20 植物の世界「攀ヨじ登り植物の生存戦略」
 
          植物の世界「攀ヨじ登り植物の生存戦略」
 
                      参考:朝日新聞社発行「植物の世界」
 
 植物と云えば,草と木が直ぐ連想されます。形態的には,木は継続的な地上部を持っ
ていて,その茎(幹)に形成層を持ち,其処で肥大生長をして,年を経るにつれて段々
と大きくなって行きます。これに対し草は,形成層が無いか或いは短期間(1年以内)
しか活動しないので,大きな幹を持つことはありません。また,生態的には木は地上部
が多年に亘り存続し,休眠芽キュウミンガが其処に出来るものであり,草においては毎年地上
部が枯れてしまうものがあります。
 ところが,草でも木でもない,第三のものに「つる(蔓)」があります。これはヘチ
マやアサガオのように地上部即ち,蔓の幹が1年で枯れてしまう草本性のものと,フジ
やサルナシのようにどんどん太る木本性のものがあり,形態的或いは生態的な「草と木
」とは異なった範疇(カテゴリー)に入ることが分かります。この蔓植物が何らかの手段を
講じて,他の木や草の上に這い上がって行くと,「攀じ登り植物」となります。それで
はこの「蔓植物」,つまり「攀じ登り植物」とは,どんな植物なのでしょうか。
 
〈光を巡る競争〉
 蔓植物とは,「細長い茎を持っていて,それ自体では茎を地上に立たせておけないも
の」と云うことが出来ます。ですから蔓植物はハマヒルガオのように,ただ単に茎が地
表を細長く這っているものと,ツタのようにその細長い茎が他物を攀じ登って行くもの
とがあります。尤も,攀じ登り植物であっても登る相手が見付からないうちは,地面を
這っていることが多い。
 植物の生活の基本は光合成にあります。出来るだけ沢山光を受けるために,植物は競
い合って葉を広げていますが,その葉を他の植物の葉より上に,安定して広げるために
茎があります。ですから植物は,より速く茎を伸ばし,葉を展開して他の植物を覆って
しまうことにより,競争に打ち勝とうとします。
 草と木が同時にこの光の争奪競争をしますと,芽が上方にある木が勝ことは明白で,
草は木が利用した後の弱い光の下で,生きて行かなければならないのが普通です。それ
でも草は木に勝てないまでも,同じ草同士においての競争に打ち勝とうと,少ない資材
によって短期間に丈夫で背の高い茎を作る努力をして来ました。
 この草の健気ケナゲな努力に対して,攀じ登り植物が採った一番の戦術は,丈夫で自立
した茎を作るための資材を,長い蔓を短期間に作る方に向けたことにあります。
 
〈森のギャング〉
 樹木も,大量の枝葉を支える丈夫な幹を作るために,長い時間をかけて大量の木部を
蓄積しています。攀じ登り植物は,その点への投資を全くと云ってよい程行いません。
ひたすら蔓を上へ伸ばし,他の草や木の上に出て,光が十分受けられるようになります
と,其処において多量の葉を付け,登ってきた草や木を覆って蔓延ハビコります。このた
め登られた草や木は光合成が十分行えずに生長が悪くなり,甚だしいときには枯れてし
まいます。そのため,このような蔓植物を「光寄生ヒカリキセイ」と云うことがあり,良材を
生産しようとする林業家からは「森のギャング」などと呼ばれて,厭がられています。
 
 樹木は形成層の活動によって木部を丈夫にする繊維組織を大量に作ると共に,道管,
篩管シカンも大量生産しています。それらは葉に水を送り,光合成産物を他の部分に分配す
る道の働きをしています。
 それに対して,蔓植物においては繊維組織は僅かで,しかも大きな道管や篩管を少量
しか作りません。太い道管や篩管は大量の水や養分を効率よく運ぶには適していますが,
構造上は脆弱ゼイジャクになります。樹木においては,葉と茎と根とがゆっくりではあるが
確実に結ばれています。これに対して蔓植物においては,蔓が急速に伸びるため葉から
根までの道管などは太くて効率は良いが,その数が少ないので「蔓切り」などをされま
すと,一遍に枯死してしまいます。
 
〈攀じ登るための戦略〉
 このように自立出来る茎を作らない蔓植物が,他の草や木の上に立つには,その草や
木を攀じ登らなければなりません。蔓植物の進化の過程において,その植物群の持つ遺
伝的な性質と様々な試みの結果として,いろいろな攀じ登り方が生まれて来ました。被
子ヒシ植物に見られるものを類型化しますと,次の五つのタイプが考えられます。
 
(1)寄り掛かり型
 これは蔓がそのまま伸びて行き,他の植物の枝などの間隙を縫って,寄り掛かるよう
にして登って行きます。ヒヨドリジョウゴやツルウメモドキなどの蔓性の多年草や,低
木と云われるものに多い。蔓が登るための特別な工夫がない,最も原始的なものと云え
るでしょう。他のタイプに区分される何れの攀じ登り植物もこれが基本となります。伸
び上がった蔓は風に揺られながら寄り掛かるものを求めています。寄り掛かるものがあ
れば,其処において蔓が安定しますので,其処から更に伸びて,寄り掛かるものを求め
ることを繰り返します。
 蔓をある程度伸ばしても寄り掛かるものがなく,蔓が安定しませんと,蔓の伸びが止
まります。これは伸長生長を抑制する植物ホルモン(エチレン)が,揺れ動く茎の先端
付近において形成されるためと考えられます。
 寄り掛かる型はこのようにして登って行くので,寄り掛かる相手はあまり大きくない,
低木状のものが多い。
 
(2)巻き付き型
 これは蔓が他物に巻き付いて登って行くものです。通常,種類によって右卷きか左卷
きかが決まっており,蔓が左卷きのフジや右卷きのアケビなどがあり,最も普遍的なタ
イプです。これも矢張り上に伸びた蔓の先端付近が,回旋カイセン運動をして巻き付くもの
を求めます。巻き付くものに触れますと,接触刺激により,茎の接触側とその反対側に
おいて生長速度に違いが出て巻き付きます。
 巻き付いた茎は木本性の蔓においては毎年太り,巻き付かれた宿主シュクシュが樹木ですと
宿主も毎年太りますので,互いにきつく締め付けられるようになり,巻き付かれた方の
幹に蔓が食い込んで行くようになります。この場合巻き付かれた方の幹の太り方と,蔓
の強さの戦いとなり,蔓に食い込まれた方の木は,幹の肥大生長が異常になり,丈夫な
幹が作れなくなってしまいます。
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