04a 植物生理学3〈植物生理学とは〉
 
 △有機酸の代謝
 @TCA回路とクリオキシル酸回路
 TNA回路はピルビン酸を脱水素してエネルギーを獲得する役割を果たす回路です。
この回路はまた,いろいろな物質の合成のための出発点としても役割を果たしています。
例えばクエン酸やリンゴ酸など中間産物である有機物が合成されます。
 そのほかの有機酸もいろいろな経路で作られますが,特にコハク酸,リンゴ酸,ある
いはオキザロ酢酸クリオキシル酸回路(GOA回路)によって生成されます。
 A有機酸の合成
 一般に植物組織はかなり大量の有機酸を含有しています。乾燥重量当たりおよそ0.1
%ほどが植物組織の平均的な有機酸含量ですが,レモンなどの柑橘類では10%前後にも
達します。一般に若い果実では有機酸含量が高いです。これらの有機酸は呼吸の際,T
CA回路によって生産されますが,特にベンケイソウなど多肉植物の仲間などではCO2
の暗固定がおこり,オキザロ酢酸を経てリンゴ酸が合成されます。
 
 △脂質の代謝
 @脂質の合成
 脂質は,穀類とマメ科を除いた被子植物の種子における主な貯蔵物質として大量に分
布しています。植物の脂質は多くの場合,常温では液状なので,脂肪というよりは植物
油と呼ぶほうが適切でしょう。植物油はグリセリンが長い鎖の有機酸,すなわち脂肪酸
とエステル結合をしたものです。一般によく利用される植物油であるヤシ油の成分はこ
れらの脂肪酸です。
 脂質の成分であるグリセリンと脂肪酸は,いずれも糖に由来しています。
 A脂質の分解
 特に脂肪種子が発芽する際,脂質の分解はグリオキシゾーム中でリパーゼによってま
ずグリセリンと脂肪酸に離れ,ついでβ-酸化によって脂肪酸が酸化分解してアセチル
CoAを生じます。生成したアセチルCoAは,グリヤキシル酸回路に入って酸になりま
す。種子発芽の際,脂質が急速に分解されるとき,若い胚的な細胞内にはしばしばデン
プンが出現します。
 Bリン脂質,テルペン類,その他の化合物
 リン酸を含む複合脂質であるリン脂質は水に不溶で,すべての植物細胞に,ことにそ
の原形質の構造として少量含まれています。例えば原形質膜,葉緑体膜など,原形質の
膜系はすべてタンパク質とともにリン脂質をもち,一般に単位膜として存在しています。
 テルペン類は2個以上のイソプレン単位が鎖状あるいは環状に重合したもので,一般
に(1)低級テルペン類,(2)カロチノイド類(テトラテルペン類),及び(3)ポリテルペ
ン類に分けられます。精油はマツ科,セリ科などで特に多く作られ,葉や樹皮の分泌腺
で,カロチノイドやフィトール合成の副産物として作られます。その生理的意義は明か
でありませんが,太陽直射による植物体の過熱防止や,その匂いによる昆虫の誘引など
に役立つといわれています。樹脂は精油の類縁物質で,精油とともに樹皮の切り口など
から分泌されますが,空気中では精油の一部が揮発したり酸化されたりするため樹脂は
固化します。松脂(マツヤニ)はその例です。
 ロウは植物細胞壁,特に茎,葉,果実の表皮細胞のクチクラ層に存在します。植物体
の表面を覆うロウは細菌侵入から植物を保護したり,表面蒸発を防ぐことによって植物
の水分バランス調節に役立っているものと考えられます。
 
 △2次代謝
 @芳香族化合物の代謝
 植物における生理的意義の明かでない多種多様の物質が生産されていますが,これら
を総称して2次代謝産物と呼ばれています。2次代謝産物の主なものは環状の芳香族化
合物で,非環状の脂肪族化合物は少ないです。例えば2次細胞壁成分のリグニンや,液
胞に見いだされる色素であるアントシアンなどのフラボノイドやクマリン,あるいはタ
ンニンなどが2次代謝産物の代表的なものです。
 これらの2次代謝産物は,芳香族アミノ酸やビタミンKなどの1次代謝産物と同じく,
主としてシキミ酸経路を経て生成されます。
 Aアルカロイド
 アルカロイドとは,一般に含窒素塩基性の環状化合物をいいます。その窒素原子はア
ミノ酸から由来するものと,分子の骨格はテルペノイドやステロイドなどで,生成の終
点近くで窒素が取り込まれたものがあります。前者を真性アルカロイド,後者を擬アル
カロイドといいます。
 アミノ酸から生成されるアルカロイドは,チロシンから数段階の反応を経て合成され,
それらには20数種類のアルカロイドを含むアヘン(その成分はコデインやモルヒネ),
オルニチンから由来するタバコのニコチン,あるいはイヌサフランから見いだされるコ
ルヒチン(コルチシン)などがあります。複合経路によって生成されるアルカロイドは
アミノ酸とMVA,イソプレノイドから作られます。これらの中ではキノリン型アルカ
ロイドのキニーネなどが著名なものとして知られています。
 B代謝の相互関係
 植物の代謝の研究では,酵素の存在を実験的に確認することが動物や微生物に比べて
困難で,このため代謝経路が十分明かでないものが多いです。現在得られます生物細胞
の代謝地図は主として微生物,あるいは動物細胞において見いだされた経路に基づいて
作られており,植物細胞において見いだされたものはそのごく一部です。植物の代謝生
理学はまだこれからもっと開発されるべき分野でしょう。
 
                 参考「植物生理学(増田芳雄氏著)」培風館発行

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