12 森に棲む野鳥の生態学〈森の野鳥の暮らし向き〉
 
      森に棲む野鳥の生態学〈森の野鳥の暮らし向き〉
 
森の野鳥の暮らし向き〈インフォメーション〉
 
 現在地球上に生息している鳥の種類は約九千種類ですが,そのうち日本で記録されて
いるものは約520種余です。昆虫や植物の種類に比べればはるかに少ないが,日本での
哺乳動物は130種余ですので,これよりは大部多いです。これらの野鳥が山頂から海岸
までのあらゆる環境に棲みつき,様々の色形,鳴き声を持って私共を楽しませてくれま
す。よく似た種類もあるが,その選好する環境条件は必ずどこか違っています。
 森林及びその周辺に生息する種類は,前に述べたように約145種で,渡り鳥を除く87
種は一年中日本に生息します。そのうち一生ほぼ同じ地域に留まるものが流鳥リュウチョウで
51種,寒い時期には山から里へ,北日本から南日本へと国内を移動する漂鳥ヒョウチョウが36
種あります。しかし渡り鳥とか留漂鳥という分け方は便宜的なもので,夏鳥といわれる
クロツグミが冬に西南日本にかなり残っていたり,留鳥といわれるシジュウカラが冬に
国内をかなり移動しているような例が多いです。
 同じ種類でも地方によって大きさ,羽の色,囀サエズり(ソング)が違う場合がありま
す。特に羽の色や大きさの異なるものは亜腫として区別され,それが長年にわたり地域
的に隔離されていると,新しい種に分化することもあります。
 野鳥は人間と同じ恒温動物ですが,生物の中では最も高く,40度プラスマイナス2度
を保っています。これは野鳥が本来空を飛ぶ生活に適応し,普通冬眠をしないという性
質に由来するもので,エネルギーの消費が多く,そのため大食漢でもあります。体の大
きさに比べ頭と眼が大きく,かなりの知能を有し遠眼が効きます。夜間専門に活動する
鳥や夜に渡りをする鳥がいることから分かるように,鳥眼で夜はまったく見えないとい
うことはありません。ただし匂いの感覚は一般に劣っています。
 マクドリやカラスの大群をよく見かけますが,モズ,ジョウビタキなど孤独性の強い
一部の鳥を除き,大半の野鳥は一年のうちのある時期に群れ生活をします。同一種の群
れの場合もありますし,数種が集まった混群の場合もあります。群れることにより,効
率的に餌を探したり,接近する敵をすばやく察知したり,つがい相手を見つけ易くする
メリットがあります。
 野鳥の暮らし方やそれを既定する要因など野鳥の生活スタイルは種ごとに特徴があり,
それが様々の種の存在する理由でもあります。
 
