17a 植物の世界「紅葉と落葉」
 
〈いろいろな色素〉
 植物の持っている色素にはいろいろありますが,主なものとしてクロロフィル,カロ
チノイド,アントシアンの三つが挙げられます。高等植物の葉緑体には,クロロフィルa
及びクロロフィルbの2種のクロロフィルがほぼ3対1の割合で共存しています。クロロ
フィルaは光合成細菌以外の全ての光合成生物に含まれており,光合成に不可欠な緑色の
色素です。
 黄葉の原因となる色素のカロチノイドはカロチン類とキサントフィル類に大別されま
す。緑葉にはこの両方が含まれています。カロチンと云う名称はニンジンの根の主要色
素に由来し,これはカキやミカンにも含まれています。
 キサントフィル(黄葉素)の一種ルテインは,緑葉に多く含まれています。また,卵
黄の黄色もこのルテインの色です。このほかカロチン類においてはトマト,スイカなど
に含まれているリコピンが,キサントフィル類においてはパンジーの黄色花に含まれる
ビオラキサンチンなどがよく知られています。
 アントシアン(花青素)は,ヤグルマギクの青い花から取り出された色素に付けた名
前で,赤いバラの花やリンゴ,紫キャベツなどに見られる色素です。紅葉の原因となる
色素は,アントシアンの中においてもクリサンテミンと云う色素です。このクリサンテ
ミンはキク属の赤い花から最初に取り出されたことからこの名称で呼ばれていますが,
ヒガンバナの花,クワの果実など多くの植物に含まれています。
 褐色の本体は,タンニン系の物質です。この物質はカテキン,ロイコアントシアンな
どの無色のフェノール性物質が化学変化して出来た,褐色乃至赤褐色の水に溶けない色
素で,フロバフェンとも呼ばれています。その生合成はアントシアンと同じ仕組みで,
秋にタンニン系物質が葉の細胞に生じて褐葉すると考えられています。
 
〈変化のメカニズム〉
 緑色の葉の内部には,葉緑体と呼ばれる緑色の粒子が存在しますが,この葉緑体の中
に,緑色の色素クロロフィルと黄色の色素カロチノイドが含まれています。秋が深まり
気温が低下して来ますと,葉の働きが弱まり,クロロフィルが分解されるようになりま
す。クロロフィルの量は,カロチノイドの量に比べて8倍も多くあるため,夏の間,葉
は緑色に見えます。黄葉する葉においてはクロロフィルが壊されることによって緑色が
消えて,隠れていたカロチノイドが目立つようになるのです。
 一方,冬が近付くと植物は葉を落とすための準備を始め,葉と枝との境に離層を発達
させます。この離層によって,葉の中において生産された糖分が枝の方に移送されるの
が妨げられ,糖分は葉に残存することになります。紅葉する葉においては,クロロフィ
ルが壊されて葉が黄色くなると同時に,残存した糖分から赤色の色素アントシアンが出
来て,葉は赤くなります。それぞれの葉の内部を見ますと,緑色の葉においては細胞内
の柵状サクジョウ組織に葉緑体の粒がぎっしり詰まっていますが,黄色の葉においてはカロ
チノイドの粒が,赤色の葉においてはアントシアンが柵状組織に満たされています。海
面状組織においてはこれらの色素は疎らで,表皮組織においは殆ど見られません。
 
 赤く紅葉したツタの切片においては,柵状組織内にアントシアンが充満しており,一
方において葉緑体が未だ残っている様子が見られます。なお褐色の葉は,フロバフェン
によって細胞が満たされています。葉の中には,クロロフィル,カロチノイド,アント
シアンなどの色素がいろいろな割合で混ざり合っているため,1枚の葉であっても部分
によって色合いが異なって見えます。サクラやカキのように赤色と黄色の斑マダラに色付
くものもあります。
 
 木々の紅葉の仕方を注意深く観察しますと,樹冠の内部から色付き始める木と,梢の
先端から紅葉するものに大別されます。これは,開葉の仕方と関係すると云われていま
す。順次開葉するタイプのカンバ類,ヤナギ類,ニレ類,カツラなどにおいては樹冠内
部の老化した葉から順次黄葉して落葉し,これに対して一斉に開葉するカエデ類,サク
ラ類,ブナなどは樹冠先端部から紅葉を始めます。
 
〈美しくなる条件〉
 美しく紅葉するためには,温度,光,湿度の三つの条件が必要です。特にアントシア
ン色素の合成には,光と温度が深く関わっています。一般に最低気温が8℃以下になる
と葉は色付き始め,5〜6℃以下になると急に進むと云われていますが,更に日中は温
暖で夜間に急激に冷え込みますと,美しい紅葉が見られます。また,空気が澄んでいて,
葉が十分に日光を受けることも必須条件です。更に,適度な空中湿度も必要で,これら
の環境条件が揃いますと一層美しく紅葉します。深山や渓谷における紅葉が一際ヒトキワ鮮
やかなのは,これらの条件が満たされるからです。微妙な気候のバランスにおいて,紅
葉の色付き方が決まり,その年の雨量や日照量,台風などが紅葉に影響を与えています。
大気の汚れも紅葉に悪影響を及ぼします。また,同じ種類の街路樹であっても,排気ガ
スや日当たり,照明灯などの影響を受けて,紅葉の仕方に微妙な違いが見られます。

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