07 植物の世界「一斉開葉と順次開葉」
植物の世界「一斉開葉と順次開葉」
参考:朝日新聞社発行「植物の世界」
わが国には,暖温帯落葉樹林及び冷温帯落葉樹林と云う2タイプの落葉樹林帯があり,
本州の中部地方から東北地方,北海道南部を広く覆っていますので,野や山において落
葉樹をよく見掛けます。また街路や公園にも,落葉樹がよく植えられています。こうし
たことから,私共日本人は,春の芽吹きから,新葉の展開と生長を経て,秋の落葉に至
るまで,四季折々の様々な樹木の姿に接する機会に恵まれています。
しかし逆に云いますと,見慣れているからこそ,こうした樹木たちがどのようにして
葉を広げているのか,また樹種によってどのような違いがあるのかなど,と云ったこと
にはあまり関心がないようにも思われます。
本稿においては,特に馴染みの深い樹木を採り上げながら,葉の開葉パターンと,そ
の葉を付ける枝の伸び方,更には葉を広げる前の状態である芽について述べます。
〈カツラの異形葉性〉
春,落葉広葉樹林の中に,全体が薄い紅色を帯びている木を見掛けることがあります。
この木が沢筋に点々と広がっていますと,それはカツラ科のカツラです。カツラは雌雄
シユウ異株イシュで,花には花被カヒはありませんが,雄花は葯や苞葉ホウヨウが,雌花は雄蘂の上
部が共に赤くなり,更に開葉したての幼い1枚の葉も薄い紅色なので,全体が紅色に見
えるのです。
芽から開き出したばかりのこの赤い葉は,やがて緑色になり,基部が心形で独特の丸
い形になります。カツラの新しく伸びた枝は,開葉して約半月程は,この最初に出た1
枚の葉(第一葉)だけを付けています。その後,この枝が更に伸びて,対生タイセイする2
枚の葉を開き,その後も2枚ずつの葉を次々に開きながら枝を伸ばし続けます。後から
開くこれらの葉は第一葉とは異なり,基部は心形にならず,ほぼ鋭形をしています。
最初に開く葉と,後から開く葉とが形が異なることから,このようなタイプを異形葉
イケイヨウと呼んでいます。またこのように,異形葉を時期を変えて開き,それに伴って新し
い枝を伸ばすことを,異形葉型の伸長様式と呼ぶことがあります。
カツラのように異形葉型の伸長様式を執るものには,シラカンバやウダイカンバなど
のカバノキ科カバノキ属の樹木があります。しかしこれらはカツラとは異なり,最初に
2枚の葉が開きます。この後,枝を伸ばしながら,互生ゴセイする葉を1枚ずつ順に開い
て行きます。
〈3タイプの開葉様式〉
ニレ科のハルニレは,春に芽が開くと共に3~7枚の葉を一斉に出現させ,その後幾
らかの葉を開きますが,後者の数はカツラに比べて少なく,寧ろ最初に一斉に開いた葉
の方が可成り多い。
このように,春先に芽が開くと共に,その1年の殆ど全ての葉を一度に開き切ってし
まうものを,一斉開葉型と云います。こうしたタイプには,ハルニレの他にもブナ科の
ミズナラ,ブナ,カバノキ科のサワシバ,トチノキ科のトチノキなどがあります。例え
ばミズナラにおいては,芽が開いた後,僅か2週間のうちに新しい枝を伸ばし,全ての
葉を開いてその年の体制を完成させてしまいます。それ以後は,滅多に新しい葉を開き
ません。
一斉開葉とは全く逆に,長期の亘って1枚ずつ順々に葉を開いて行くものもあります。
カバノキ科ハンノキ属のケヤマハンノキはその典型的なもので,順次開葉型と呼ばれま
す。ケヤマハンノキは,早春に第一葉を開いてから,夏の終わり頃までに,ほぼ順々に
葉を開きながら,枝を伸ばして行きます。
それならばカツラやカバノキ属のような異形葉型と,どう考えればよいのでしょうか。
先の2タイプの開葉様式と比較しますと,まず第一葉は一斉に開くと云う意味において
は一斉開葉型であり,次の葉はカツラの場合は2枚ずつ,カバノキ属の場合は1枚ずつ
順々に葉を開いて行く訳ですので,順次開葉型となります。つまり一斉開葉型と順次開
葉型のどちらの性質も合わせ持つもので,一斉+順次開葉型と云うことになります。
つまり樹木の葉の開き方には,三つのタイプがあります。短い期間に一斉に葉を出し
切ってしまう一斉開葉型,1枚ずつ順々に葉を出して行く順次開葉型,更にその中間型
である一斉+順次開葉型です。
〈枝の伸長様式にも違い〉
カツラについて,先に異形葉型の伸長様式と書きましたが,枝の伸長に注目しますと,
面白い現象が見られます。夏になりますと,未だ伸び切らない枝の先端部分が黄褐色に
変色して脱落し,その年の枝の伸長が終わってしまうのです。残された葉の腋エキには芽
が出来,翌年にはこの芽から葉を開き,新しい枝を伸ばして行くことになります。この
ような芽は,葉の腋に付くと云う意味で腋芽エキガ,或いは新しい枝の側面に付くと云う
意味で側芽ソクガとも云います。
カツラと同じ開葉型を執るカバノキ属も,7月頃から枝の伸びが鈍り始め,8月初め
にかけて,その先端部分が黄色く変色して脱落します。
このように,枝の先端部分が脱落し,翌年は葉腋ヨウエキに付く腋芽から新しい枝を伸ば
すような伸長様式を仮軸カジク分枝と云います。これは別に珍しい現象ではなく,異形葉
型の樹木に限ったことではありません。先述の樹木においては一斉開葉型のハルニレや
サワシバも仮軸分枝によって伸長するなど,多くの樹木において可成り普通に見られま
す。例えば北海道の落葉広葉樹林において50種余り調べた結果においては,半分以上の
27種で仮軸分枝が見られました。
仮軸分枝のように,折角作った新しい枝の先端部分を利用しないままあっさり捨てて
しまうのは,私共から見ますと,如何にももったいないように思えますが,このような
伸長様式にどのような意味があるのかは,実は未だよく分かっていません。
ミズナラは,かしらやカバノキ属のように枝の先端部分が脱落することはなく,そこ
に芽を作って越冬します。翌年にはこの芽が開き,枝を伸ばして葉を開きます。このよ
うな枝の伸長様式を単軸分枝と呼びます。一斉開葉型においては,ブナやトチノキなど
もこの単軸分枝によって伸長します。
それではケヤマハンノキなどの順次開葉型の樹木は,どちらの伸長様式を示すでしょ
うか。春から順次開葉し,枝を段々と伸ばして行く訳ですので,カツラのように伸長の
途中において先端部分を脱落させてしまうことはありませんので,単軸分枝しかあり得
ません。
ここまでのことを整理しますと,枝の伸長様式には,先端部分を脱落させながらジグ
ザグに伸びて行く仮軸分枝と,先端が脱落せずに真っ直ぐに伸びて行く単軸分枝の2タ
イプがあります。開葉型との関係で云いますと,順次開葉型の場合は単軸分枝しかあり
ませんが,他の2タイプの開葉様式においては,仮軸分枝も単軸分枝もあると云うこと
になります。
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