24a 植物の世界「二年草の繁殖戦略」
 
〈オオマツヨイグサの生活史〉
 多くの生物は,野外においては同種の他個体と共に個体群を構成して生活しています。
個体群はそれぞれの環境下において,その種に固有な生存と繁殖のスケジュールに基づ
いて個体数を増加させたり,減少させたりしています。こうした個体群の動態は,個体
群統計学の手法を用いて説明出来ます。植物の個体群動態については,1960年代後半か
ら多くの生態学者が興味を向けるようになり,様々な植物について情報が蓄積されて来
ました。
 可変性二年草は,自然の中においてどのような生存と繁殖のスケジュールの下に生活
を営んでいるのでしょうか。以下,筆者等が行ったオオマツヨイグサの研究を紹介しま
す。
 
 まず,永久方形区と云う一定面積の調査区を設定し,生育しているオオマツヨイグサ
に標識を付けました。約5年間に亘り,毎月新しく芽生えた個体と死亡した個体をチェ
ックし,各個体の生長量を知るためにロゼットの直径を測定しました。また,毎年の繁
殖期にはどの個体が抽薹したか,抽薹した個体が幾つの種子を生産したかを記録しまし
た。
 個体の死亡率や種子生産量は,年毎に大きく変動します。そのため,繁殖方式などの
生活史の特性の適応的意義や進化的意義を検討するためには,何世代かに亘る平均的な
生存と繁殖のスケジュールの下においての,個体群の増殖率を知る必要があります。そ
こで筆者等は,平均的な個体群動態をシミュレーションモデルによって予測することを
試みました。
 その結果,調査した個体群は平均して1世代(5年)当たり2割ずつ個体数が増加し
て行くことが分かりました。年当たりの増殖率に換算しますと4%になります。また,
3〜6年目の大きなロゼットが個体群の増殖に大きく寄与すること,また,種子散布か
ら繁殖まで,平均して約5年かかることが確かめられました。
 一定の環境条件下においては,個体群の生存と繁殖のスケジュールは一定に保たれる
と考えられます。このとき,世代を繰り返す過程において,個体群は一定の増殖率によ
って増えるようになります。この一定の増殖率の自然対数は内的自然増殖率と呼ばれ,
その生活史を採る個体群の増殖能力や個体の適応度を評価する指標となります。
 
 筆者等はオオマツヨイグサについて,繁殖に入るロゼットサイズの違いが,内的自然
増殖率にどのように影響するかをシミュレーションモデルによって解析しました。繁殖
に入るためのロゼットサイズが大きくなればなる程,生長するのに年数を要するので,
繁殖に入る年度は遅れ,逆にロゼットサイズが小さくなれば繁殖時期は早まって,一年
草型に近付く訳です。内的自然増殖率を計算してみますと,増殖率を最大にするのに最
適な繁殖サイズは,ロゼットの直径が約15pであることが分かりました。
 このサイズは,実際の自然集団において観察される繁殖サイズに近く,即ち,オオマ
ツヨイグサの砂丘自然個体群は,最適に近い繁殖のスケジュールを採っていたのです。
 
〈環境に適応して生育〉
 イギリスの生態学者グライムは,環境条件と植物の生活様式との対応関係を示しまし
た。彼は,光不足など植物個体の生長を低下させる要因を「ストレス」,動物による被
食ヒショクや洪水など生長した植物体の量を減少させる要因を「撹乱」と定義し,生育環境
のストレスと撹乱の程度に対応して,三つの典型的な植物群を考えました。つまり,@
ストレスのない好適な環境に生育する競争型植物,Aストレスのかかった環境に生育す
るストレス耐性型植物,B撹乱が頻繁に起こる環境に生育する荒地生殖物,です。
 彼は二年草を,肥沃でしかも撹乱が間欠的に起こる場所に生育する競争型荒地生植物,
或いはストレスと撹乱が共に中程度の場所に生育するストレス耐性型荒地生植物,とし
て位置付けました。
 わが国においても河川の氾濫原ハンランゲンや放棄された畑跡地にはヒメジョオン,ヒメム
カシヨモギ,オオアレチノギク,アレチマツヨイグサなどの二年草が屡々優占していま
す。海岸砂丘のように貧栄養で中程度の撹乱を受ける立地においても,オオマツヨイグ
サ,ハマハタザオなどが見られます。
 可変性二年草は,貧栄養な海岸砂丘においては三年草から六年草として生活しますが,
放棄された畑跡地のように肥沃な立地においてはロゼットの生長が速いため,越年草に
近い生活をします。同じ種においても,異なる環境においてはそれぞれに適応した繁殖
様式を採ります。
 