 
森の野鳥の暮らし向き〈野鳥の一日〉
 
〈野鳥の仕事〉
 他の生物と同様,野鳥も自分が生き続けることと種族を増やすことを目的に日々の生
活を送っています。なかでも餌をとること,繁殖すること,休むことは生活の基本であ
り,そのために飛んだり,止まったり,鳴いたりします。
 餌をとるためには,探索,つつき出し,不要部分の除去,飲み込みの一連の動作があ
り,営巣期には雛へ運ぶ必要があります。一方排泄は簡単で総排泄孔という尾部の一つ
の穴から随時排出しますが,一部の鳥は不消化物をペリットとして口から吐き出します。
餌取りは普通自分の足,くちばしあるいは舌を用いて行うが,一部の鳥は道具を使いま
す。
 日本では水辺に棲むササゴイは発泡スチロールやくず片を水面に落とし,寄ってきた
魚を捕らえる例が報告されています。またカラスがクルミなど固い木の実を割るために,
空中からコンクリート道路に実を落として割っている例もあります。外国ではガラバゴ
ス島のキツツキフィンチというホオジロの仲間がサボテンの刺トゲや小枝を用いて,幹
にひそむ虫をほじくり出します。エジプトハゲワシはダチョウの卵を割るのに,石をく
わえて振り下ろして固い殻を割って中身を食べます。
 オーストラリアのキバタンというオウムの仲間は,小枝を用いて頭かきをします。
 繁殖のためには,普通はまず縄張りを持ってつがいを形成し,巣づくり,産卵,抱卵
ホウラン,育雛イクスウという手順を踏みます。繁殖は年1回のものと,年に複数回行うものが
あります。産卵は勿論雌が行うが,巣づくり,育雛は雄雌ともに行うものが多いです。
ただしカッコウ,ホトトギスの仲間は,托卵といって他の小鳥の巣に卵を産み,仮親に
雛を育てさせる性質があります。
 寝るためには暖かで天敵の来ない安全なねぐらを確保する必要があり,繁みの中や樹
海などで眠ります。木の枝に止まって寝るものでは,寝ていても木から落ちないように,
枝を掴んでしゃがみこむと足指が丸まって枝から外れないような筋の仕組みになってい
ます。
 寝る以外にも活動の合間には随時休息をとったり,そのほか体を清潔にするための水
浴び,砂浴び,蟻浴び,雪浴び,露浴び,雨浴びなどをします。また餌を食べる以外に
水を飲んだり,食べた餌を砂嚢ですりつぶすためのグリッド(砂石,貝殻など)を飲み
込んだりします。
 鳥類の最大の特徴は飛んだり,保温のための羽毛を持つことであり,その羽毛の手入
れも大事な仕事です。水浴び等で清潔を保つ以外にしょっちゅうくちばしや足で毛づく
ろいをします。そしてその羽毛は一年中同じものではなく,年に1回生え変わります。
これを換羽カンウといい,その時期には飛びにくくなるため,安全な所で静かに暮らして
いる場合が多いです。
 
〈ソングの日周変化〉
 野鳥の顕著な特徴の一つはソング(囀り)活動を行うことです。鳥類は他の動物と異
なり,咽ノドのところに鳴管メイカンという器官を持ち,様々な声を出すことができます。
小鳥の複雑美麗なソングは,その機能が最も発達したものです。小鳥は普段繁みの中に
隠れておりお互いの確認が難しいので,効率良くつがいを呼び寄せるために,良く通る
特徴にあるソングの発達が必要でありました。ソングのもう一つの意義は縄張り宣言で,
他個体の侵入を許さない範囲で,ソングによって皆に認知させることです。
 ソングを発するのは主に雄ですが,サンショウクイ,イカル.キジバト,コジュケイ
などの雌はやや小さめの声でソングします。カワヒラには縄張り防衛用と求愛用の異な
るソングがあるといいます。
 一方,キツツキの仲間は木叩き(ドラミング),ヤマドリなどは羽音(ホロを打つと
いう),カラスは地鳴き(コール)や身振りなどで自分の存在を他に知らせ,ソングら
しい発生をしません。
 モズは百舌鳥と書くように,十数種に及ぶ他の小鳥のソングを真似て組合わせ,自分
のソングにしています。
 ソング以外の鳴き声が地鳴きです。相手との交信のほか,警戒声,威嚇声などのパタ
ーンがあります。
 ソングは主に繁殖期によく聞かれますが,繁殖ステージの推移につれてソング頻度の
強弱がみられます。繁殖期以外でも秋の縄張りを確保するモズの高鳴きやホオジロのソ
ング,夏過ぎにトレーニングするウグイスの幼鳥,秋の好天にソングする冬鳥の群れな
どがあります。
 多くの野鳥のソング頻度が一日の時間帯で変化します。これを日周変化といいます。
 昼行性野鳥は朝方と夕方にソングする2山型のパターンをとります。早朝暗いうちに
鳴き出すのはホトトギスで,やや白んでくる頃からカッコウ,アカハラ,アオジ,だい
ぶ経ってシジュウカラ,キジバトなど,一番遅いのはソングではないがカラスとスズメ
です。ソングは太陽照度の変化によりますが,鳴き出す順序にもこのように違いがあり
ます。
 白夜状態になる高緯度地帯では2山型ははっきりせず,一日中やや低いレベルでソン
グ活動をします。
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