06a 植物の世界「植物繊維の構造と利用」
 
〈最古の衣料繊維"麻"〉
 麻の歴史は,繊維の中においては最も古い。紀元前1万年頃の新石器時代のスイスの
遺跡から麻織物が出土しており,紀元前3000年頃の古代エジプトのミイラは上等の麻布
によって包んであります。
 麻と呼ばれるものには,靭皮繊維と葉脈ヨウミャク繊維があります。麻として代表的な亜麻
アマ(繊維をフラックス,糸や製品をリネンと呼びます),苧麻(カラムシ,ラミー,ヤ
ブマオ)を始め,大麻タイマ(ヘンプ),黄麻(ツナソ,ジュート),洋麻ヨウマ(ケナフ,
タイ・ジュート),ぼう麻(チャイナ・ジュート,インディアン・マロー,青麻セイマ,市皮
イチピ)などは,茎の表皮の内側の靭皮から繊維を採る軟質靭皮繊維です。マニラ麻(ア
バカ,マニラ・ヘンプ),サイザル麻,ヘニケン麻,ニュージーランド麻,マゲー麻,カ
ントン麻,モーリシャス麻などは,葉脈から繊維を採る硬質葉脈繊維です。
 わが国の家庭用品品質表示法においては,衣料用として亜麻(リネン)と苧麻(ラミ
ー)のみを「麻」と称しています。
 
 靭皮繊維は中空で束状に集まっていて,セルロース含有量が50~80%です。亜麻の靭
皮は,上皮,表皮,コルク層,靭皮繊維束,柔ジュウ組織からなり,茎の内部に木質部が
あります。葉脈繊維のセルロース含有量は,一般に靭皮繊維よりも劣ります。
 靭皮繊維を採るには,茎を水に浸漬シンシして,バクテリアによって繊糸を接合している
ペクチン質を発酵させて溶解除去し,黒い表皮や木質部を分解します。その靭皮を日光
と水とに晒して,干して,砧キヌタで叩きますと,繊維は比較的柔らかくなります。麻の繊
維は,水に濡れても木綿よりも膨潤度が低い。木綿と同様,引っ張り強さが乾燥時より
も湿潤時の方が若干強いことは,麻の特徴の一つです。麻もまた,セルロースから出来
ており,吸湿と放湿,膨潤と収縮と云う相反する現象を繰り返します。
 
 麻織物の特徴は,引っ張りや摩擦に強いが,硬い感触があり,弾性に乏しく,皺シワが
撚りやすい。吸水性が大きく,吸水速度が速いのに乾きやすく,肌に涼感リョウカンを与えま
す。わが国の夏に,麻の帷子カタビラが愛用された所以です。しかし,カビが生えやすい。
 麻繊維の軟質のものは,夏用衣料,レース,ハンカチ,テーブルクロスなどに,硬質
のものは麻袋,縄,ロープ,テント,ホース,帆布,漁網など主として産業用に用いら
れます。しかし現在においては,産業資材用には殆ど合成繊維に替わっています。
 
 アマ(アマ科)は,高さ1mの一年草です。繊維は細く短いが,しなやかで,木綿に近
い風合いで,特有の亜麻色をしています。白さ,光沢,引っ張り強さ,吸水性と放湿性
は,苧麻に次ぎます。ロシア,東ヨーロッパ,フランス,ベルギー,アイルランド,中
国などが主産地です。ラミー(イラクサ科)は,高さ2~4mの多年草で,繊維が比較的
長く,天然繊維中において最もしゃり感があり,涼感と腰があります。麻の中において
最も吸水性と放湿性に優れ,白色で絹のような光沢があり,天然繊維中において最高の
引っ張り強さを持ちます。日本,中国,韓国,インドネシア,ブラジルが主産地です。
 ジュート(シナノキ科)は,高さ1.5~3mの一年草で,繊維が細くて非常に短いので,
1本ずつの繊維に分けずに繊維束のままで,粗雑な布袋やカーペットの基布キフなどに用
いられます。繊維は手触りが粗くて,剛コワい。黄褐色をしていますが,処理しますと淡
黄色から銀白色になります。引っ張り強さは亜麻よりも低く,破壊伸びが小さい。イン
ド,バングラデシュ,パキスタン,タイ,ミャンマー,ブラジルなどが主産地です。
 
