   〃 成虫  11.4  19.4     3.0  15.6     8.2  20.3
  双翅目成虫   1.4   3.1           9.3     4.1   5.4
  直翅目成虫         0.8                  20.0  22.7
  鞘翅目幼虫                                 2.7      
  トンボ                                        4.8
  アリ                    5.9                    
  ハチ                                  5.6      
  クモ           11.1     3.5  21.6     0.9   2.4
  小型の虫   12.2   0.7    18.6   3.4     4.1   1.1
  中型の虫    5.9   3.8     4.1   4.8     4.4   5.1
  飛翔小型昆虫               13.1           1.7      
  〃 中型昆虫                              1.9      
  アマガエル                                     8.5
  カタツムリ                                     4.3
  植物質                        11.5    26.1  24.0
  ----------------------------------------------------
  観察実数     50   783      41    92      68   146  
 
〈食物の季節変化〉
 ヒヨドリは普通植物食ですが,冬には種子や葉を,繁殖期には昆虫をよく食べます。
シジュウカラは昆虫食で年間を通じて昆虫やクモなどの動物質を食べますが,冬期には
マツの種子など植物質をある程度利用します。
 針葉樹の毬果の中の種子をうまく取り出せるような食い違った嘴クチバシを持ったイス
カは,夏にはカラマツにつく虫やシラカンバの葉につくアブラムシを盛んに食べている
のが観察されます。
 
〈一日に食べる餌の量〉
 野鳥は小さな体に似ず大食漢です。
 動物は一般に諸活動のエネルギー源は,摂取した食物を吸入酸素と化合させて燃焼さ
せます。エネルギーの消費は,排出した炭酸ガス量を測定して調べる同位元素法により
ます。これは自由に活動する動物に重水素Dと酸素Oの同位元素からなる水分を注入す
ることにより可能となります。
 季節によって餌の量は変動します。温帯地域では繁殖期に比べ冬期は2〜3割は多く
餌を必要とします。
 以上により森林有益鳥類の代表であるシジュウカラが食べる餌の量を計算してみると,
体重16gのシジュウカラでは1日の摂取量4.2乾燥g,1年1533乾燥gを食べ,体長2
p,体幅3oの幼虫ですと1年に85,167頭を食べることになります。体重104gのカッ
コウですと,体長3p,体幅4oの毛虫を1年に約9万匹食べることになります。
 
            採食習性による分類
 
  餌の種類によるもの 餌の採り型によるもの 餌をとる場所によるもの
 
  肉食・屍食     追跡型        地上型
  昆虫食       拾食型        樹上型
  魚介食       啄木型        林内空間型
  果実・種子食    摘取り・吸入型    上空型
  花蜜食       待機型        水辺型
  草食        探索型        水中など
  プランクトン食   遊泳型
  雑食など      飛び込み型など
 
森の野鳥の暮らし向き〈野鳥の行動圏〉
[次へ進んで下さい]