05 植物生理学4〈植物生理学とは〉
 
          植物生理学4〈植物生理学とは〉
 
〈植物の生長と運動〉
 
 △植物生長ホルモンとオーキシン
 植物における種子の形成,休眠,発芽にはじまる生活環の過程は遺伝子のもつプログ
ラムにしたがって進みますが,この間その過程は環境要因の影響を受け,その影響はし
ばしば植物ホルモンを介して及ぼされます。生活環の各相における生長,分化の調節は
単独の植物ホルモンによって行われるのでなく,それらの相互作用によっている場合が
多いです。植物ホルモン,すなわち植物生長物質として現在のところ,(1)オーキシン,
(2)ジベレリン,(3)サイトカイニン,(4)アブシジン,及び(5)エチレンの5種類が知ら
れています。このほか,花芽の形成を誘導する花成ホルモン(フロリゲン)については
まだ明かではありません。
 植物ホルモンの発見に至る研究の経路は,第一段階は生理学的研究,第二段階は化学
的研究です。オーキシンは光屈性の研究,ジベレリンはイネ馬鹿苗病の観察,サイトカ
イニンは組織培養の研究に由来するなど,生理学者による基礎的研究によって発見され
ました。
 @オーキシン研究の歴史
 オーキシンの研究は屈性の研究にはじまります。光の刺激は幼葉鞘の先端部で感受さ
れ,その刺激はなんらかの連絡方法によって屈曲する部分に伝えられ,そこで生長反応
を引き起こすと考えました。
 その後,(1)細胞壁の力学的性質に対するオーキシン作用,(2)エネルギー獲得系,特
に呼吸に対するオーキシン作用,(3)オーキシン作用をもつ化合物,すなわち合成オー
キシンを用いて,オーキシン分子の化学構造と作用性との関係から,細胞内におけるオ
ーキシンの作用点をさぐる,のおよそ三つの方向から研究が行われてきています。
 Aオーキシンの生理作用と細胞の感受性
 オーキシンは主として茎頂において生産され,求底的に移動します。一般に生長の盛
んな部分ではオーキシン含量が高く,生長能力とオーキシン含量は平行しています。オ
ーキシンのこの性質は植物軸の生理的極性と関係してり,また頂芽優勢の原因になって
います。
 オーキシンが植物に対して多様な生理作用を示すのは,オーキシンの作用そのものが
多様であるというより,器官や組織,齢の相違,他のホルモンとの関係など,オーキシ
ン作用を受ける細胞の状態の違いによっていると考えた方がよいでしょう。芽,茎,根
などの器官のオーキシンに対する感受性が著しく異なることはよく知られています。
 B細胞壁の力学的性質に対するオーキシンの作用
 細胞の吸水力を示す拡散圧欠損DPDは細胞液の浸透濃度OCと膨圧TP(すなわち
細胞壁圧WP)の差で表されます。オーキシンが細胞伸長,又は拡大を引き起こすこと
は,主として吸水を促進することによっています。すなわち,オーキシンはDPDを大
きくするわけです。DPDが大きくなるためには,OCが大きくなるか,WPが小さく
なるか,あるいは両者がおこらなくてはなりません。しかし,オーキシンはOCを大き
くしないことが知られています。したがって,オーキシンはWPを小さくすることによ
ってDPDを大きくしていることになります。
 Cオーキシンの化学構造と作用性
 オーキシン活性をもつ化合物を調べて,活性をもつための構造上の条件を知ることは,
オーキシンの作用機作,特に細胞内のオーキシンの作用点を探る上に重要です。また,
このような研究はオーキシン化合物の農業,園芸上の利用にも有用です。この目的のた
め,インドール核酸,安息香酸,フェニル酢酸,ナフタレン酢酸,あるいはフェノキシ
酢酸などの関連物質の作用性が研究されました。その結果,オーキシン活性をもつため
の構造上の条件として,次のようなものが提唱されています。
 (1)環構造,あるいは容易に環構造に変わる構造をもつこと,
 (2)環構造に二重結合(不飽和性結合)をもつこと
 (3)環構造の二重結合に隣接して側鎖をもつこと,
 (4)環構造から1個又は2個の炭素原子を隔ててカルボキシル基又はカルボキシル基に
   変わりうる基をもつこと,
 (5)全体として一定の立体構造をもつこと。
 Dオーキシンの合成と分解
 植物体内のオーキシンは寒天片に拡散する極性移動可能な拡散性オーキシンと,極性
移動しないが,エーテルなどの有機溶媒で抽出できます。いわゆる抽出可能オーキシン,
及び結合型オーキシンがあります。結合型オーキシンはアルカリで抽出されます。エン
ドウにおいては,拡散性オーキシンの量は先端部に多く,その量は生産速度の低下する
基部に向かって急激に低下します。すなわち,生長速度と拡散性オーキシンとの間には
相関が認められます。これに対して,抽出可能オーキシンの量はどの部分にもほぼ等量
見出され,生長速度との間に相関はありません。このような拡散性オーキシン量と生長
との関係は一般に認められます。
 Eオーキシンの作用機作
 オーキシンが多様な生理作用を示すのは,作用そのものの多様性ではなく,オーキシ
ン作用を受ける細胞の種類や状態の多様性によっています。
 オーキシンが細胞内に透入しますと,まず(1)特定の受容体と結合し,(2)これが引き
金となって特定の生化学的反応がはじまり,(3)この一連の反応の結果,特定の生長現
象がおこります。オーキシンの作用機作はこの3段階について解析しなくてはなりませ
ん。オーキシンによる伸長生長が比較的急速におこったり,またオーキシンが原形質膜
透過性を高めたり,あるいは原形質の厚さを変化させたりすることから,オーキシンは
まず原形質膜とある種の結合をすると考えられています。
 他方,オーキシンがRNAの合成を促進するという報告は多く,特に核におけるRN
Aポリメラーゼの活性を増大させることが知られています。
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