14 植物の世界「細胞融合による交雑」
植物の世界「細胞融合による交雑」
参考:朝日新聞社発行「植物の世界」
作物の品種改良には,通常同じ種同士,或いは同じ属の近縁種同士の交雑による方法
が用いられて来ました。しかしより良い品種を育成するためには,従来の交雑において
は出来なかった,より遠縁の植物と交雑して,その優良な形質を導入する必要がありま
す。
細胞融合は,こうした必要を満たす画期的な方法として登場しました。この方法から
生み出されたのが「ポマト」と云うジャガイモとトマトの雑種で,1978年に旧西ドイツ
のメルヒャース等によって作出されました。
〈バイテクブームの火付け役〉
細胞融合とは,細胞壁を酵素液によって溶かして裸の細胞(プロトプラスト)を作り,
これをポリエチレングリコールのような化学物質や,電気処理によって融合させるもの
です。そしてこの雑種細胞の分裂・増殖をうまく誘導して植物体に再生させれば,両親
の遺伝子を持つ新しい雑種が出来ます。
しかしこの分裂・増殖の誘導や,雑種植物に稔性ネンセイを持った種子を作らせることは
極めて難しい。ポマトもジャガイモとトマトの中間の形態を示しましたが,果実や塊茎
カイケイが小さく実用性に乏しく,種子も出来ませんでした。ですけれどもこの細胞融合の
成果は,新しい育種技術として世界的に注目を浴び,バイテクブームの火付け役となり
ました。
〈難しい実用化〉
わが国においても,様々なな植物において細胞融合が試みられました。
ナスは青枯アオガレ病などの土壌病害に弱いので,病害に抵抗力を持つ台木専用の品種に
接ぎ木して栽培します。この台木種には,熱帯や亜熱帯に自生するナスが利用されるこ
とが多いため,低温期の生育が悪く,栽培初期の収量は良くありません。また胚軸ハイジク
が細いため,接ぎ木しにくいなどの欠点を持っています。こうした欠点を改良するため,
低温伸長性のある栽培ナスと,土壌病害に抵抗力を持つ野生種との交雑が試みられまし
たが,交雑に成功しなかったり,稔性のある種子が得られませんでした。
しかし細胞融合技術を用いることによって,両者の雑種植物を育成することが出来ま
した。この雑種植物は果実,葉,花などの特性は両親の中間を示し,しかも低温伸長性
と病害抵抗性を合わせ持っており,稔性のある種子が得られたため,新しい台木として
利用が期待出来ます。
更に最近においては,遺伝子を組み換えて新しい品種を生み出す技術が注目を集めて
います。しかし人為的に直接遺伝子を操作することへの倫理的問題や,食品としての安
全性の問題など,解決しなければならない問題が多い。
細胞融合もポマトのように,あまり遠縁の植物の間においては,雑種が出来ても実用
化が難しいなどの問題はあります。しかし自然界に存在する植物同士において行う点で
は,従来の交雑と同じであり,遺伝子組み換えのような問題は起こりません。また,一
旦雑種が出来ますと直ぐに利用出来る利点がありますので,育種技術として大いに活用
出来ます。
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