09 ツバメの渡来〈渡来の仕組み〉
 
          ツバメの渡来〈渡来の仕組み〉
 
                   参考「私たちの自然1994 NO.392」
                         (財)日本鳥類保護連盟発行
 
〈なぜ渡る〉
 渡らない鳥もいるのに,渡り鳥は幾多の危険を犯してまでなぜ渡るのでしょうか。そ
れは,@渡るべくして渡る。そしてA氷河期の餌不足と寒気逃れで南へ避難したのが習
慣化(本能的)したのが一般的である,ということです。
 
〈どこから来るのか〉
 @わが国に春来て子育てするツバメについては,米軍駐在地におけるマッククルー氏
等のバンディング調査及び山階鳥類研究所の報告によりますと,わが国を故郷とするツ
バメの越冬地は,マレイ半島,フィリッピン,台湾となっています。このマッククルー
氏の報告では,タイで放鳥したものがシベリアまで行ったということです。
 また,八王子市によるバンディング調査(1955〜60年)では,アフリカでわが国の農
林省刻のあるバンドツバメが確認されましたので,わが国からアフリカへの大飛行をす
るものもあることが分かりました。
 Aわが国の西に位置する中国では,生物気象を物候学としてとらえ,植物の開花を主
に各種生物の季節変化を調査し,中国動植物物候観測年報としてとりまとめていますが,
それを図化した渡来前線から推測しますと,中国ツバメの越冬地はインド支那半島あた
りと考えられます。
 Bヨーロッパのツバメは,アフリカを越冬地とするとの報告が古くからあります。そ
してイギリスのは南アフリカまで行き,ドイツのツバメは北アフリカから中央アフリカ
あたりで越冬している,との記録もあります。ノールウェイ,スウェーデン,デンマー
ク等北欧のものは中央アフリカと南アフリカで冬を過ごすとされています。
 Cアメリカのツバメは南アメリカで越冬します。
 
〈渡る時を決めるのは〉
 春になると,多くの渡り鳥は北帰行を開始します。その時期をどんな仕組みで知るの
か,は興味深いテーマです。
 @マクロ的にみれば太陽光の長日化に伴い,鳥の脳に蓄積されたエネルギーの反応で
脳下垂体から生殖腺刺激ホルモンが出され,その影響で生殖腺が活発になり卵(精)巣
ホルモンが出されます。その結果として生殖本能がかき立てられ,故郷を目指して飛び
立って行くとされています。
 A実際に知りたいのは,直接行動(飛び立ち)を起こす原因は何かです。考えられま
すのは,太陽熱とそれによって起こる気象要素のいろいろです。つまり気圧配置とそこ
からもたらされる風,気温,天気などです。
 結果として帰来地の気温については,古くはハンガリーのヘギフォードによる平均気
温9℃の等温線とともに北上するとの説があります。わが国では1950年代に埼玉県川本
村での清水古寿氏の調査では9.8℃,また八王子市での筆者の調査では8℃となりまし
た。これらをまとめますと,平均気温が9℃(8〜10℃)になる頃にツバメが姿を見せ
るということになります。
 しかし,ツバメが目的地の平均気温を予測できるはずがありませんので,越冬地と繁
殖地を含む広域の気象条件がある一定の型(例えば目的地が9℃)になりますと,ツバ
メは故郷指向の旅に出る,つまりその大きな要因は気圧配置があり主体は移動性高気圧
の位置であり,それと前後する低気圧の風を利用して渡る,と考えられるのです。
 
〈道はどう決める〉
 @大きな方向を決めるのは天体で,昼渡る鳥は太陽の位置で方位を知り,夜渡るもの
は星座で自分の位置や進む方向を知る,とされています。最近では,地球の磁力線を感
知して方向決めに役立てる,との説も出ています。そうして目的地へ向かって長い旅を
続けるのです。
 A故郷近くでは海岸線,山,川を見分け,さらに内陸へと行くのでしょう。目的地近
くの海岸へ来ますと,川を目印として上流(内陸)へと進出します。そしてわが国の脊
梁山脈を越えて南から北へ行く場合には,できるかぎり低地を通過するようです。例え
ば北陸へのコースは大阪湾から琵琶湖上空を通過して敦賀へ抜けて日本海沿いに北東へ
行く,と考えられています。
 Bわが国のツバメは,まず九州に渡来してから順次東進するとされていますが,筆者
は,関東までの渡来は,目的地かその南岸に直進するという扇形渡来説を採っています。
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