〈その他の植物繊維〉
 紡織に用いられている他の植物繊維には,パイナ,ヤシ,カポック,芭蕉,藤,葛,
緒オなどがあります。
 パイナ(アナナス繊維)は,フィリピン産のパイナップルの葉脈繊維です。繊維の長
さは5~10㎝,白又は象牙色で,細くて光沢があり,柔軟で強く,耐水性に優れます。
織物は柔らかくも硬くも出来,袋物,テーブルクロスなどに用いられます。ヤシ繊維は,
ヤシ科のココヤシの果実の殻(中果皮)から採れる濃肉桂ニッケイ色の繊維で,可成り硬く,
皺シワになりにくく,摩擦にも強く,耐候性に優れており,マットや綱に適しています。
また,油吸着性がありますので,海上の流出油の除去に利用されます。カポックはパン
ヤ科のパンヤノキで,パンヤともジャワ・カポックとも云われます。熱帯地域に分布し,
高さ15~30mになります。朔(草冠+朔)果サクカの種子は綿毛に包まれ,コットンボール
に似ています。この綿毛は中空円筒状で非常に軽く,柔らかく,天然撚りがなく,紡績
しにくいが,最近では紡績に出来るようになりました。枕,マットレス,家具類の詰め
綿として用いられます。芭蕉繊維は,バショウ科のイトバショウの葉脈・葉靭ヨウジン繊維
であり,麻よりも硬いが,布にしますと軽くて張りがあり,沖縄など南国の夏用着物地
として愛用されています。
 藤,葛,緒,科皮マダ,芙蓉フヨウ,ゆう,ゆうな,オヒョウ,菅スゲ,藺草イグサ,葭ヨシな
ど,いずれも繊維が利用されます。
 
〈用途に応じて製紙〉
 植物繊維の用途には,製紙用があります。紙は,繊維を解ホグして水に分散させ,繊維
を薄く平らに絡め合わせたものです。
 紙には,原料や製造法の違いによって和紙,洋紙,板紙(段ボール用紙)があります。
和紙の原料には,繊維長が3~9㎜のクワ科のコウゾ,ジンチョウゲ科のミツマタ,ガ
ンピなどの靭皮繊維,及び洋紙に用いられている繊維長約3㎜のパルプ(主として木材
からセルロースを出来るだけ純粋に取り出した繊維)が利用されています。洋紙は,製
紙工程中に紙の種類によって,原料パルプに滲ニジみ防止剤,充填ジュウテン剤,着色剤など
が加えられます。
 
 手漉テスき和紙の製造法は,コウゾなどの茎を蒸して黒皮を剥ぎ,更に水に浸して柔ら
かくなった白皮からナイフによって表皮を除いたものを原料とします。これを釜に入れ,
ソーダ灰か苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)によって煮て不純物を除去し,流水に晒し
てから木の板の上で叩くか,臼に入れて突いて叩解コウカイします。大工場においては,ビ
ーターが使用されます。次に,漉き桶に移して掻き混ぜ,ねりと呼ぶトロロアオイの根
やノリウツギ,アオギリなどの内皮から採れる植物性粘状物質を加えます。
 紙漉きには,流し漉きと溜タめ漉きとがあります。流し漉きは,出来上がった湿紙を積
み重ねて圧縮脱水し,1枚ずつ剥ぎ取り乾燥します。溜め漉きは,糊を使わないので,
出来上がった湿紙を毛布の間に挟みながら積み重ねて圧宿脱水します。最近は,機械漉
きの和紙が多い。
 手漉き和紙には,障子紙,仙花(泉貨)紙センカシ,楮紙コウゾガミ,奉書紙ホウショガミ,鳥の
子紙トリノコガミ,檀紙ダンシ,ちり紙,傘紙,美濃紙ミノガミ,雁皮紙ガンピシがあります。機械
漉き和紙には,障子紙,書道用紙,ちり紙,紙縄,仙花紙,薄葉紙ウスヨウシ,紙紐カミヒモ原紙
ゲンシ,包装用紙などがあります。
 手漉き和紙は家内工業的生産でコストが高くつきますが,独特の持ち味があり,工芸
品やその他の特殊な用途に珍重されます。
 
 洋紙の原料は,殆どが木材パルプです。しかし,洋紙や板紙には,アサパルプ,タケ
パルプ,わらパルプなども用いられます。洋紙は,印刷用紙,筆記・図画用紙,包装用
紙,薄葉紙,雑種紙,そして板紙に分類されます。トレーシングペーパー(透写紙),
複写紙,絶縁紙ゼツエンシ,アート紙,カーボン紙,ノンカーボン紙,耐水紙,硫酸紙など
の加工紙は,抄紙ショウシ機によって製造された洋紙や板紙を更に用途に応じて加工した紙
です。

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