21 植物の世界「寄生と腐生」
 
             植物の世界「寄生と腐生」
 
                      参考:朝日新聞社発行「植物の世界」
 
 光合成生物としての植物は,基本的には独立自養の生活をしています。光と水と二酸
化炭素,そして土壌中から吸収する栄養塩類によって,栄養は足りるのです。植物の生
活様式は,他の生物体を食べている動物や,生物体とその死体を分解・吸収して生活し
ている菌類とは全く異なっているのです。
 ところが,極一部とは云え光合成のための葉緑体を持っていない植物があります。マ
レーシア熱帯地域の林床において出会う毒々しい花を持つラフレシアやツチトリモチの
仲間,わが国の森林の林床において見掛ける真っ白なギンリョウソウには,何れも緑の
葉がありません。他の生物から栄養分を得ている植物,つまり寄生植物や腐生フセイ植物で
す。
 
〈養分の取り方は様々〉
 他の緑色植物から栄養分を得て生活をしている植物は寄生植物と呼ばれていますが,
その養分の摂り方は様々です。光合成をする能力を完全になくして,水や栄養塩類だけ
でなく,有機物まで他の植物の作り出したものに頼って生活している植物は,「完全寄
生植物」と呼ばれています。ラフレシアやツチトリモチの仲間は,このタイプです。
 ところがちゃんと緑色の葉を持っていて光合成はしているので,外見的には寄生植物
のようには見えないのに,水や栄養塩類を他の植物から吸収している植物があります。
それらは「半寄生植物」と呼ばれています。この半寄生植物は,ヤドリギのように他の
植物の枝や幹に寄生していれば分かりやすいですが,ビャクダンやママコナ(ゴマノハ
グサ科)のように,地下において他の植物の根から水や養分を収奪するタイプのものは,
寄生植物とはなかなか見抜けません。
 
 それに対して,有機物を分解して生活している菌類との共生は,植物界に広く見られ
ます。そのような植物は菌根キンコンを持っているのですが,その中には光合成能力を無く
してしまい,菌類から全ての養分を得ている植物があります。ギンリョウソウはその代
表的なものですが,このような植物を「腐生フセイ植物」と呼んでいます。腐生植物は,栄
養を菌類に頼って生活をしているのですから,菌類を食べて生きているとも云えます。
ですから,「菌食植物」と呼ぶことを提唱している研究者も居ります。
 
〈およそ3400種が寄生植物〉
 高等な植物に寄生して生活する寄生植物は,シダ類には見付かりません。裸子植物に
おいては,現在まで知られている限り,ニュージーランドに分布する2種が寄生性であ
ると報告されているだけです。
 ところが,被子植物にはモクレン亜綱のクスノキ科(スナヅル類)を始めとして,バ
ラ亜綱にもキク亜綱にも寄生生活する植物が知られており,その総数は3400種前後にも
上ります。およそ23万種の被子植物全体の約1.5%が寄生生活をしていることになりま
す。被子植物全体を見渡して観ますと,寄生生活と云う特異な生活様式を発展させ,成
功した植物群は,一つはビャクダン目とそれに近縁のラフレシア目の仲間,もう一つは
ゴマノハグサ目の仲間です。この2群で3200種程になり,それ以外の寄生植物はざっと
200種余りしかないのです。これらは全て双子葉植物に属し,単子葉植物には寄生生活者
は見付かりません。ビャクダン目やゴマノハグサ目のような成功した寄生生活者を含む
大きな群においては,様々な寄生生活の仕方が知られています。
 
〈半寄生から完全寄生へ〉
 ビャクダン目においては,メドゥサンドラ科とディペントドン科は,寄生生活をしな
い独立自養生活者です。ボロボロノキ科には,独立自養生活をする種から,同じ種の他
の個体の根に寄生する自種寄生者,発芽のときには独立生活をしているが,やがて他の
種に半寄生する植物群まで見られます。そしてビャクダン科の多くは,この最後のタイ
プの半寄生生活をしています。更に緑の葉を持ち光合成はするが,種子の発芽の初期か
ら寄生生活をするヤドリギ科やオオバヤドリギ科のようなもの,寄生を発展させて,全
ての種が葉緑体をなくした完全寄生者になったツチトリモチ科のようなグループも見ら
れます。ビャクダン目と近縁と考えられているラフレシア目の構成メンバーも,全て完
全寄生者です。
 
