12a 森に棲む野鳥の生態学〈森の野鳥の暮らし向き〉
 
〈移動・給餌活動などの日周変化〉
 昼行性鳥類の鳥類標識調査(網を張って調査,バンディング)によると,朝方と夕方
に山があります。
 移動活動は,繁殖期におけるソングポスト(囀り場所)の移動,そして自分や雛の餌
とり,縄張り防衛,巣材運搬などの移動,秋には渡りと寝ぐらへの往復,餌とりが主で
す。水浴びは夕方にピークがある例があります。
 渡りの飛翔は一般的に,タカ類,ツバメ類,スズメ,アトリ,ホオジロの仲間は昼間,
ヒタキ類,ムシクイ類,ツグミ類は夜間です。
 渡りをする鳥は一般に,渡る少し前に採餌活動を停止して胃を空にし,身軽になって
飛び立ち,あとは体に蓄積した脂肪でエネルギーをまかなうといわれています。鳥類は
食べたものを排泄するまでに2時間位要します。
 フクロウ,ヨタカなど夜行性の鳥は,富士五湖の例ように人通りのまれな奥地では一
日中給餌をします。
 
〈目立ち易さの違い〉
 森の野鳥の日周活動リズムは,行動の内容,環境等によって様々のパターンをとりま
すが,人間の見聞きできる鳥の数,つまり野鳥の全体的目立ち易さも,そのパターンに
添った変化を示します。
 森のなかを歩いて野鳥の生息数を調べることを野鳥のセンサス(又は「バードカウン
ト」という。)といいます。ソング,コール,目撃などのセンサスで記録された野鳥の
数の日周変化は,繁殖期であれば日本中では同様のパターンを示します。
 一方,野鳥はその種類ごとに,また雄雌ごとに目立ち易さに違いがあります。一般に
雄は色形が綺麗で,雌は地味な色調をしています。また各鳥の棲む環境条件や生活スタ
イルの差異に由来します。例えばウグイスなどブッシュ(潅木,茂み)に棲む鳥は,地
味な色調を持つがソングが大きいです。開けた環境に棲むノゴマ,ノビタキなどは派手
な色模様を体の一部に持ち,遠くからも目立ちます。渓谷に棲むミソサザイは水音に負
けないように,体に似ず大きく長いソングを持ちます。
 センサスの記録数はこれらの種ごとの目立ち易さに左右されます。例えばよく目立つ
ヒヨドリと目立たないコサメビタキでは,1回のセンサスで同数記録された場合,その
林には両者が同じ密度で棲むのではなく,実際はコサメビタキの方がはるかに多いので
す。
 繁殖期以外のセンサス記録数の日周変化では,秋には早朝で多く記録され,冬は夕刻
に向けてほぼ直線的に減少します。
 
 
森の野鳥の暮らし向き〈野鳥の繁殖の生態〉
 
〈繁殖の時期〉
 日本の森林に棲む野鳥の多くは春から夏にかけて繁殖を行います。
 繁殖開始に至る鳥側の生理条件は,春先の日差しの伸びと温度上昇による繁殖気分の
昂揚と生殖器官の成熟です。しかし日差しが延び温度が上昇しても,卵を産み雛を育て
るのに必要な栄養源(餌)が多くならなければ具体的な繁殖活動には入れません。
 イスカのように針葉樹の種子を主な餌とするものは,日長や気温よりもむしろ餌その
ものの時期的豊凶に応じて,真冬でも繁殖を行います。一方,イヌワシ,フクロウなど
育雛に時間のかかる猛禽類では,2〜3月頃から産卵を行います。
 シジュウカラの例では,平均産卵開始日とその地域の平均気温(3月下旬〜4月中旬
)とは高い相関を持っています。また,イギリスの例ではシジュウカラの平均初卵日と,
雛の餌として重要なフユシャクガの幼虫量の各年のピークと高い相関を示します。シジ
ュウカラの産卵完了日から孵化までの抱卵日数は約13日で,雛が巣にいる時期と餌のピ
ークは重なっています。餌となる昆虫幼虫は主に食葉性鱗翅目幼虫です。
 
〈産卵数〉
 野鳥が1回の営巣で産卵する数を一腹卵数(クラッチサイズ)といいます。類縁種に
よって少産多保護か多産少保護の違いがあります。シジュウカラの一腹卵数は4〜14個
(イギリスでは18個の例があります。)の幅があります。
 一腹卵数の時期別変化では,アオジ(5→3個),シジュウカラ(10→7個)は季節
の進行につれて減少しますが,アカハラ(3〜4個)は繁殖期の最中にピークがありま
す。ヒガラは繁殖期間中あまり変化がありません。
 鳥類は通常産卵可能数より少なめの卵を産みます。これは親鳥が,異常な気温低下に
よる雛の飢え死になどに備えるためと考えられます。
 シジュウカラに関する外国の研究では,前述のほか前年生まれの若い雌に比べ,2〜
3年経った雌の方が一腹卵数が多いこと,遺伝的に多産な系統があること,親の繁殖密
度が高いと平均一腹卵数が減少することなどが明らかになっていますが,これらの要因
に餌の豊凶が絡んで一腹卵数の年次変化がみられるのでしょう。
 シジュウカラはイギリスでは1繁殖期に1回の産卵営巣をしますが,ヨーロッパ大陸
や日本では概ね6割程度が2回の産卵営巣をします。
[次へ進んで下さい]