46 植物の世界「はこべ塩」
 
              植物の世界「はこべ塩」
 
                      参考:朝日新聞社発行「植物の世界」
 
 歯の痛みは古来,人々を苦しめて来たようです。わが国においては昔から,歯茎が腫
れて痛むときは,「はこべ塩」で磨くと効果があるとされて来ました。
 ハコベは春の七草の一つに数えられるように身近な植物で,救荒野菜,また民間薬と
しても頻繁に利用されて来ました。中国においては「繁縷ハンル・ハンロウ」と書き,古くから
薬用にされ,『名医別録』(隋ズイ代か考えられますが詳細不明)には,長年に亘る悪瘡
アクソウや痔ジに用い,『本草ホンゾウ拾遺シュウイ』(739年)には,産婦が食べると乳汁を出し,
また産後の腹部に塊状物があって痛むときには酒で炒って汁を搾って温めて飲むとよい,
と記されています。しかし,中国の文献には歯科の疾患に用いる記述はなく,はこべ塩
はわが国独特の民間療法のようです。薬効成分は確かめられていません。
 はこべ塩についての記述が最初に見えるのは,江戸時代に寺島良安の著した百科事典
『和漢三才サンサイ図会ズエ』(1713年)で,「鵞腸菜ハコベ」として,「端午の朝に茎菜を採
り、搾った汁を塩と混ぜ、あわびの貝殻に盛って焼き、再び汁を入れて焼いて乾かすこ
とを7回繰り返し、それで日常、歯をこすり、眼を洗うとよい」とあります。独創的で,
わが国の本草書にも記載がないことから,民間伝承的に利用されて来たものと考えられ
ます。江戸時代には,歯磨き粉として利用されていました。
 
 はこべ塩は家庭においても作れます。ハコベの地上部をミキサーなどで擦り潰して,
汁を搾り取り,油気のないフライパンで食塩を炒りながら汁を少量ずつ加えて乾燥させ
ますと,さらさらした緑色の粉末に仕上がります。歯茎が出血したり,腫れて痛むとき
に,これを指に付けて擦れば効果があるとされます。しかし,進行した歯周病の完治は
期待出来ず,葉緑素入り歯磨き粉として,あくまでも予防の目的で利用するべきです。
 なお,ハコベの茎葉をからからになるまで天日に干したもの砕いて粉末にし,それに
3分の1程の量の食塩を混ぜる方法もあります。これは緑色にはなりませんが,効果は
同じです。ハコベが入手出来ないときは,漢方薬局から乾燥したものを買い求めてもよ
いでしょう。

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