 このようにビャクダン目の植物には,
@独立自養の光合成生活者,
A光合成生活者で,自分の根でもって土壌の中から養分や水を吸収することが出来るが,
 寄生した方が生長が良いか,寄生をしないと生育を完了出来ない半寄生生活者(ビャ
 クダン),
B矢張り光合成生活者ではあるが,水や養分は宿主の植物に全面的に依存している半寄
 生生活者(ヤドリギ),
C葉緑体を無くして,葉も退化してしまった完全寄生生活者(ツチトリモチ),
が含まれています。つまり,独立自養生活者から完全寄生生活者への一連の変転のシリ
ーズが,この群においては見られるのです。
 
 半寄生生活者は,宿主の木部に吸収根を差し込んで養分や水を収奪しますが,完全寄
生生活者は宿主の篩部シブに吸収根を広げて,水や養分だけでなく,宿主の光合成産物の
有機物も収奪してしまいます。
 またビャクダン目においては,雌蘂メシベの子房の中にある胚珠ハイシュや,それが発達し
て出来る種子にも,寄生生活者に特徴的な変化が見られます。胚珠は独立生活者におい
ては2枚の珠皮シュヒを持っていますが,寄生性の強いものにおいては珠皮が無くて胚珠が
子房の壁に埋もれているものが多くなります。この胚珠の退化的な傾向は,寄生生活と
関係があると考えられていますが,或いは逆に,胚珠が退化的になることが寄生性を発
展させる前提条件であったかも知れません。
 
 この問題を少し考えてみましょう。ビャクダン目の半寄生生活者は,比較的大きくて
胚乳も多い種子を作りますし,生産する種子の数もそれ程多くはありません。その代わ
りに,種子は緑色で,発芽する前から光合成をしています。しかも,鳥の消化管を通っ
ても消化されない粘着性の強い粘液によって表面を被い,幹や枝にうまく粘着しますと,
この粘液が空中の水分を吸収して種子を乾燥から守ると云う,巧みな種子散布を行って
います。
 ところが完全寄生生活者になりますと,種子の発芽の初期から寄生生活をしなければ
生長出来ません。種子の散布には,小さな種子を沢山散播いて"数打ちゃ当たる"式の戦
略を採るようになります。
 ツチトリモチ,ヤッコソウ,ラフレシアの仲間においては何れも,退化して珠皮が無
くなった胚珠が,やがて微細な種子になります。ラフレシアの仲間に至っては,子房の
壁から張り出した襞ヒダの全面にびっしりと胚珠を配置して,何処にあるのか分からない
ような微細な種子を無数に形成します。
 しかし,完全寄生生活者が全て微細な種子を作る方向に進化したのではないようです。
スナヅルやネナシカズラは結構大きな種子を作り,種子の養分を用いて初期生長をし,
宿主に取り付く戦略を採っています。
 
〈寄生のための特別な形態〉
 ゴマノハグサ科の植物には,多くの寄生植物が含まれています。その大部分は半寄生
植物です。可愛いらしい花を咲かせるコゴメグサの仲間,ママコナやシオガマギクの仲
間は一寸見ただけでは独立生活をしているようですが,地下の根によって他の植物の根
から養分を奪う半寄生植物です。そしてこのゴマノハグサ科に近縁なハマウツボ科は,
全て完全寄生植物の群です。
 単子葉植物には寄生植物が知られておりません。何故でしょうか。他の植物に寄生す
るためには,地上部に寄生するにしても,地下部に寄生するにしても,寄生植物は根を
伸ばして宿主に侵入する(多くの寄生植物)か,ネナシカズラのように茎を宿主に巻き
付け,吸盤を差し込んで養分を吸収します。このような吸収根や吸盤を形成するために
は,根や茎が活発に細胞分裂をすることが必要です。
 ところが単子葉植物には頂端の分裂組織はありますが,双子葉植物に一般的に見られ
る形成層は無く,一度作られた根や茎は肥大成長をしません。そのため寄生のための特
別な形態を発達させることが出来ないのです。コケ植物やシダ植物に寄生植物が見られ
ないのも,矢張り寄生のための特別な形態を発達させる能力が無いからでしょう。
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