〈サイズによる繁殖が有利〉
 近年,様々な植物の多様な生活史戦略(生活史の適応的意義)を進化生態学の立場か
ら理論的に解明しようとする試みが,盛んに行われています。これらの研究においては,
個体群の増殖率を最大にするような生活史が最も適応的であるとし,どのような環境下
においてどのような生活をする生物が,進化し得るかを予測しています。
 米国の生態学者ハートは,北米の植物相1万4500種のうち,一年草は3155種(21.8%
)であるのに対し,二年草は僅か200種(1.4%)に過ぎないことを指摘し,何故二年草
がこれ程少ないかについて考察しました。
 彼女は,二年草は2年に一度しか種子を生産出来ないために,毎年繁殖出来る一年草
や多年草と同じ増殖率を実現するには,1回により多くの種子を生産しなければならず,
二年草型の生活史は進化しにくいでしょうと述べました。
 イギリスの個体群生態学者シルヴァータウンは,ヨーロッパの植物相のうち,真性二
年草と可変性二年草を合わせ,セリ科303種中25%が,キク科1796種中9%が二年草の範
疇に入るのに対して,イネ科やカヤツリグサ科においては二年草が事実上見られないこ
とを指摘しました。セリ科やキク科の植物は,高さ(垂直)方向にも生長出来るのに対
して,イネ科やカヤツリグサ科の植物は,分蘖ブンゲツ・ブンケツによって水平方向にしか生
長出来ません。彼は,後者においては繁殖を2年目に遅らせた場合,それに見合うだけ
の生長と種子生産の増加が期待出来ないために,二年草型の生活史が進化しなかったと
主張しました。
 
 また,東北大学においては,可変性二年草について,最適繁殖齢(何年目に開花する
のがより多くの子孫を残し得るか)に関するモデルを提出し,生活史の初期(例えば種
子や芽生えの段階)の生存率が低い場合や,栄養生長期のロゼットの生長が悪い場合に
は,最適繁殖齢が遅れるでしょうとの予測を得ました。
 植物の生活史の進化に関する多くの理論的研究においては,最適繁殖サイズではなく,
最適繁殖齢が問題にされて来ました。同じ年齢の個体が全て同じサイズなら,個体の年
齢(エイジ)が与えられればサイズは一義的に決まりますので,繁殖がサイズ依存的で
あってもエイジ依存的であっても,生存と繁殖のスケジュールは同じになります。
 ところが,同一齢の個体においてもサイズに大きなばらつきがある場合は,個体サイ
ズと個体の年齢は対応せず,サイズ依存的な繁殖とエイジ依存的な繁殖の適応度は,同
じにはなりません。
 そこで,繁殖がエイジ依存的に決まると仮定して,シミュレーションモデルによって
最適繁殖齢において増殖したときの内的自然増殖率を計算しました。その結果,サイズ
依存的に繁殖が決まる場合に比べて,常に小さい値が得られました。即ち,個体サイズ
にばらつきが生じる不均一な環境においては,サイズ依存的に繁殖する個体の方が,エ
イジ依存的に繁殖する個体よりも適応度が高いと予想されました。
 このサイズ依存的な繁殖における有利性は,発芽率や種子生産量が年毎に変動する環
境においては,更に高まる可能性があります。真性二年草のようにエイジ依存的に繁殖
する場合は,或年に全ての個体が繁殖するため,その年の環境条件が悪ければ大きな打
撃を受けます。サイズ依存的に繁殖する場合は,各個体の生長の善し悪しによって繁殖
時期が異なるので,条件の悪い年の損失分を条件の良い年に繁殖した個体によって補う
ことが出来ます。
 それぞれの環境において,生活を変化・適応させることによって子孫の数をより多く
残せた結果,多くの二年草が真性二年草ではなく,可変性二年草の生活をするのでしょ
う。

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