37 植物の世界「変身する花序」
 
            植物の世界「変身する花序」
 
                      参考:朝日新聞社発行「植物の世界」
 
 植物の特徴を説明するとき,どのように花が着くかと云うこと,つまり花序カジョの記
述は重要な要素です。そのために,○○花序とか,××花序と云う様々な用語が用いら
れます。
 アブラナ科の場合には「総状ソウジョウ花序」の一語で済まされることもありますが,「
散房サンボウ花序」付け加えて「総状又は散房花序」と表されることが多い。本稿は散房花
序と総状花序の関係に焦点を当てながら,花序の記述に纏わるマツワル問題の一端を考えて
みましょう。
 
 散房花序も総状花序も,総穂ソウスイ花序と云う,より広い意味の用語に含まれ,両者は
近い関係にあります。総穂花序とは,1本の軸(花序軸)から側方に出た幾つかの花が
並んだものを云います。総穂花序は,個々の花に柄エ(花柄カヘイ)があるかないかと云う
ことと,個々の花柄又は花が花序軸から分岐する位置(節)が互いに離れている(節間
距離がある)かどうかと云うことによって幾つかに分けられます。
 しかし花柄にしても節間距離にしても,「あり」「なし」の言葉の上での区別は容易
でも,実際の識別になりますと厄介な問題が出て来ます。顕微鏡では見えても,肉眼で
は認められない場合もあるからです。ですからこうした場合には「なし」と見なしませ
んと,実際には花序の区別は成立しないことになります。こうして総穂花序を,花柄の
有無及び節間距離の有無によって4タイプに分けますと,散房花序と総状花序はどちら
も,花柄「あり」・節間距離「あり」の同一グループに入ります。
 
 それではこの両者はどのように区別されるのでしょうか。外見で云いますと,全ての
花が半球面乃至平面に近い並び方をしているのが散房花序,ほぼ円筒面に並ぶのが総状
花序と云うことになります。この違いは,花柄と節間距離の長短の差によって起きます。
節間距離が短かければ,これが「なし」と見なされる散形花序に近い状態になります。
また,花柄の長さが一様でなく,先端に近い若い花ほど柄が短ければ,花が円筒面に並
びません。花柄の長さの差が極端になりますと,花が凹面上に並ぶこともありますが,
多くの場合,花は皿や椀ワンを伏せたような面に並びます。これが散房花序で,多くのア
ブラナ科植物において観察出来ます。
 ところが開花期の初めに咲いた花が果実になる頃には,節間や花柄が伸長しているた
め,花序は細長い総状花序となり,散房花序の姿を留めるのは先端付近だけになります。
キャベツなどの場合には,散房花序に見えるのは蕾ツボミの期間だけで,開花のときには
既に花柄も節間も伸びて総状花序になっています。
 
 このようにアブラナ科植物の場合,同じ植物でも時間的な違いによって,「散房花序
」が次第に「総状花序」になったりします。こうなって来ますと散房花序と総状花序と
を厳密に区別することは不可能です。そこで,二つの語のうち,どちらか一方だけを残
して,よう一方を廃棄した方がよいと思われるかも知れません。しかしコデマリやオオ
アマナなど多くの植物において,花が終わって果実が熟してもなお散房花序の姿を留め
ている場合もありますので,細長くなる総状花序と区別するためには,矢張りこの二つ
の言葉は必要です。そして個々の植物の花序について,その時間的変化を観察すること
も大切でしょう。

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