07 植物の世界「装飾花は"花の看板"」
 
          植物の世界「装飾花は"花の看板"」
 
                      参考:朝日新聞社発行「植物の世界」
 
 小さな花を沢山付ける植物の中には,それらが密に集合して,恰も一塊りの花の盤バ
ン,又は円屋根のような花序カジョを形成しているものがあります。
 こうした花序においては,一つの花序内に両性花と中性花と云う二つのタイプの花が
見られることがあります。両性花は完全な雄蘂オシベ・雌蘂メシベを持ち,花冠や萼ガクが非
常に小さいのに対して,中性花においては雄蘂・雌蘂が退化しているか,あっても稔性
ネンセイがなく,その代わり花冠や萼片が大きく発達しています。そして中性花は多くの場
合,両性花の集団を取り囲むように花序の外周部分にあります。
 このような中性花は,ハナバチ類やハナアブ類のように,花を探すのに発達した視覚
を役立てている花粉媒介昆虫に対し,花序全体を視覚的にアピールしていると考えられ
ていて,「装飾花」と呼ばれています。装飾花が大きいのは昆虫の目を引くため,両性
花が小さいのは限られた面積の中に出来るだけ多く詰め込んで,昆虫の訪花1回当たり
の受粉効率を高めるためであると考えられます。
 
〈色や匂いでも"誘惑"〉
 装飾花を持つ植物の代表例としては,アジサイ科アジサイ属のヤマアジサイ,コガク
ウツギ,ノリウツギや,スイカズラ科ガマズミ属のヤブデマリ,ムシカリ,そしてキク
科植物のうち,ヒマワリにように舌状花ゼツジョウカが不稔で装飾花の役割を果たしている
ものなどが挙げられます。
 これらの装飾花が実際にどの程度,花粉媒介昆虫の誘引に役だっているのかを定量的
に証明することは難しい。何故ならそれらの昆虫は,花の形態だけでなく,人間には見
えない紫外線も含めた色彩や,花密カミツなどの物質の匂いなどを組み合わせて利用してい
る場合が多いからです。また学習能力の高いミツバチなどでは,訪花を重ねるに従って,
装飾花よりも,実際に花粉・花密を提供する両性花からの信号を,主に利用するように
なる可能性があります。
 
〈進化の賜物〉
 しかし装飾花が,実際に花粉媒介昆虫を誘引していると考えられる根拠は,幾つも挙
げられます。
 第一に,コガクウツギを観察したところ,花に飛来したばかりのホソヒラタアブは,
まず装飾花を盛んにアプローチして花密や花粉を舐め,その後次第に隣の両性花へと移
って摂食を続けると云うパターンが多く見られました。
 またアジサイ類やヤブデマリなどの装飾花は,両性花が開花し始める前から展開し,
花序内の両性花が咲き終わるまで残っていますので,訪花昆虫を必要とする期間,安定
した視覚信号となり得ます。
 更に,アジサイ属の装飾花が,萼片の発達したものであるのに対して,ガマズミ属の
それは合弁花冠の発達したものであり,装飾花の"飾り"の由来する器官は異なっている
にも拘わらず,同様な花序を持つ虫媒花である両者の装飾花は,形態・配列とも非常に
似通っています。
 以上のようなことから,装飾花は花粉を媒介する昆虫の行動特性と,植物の受粉戦略
との関連において,長い時間をかけて進化して来たと考えることが出来ます。

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