02 あまとぶや
 
                あまとぶや
                                       
 万葉集の「枕詞」は,その大部分が意味不明,語義未詳とされていますが,人のこと
ばである以上,音声は何らかの意味を持っているのではないだろうか。
                                       
 「枕詞千年の謎(藤村由加氏著 新潮社)」は,このことを明快に解決しています。
                                       
                                       
 天飛ぶや 軽の路は 吾妹子ワギモコが 里にしあれば ねもころに 見まく欲しけど
                                       
 止まず行かば 人目を多オホみ 数多マネく行かば 人知りぬべみ 狭根葛サネカズラ 後も
                                       
 逢はむと 大船の 思ひ憑タノみて 玉かぎる 磐垣イハカキ淵の 隠コモりのみ 恋いつつ
                                       
 あるに 渡る日の 暮れ行くが如 照る月の 雲隠る如 沖つ藻の 靡ナビきし妹は
                                       
 紅葉モミチバの 過ぎて去イにきと ・・・・・・・・・・
                                       
                                       
 「天飛ぶや」は,「軽カル」にかかる枕詞です。これは「枕詞=イコール被枕詞」と関係づ
けられます。
                                       
 「軽」の意味には,「はやい」「まっすぐ」という意味も含まれています。軽路は,
近鉄線に沿って南北に真っ直ぐの道であった。
                                       
 日の緯ヨコは西,経タテは東を表すとも言われます。左右に分ける・横の意を表します。
                                       
                                       
 天飛ぶや 雁を使に 得てしかも 奈良の都に 言コト告げ遣ヤらむ      
                                       
                                       
 飛ぶとは文字どおり翼を横に広げる行為そのものです。
                                       
 「天飛ぶや 軽の路」は,枕詞,被枕詞とともに「横」という同義語で結ばれていた
ことになります。また,同時にそれは,左右(東西)と南北の関係をも示しています。
いずれも「路」の字形である十字路の意をうけてのものたったに違いないでしょう。
                                       
 「雁カリ」も被枕詞ですが,雁の飛来の道は,南北に飛ぶ「軽路」といえます。この枕
詞は,南北に往還する美しい雁たちの姿を映しとった枕詞でもあったといえましょう。

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