12 植物の世界「[古草本]と呼ばれる植物群」
植物の世界「[古草本]と呼ばれる植物群」
参考:朝日新聞社発行「植物の世界」
最近,被子ヒシ植物の進化や系統を扱った研究論文の中に,センリョウ科,コショウ科,
ウマノスズクサ科などの植物群を纏めた「古草本」と云う名前がよく出て来ます。
「古草本」とは,1976年に米国のカリフォルニア大学のドイルとイェール大学のヒッ
ケイが最初に使い出した「Paleoherbs」と云う植物群の日本語訳で,被子植物が持つ最
も原始的な花粉である単溝タンコウ性花粉(monosulcate pollen)を持つ植物で,かつ低木
性或いは高木性のモクレン目植物から進化の早い段階で分かれた植物群とその子孫を指
しています。モクレン目植物とは対照的に,小さくて目立たない花を持つのも特徴です。
何故,これらの植物が「古草本」と呼ばれ,今注目されているのでしょうか? 最大
の理由は,センリョウ科やコショウ科の化石が,他のどの被子植物の化石よりも古い時
代の地層から相次いで発見されて来たからです。
記録上,被子植物の最古の化石クラウァティポレニテス(前期白亜紀の1億3000万〜
1億2000万年前)は,センリョウ科アスカリナ属の花粉とよく似ていました。
最近,この花粉を作り出す花の正体も遂に突き止められ,それも矢張りセンリョウ科
の花に似ていました。その上,オーストラリアの前期白亜紀の地層からは,花や葉も付
けた化石が発見され,それもセンリョウ科やコショウ科のそれによく似ていました。
「最も原始的な被子植物は?」と問われますと,多くの人はこれまでモクレン目を挙
げてきました。しかし,化石証拠が示すように,それはモクレン目ではなく,「古草本
」であったかも知れないのです。
一方,分岐分類や分子系統などの新しい手法を導入した最近の研究によって,「古草
本」が,モクレン目のみならず,単子葉植物とも関係があることが明らかにされつつあ
ります。被子植物の大きな進化の流れを解明しようとしたとき,「古草本」はその鍵を
握る植物群なのです。
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