02a 魅惑の植物世界
 
〈原始的な植物 − 藻類〉
 地球上に最初に発生した植物は,恐らく藻類のようなものであったと考えられます。
藻類は最も簡単な,酸素を生ずる植物で,数種のグループに分けられます。そのうち最
も原始的なものは藍藻類です。主として淡水に生育し,汚れて養分の多い池の水面など
に独特の暗緑色の浮き滓を作り出します。
 藍藻類は単細胞の個体であることもあるが,多くの場合糸状や鎖状になって現れます。
しかし,決して複合した体制は採らないし,二つの生殖細胞が合一した接合子から新し
い個体が発生するいわゆる有性生殖も行いません。それらの長さは1/1000pよりも短い
ので,非常に多くの藍藻が一緒にならなければ肉眼では見えません。
 緑藻は藍藻より複雑で数も多い。淡水,塩水の何れにも生息し,水中を浮動したり,
其処にあるものに付着したりします。ときには鞭ムチのような毛を動かして泳ぎ,水面に
季節の"花"を咲かせたりします。
 環境の条件さえ揃えば,湖や海洋は緑藻で一杯になる筈です。ところが緑藻は生長し
増殖するためには養分を必要とし,その養分となる燐酸塩や硝酸塩などが多量に流れ込
む陸地に近い処でないと繁殖できません。岸に近い海の色は緑色を帯びているのに,外
洋ではそうでない理由もこんなところにあるのです。
 生物はより簡単なものから複雑なものへと進化します。この進化の過程を経て,次第
に多細胞の藻類が現れてきました。それらの数個の細胞がボルボックス(緑藻類オオヒゲマワ
リ科植物の一属)のように緑色の鞭毛を動かしている小さな細胞の群体となって緩やかに
結合したり,アオミドロのように長い毛のような糸状に固まって,池や流れの中の見ら
れます。やがてそれらが,更に進化して,アオサとして知られるウルバや,クジャクモ
のようにより複雑な緑藻となっていきました。これらの藻類は緑色であるところから緑
藻門に分類されています。
 次に褐藻と呼ばれるグループがあります。このグループに属する植物は一般に褐色を
しています。コンブやアラメのような巨大な海藻をケルプといいますが,このケルプは
現存する褐藻の中で最も大きなものです。それらは寒い地域の海岸沿いに海中岩や石に
付着して生育します。沖の深い処では,長さが100mからそれ以上にも達する大きな柄を
持つものもあります。褐藻は一般に海中に生育しますが,潮が入り込む池などでも柄の
短い褐藻が見られます。
 色が赤いところから紅藻と呼ばれるグループがあります。これらもまた海岸沿いに生
育し,屡々褐藻と混生して見られます。ただ,コンブやアラメといった褐藻のように巨
大な海藻にはなりません。
 このほか藻類には,淀んだ池などでよく発見されるユーグレナ類や海中を浮遊するプ
ランクトンの大部分を構成している珪藻類や双鞭毛藻類があります。また,淡水のプラ
ンクトンを構成する黄金藻も藻類のグループの一つです。
 このように進化の母体となった藻類を見てきますと,当然次のような疑問に突き当た
ります。藻類のように植物が太古に発生した原始的な植物で,他の植物はそれらの藻類
から進化したものと考えるなら,どうして藻類自身は今でも太古以来の形態のまま生存
しているのだろうか。その訳は次のように考えられます。藻類のあるものは他の植物に
進化していきました。それと同時にあるものは自己を取り巻く環境に極めてうまく適応
して生存してきたのです。他の植物へ進化したものは更に次から次へと環境を変えて,
進化し続けたに違いありません。
 だからと言って,藻類が太古以来の能率のよい生活形態を今後も引き続いて採ったま
までは,やがては生活できなくなり,絶滅の運命を辿るという訳ではありません。事実,
今でも藻類は水とそれに溶けた化学物質と太陽光線のもとで昔のままの生活形態を保
ちながら生育しているのです。
 
〈進化を証拠付ける葉緑素〉
 それでは,藻類が他の植物に進化したという証拠は何処にあるのでしょうか。その証
拠は,葉緑素と呼ばれる緑色の色素なのです。葉緑素は藻類には勿論,藻類から進化し
たと考えられる植物のどちらにも認めることができます。
 葉緑素はクロロフィルの訳語で,太陽エネルギーを吸収して植物の生長に必要な化学
的エネルギーに変化させる働きをします。植物界にはクロロフィルa,b,c,d,eがあ
り,種子植物,シダ植物などはaとbを持っています。葉緑素の働きによって太陽光線を
化学的エネルギーに変化させて自己を養うことができる植物を,一般に自給栄養の植物
といいます。
 自給栄養の植物は明らかに十分な光を必要とし,それが無ければ発育できません。ま
た,それらの植物は例外なく葉緑素を持っています。かといって,全てが緑色をしてい
るとは限りません。例えば,緑色をしていない藻類でもその多くは葉緑素を含んでおり,
褐色や紅色の色素のため緑色には見えないだけです。それ故,これらの褐色や紅色の色
素を持った細胞が死ぬと,緑色を隠していた色素が洗い流されて,緑色の葉緑素が見え
るようになります。
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