04 植物生理学3〈植物生理学とは〉
 
          植物生理学3〈植物生理学とは〉
 
〈植物の代謝〉
 
 △呼吸
 @植物における代謝とエネルギー
 光合成によって生成された糖は,いわば太陽エネルギーが化学エネルギーに転換され
た形です。糖はさらに高分子の多糖類,脂質,その他の物質の合成のための原料となり,
また同時に酸化されて,そのエネルギーは生物に利用可能なアデノシン三リン酸(AT
P)という形に変えられます。この過程が分子状の酸素を用いて効率よく行われる場合,
これを呼吸と呼びます。このような有機物化合物の合成と分解の過程を代謝と呼び,そ
れは酸素によって触媒されます。
 光合成によって生成されたグルコースは,部分的には細胞によって分解され(植物を
摂取した他の生物も同様です。),再び水とCO2になります。このとき得られるAT
Pのエネルギーはグルコースを原料として原形質成分,細胞壁成分,脂質などの貯蔵物
質が合成されるのに用いられます。呼吸によって生じたエネルギーは,これらの合成的
な仕事のほか,浸透的な仕事(物質の呼吸など)にも用いられます。このようにして,
生物特有の遺伝情報の保持,発現という過程も初めて可能となります。すなわち,エネ
ルギーとは仕事をする能力であり,エネルギーの移動又は変換によって仕事が行われわ
けです。このような生物におけるエネルギー変換を取り扱う研究を特に生体エネルギー
論と呼びます。
 Aアデノシン三リン酸(ATP)
 植物細胞,あるいは生物の細胞一般に,代謝の際エネルギーの流れにおいて重要な役
割を果たしているのはATPです。ATPは加水分解しますと大量のエネルギーを放出
する高エネルギーリン酸化合物の一つです。試験管内で高エネルギーリン酸化合物が加
水分解しますと大量の熱を放出しますが,細胞内ではいろいろな生化学的な反応と結合
してATPの加水分解がおこりますので,エネルギー熱として放出されず,それらの生
化学的反応の遂行に利用されます。したがって,ATPは生体反応における利用可能な
化学エネルギーであるといえます。
 B呼吸の収支
 呼吸の過程は,グルコース → ピルビン酸 → 6CO2+6H2O のようになり
ます。
 グルコース → ピルビン酸の過程は酸素を必要とせず,これを無気呼吸又は嫌気呼
吸あるいは解糖と呼びます。ピルビン酸の酸化には分子状の酸素を必要とし,その過程
は,(1)クエン酸回路(TCA回路),(2)電子伝達,(3)ATP生成の3段階に分けら
れます。発芽初期など,植物細胞では酸素を消費しないでグルコースを分解する反応も
あり,これは解糖と同じ反応ですが,特に発酵と呼ばれます。発酵の際には乳酸のほか
エタノール(エチルアルコールともいいます。)も生産されます。
 呼吸の効率は,{(36分子×7.3kcal)/686kcal}(×100)=38%で,熱機関より
ははるかに効率がいいです。
 C呼吸による酸化
 植物空気中ではアルコールや乳酸を蓄積しません。しかし,ピルビン酸は嫌気条件で
も好気条件でも合成されますので,嫌気呼吸と好気呼吸のはじめの段階は同じです。す
なわち,好気呼吸と同じく,嫌気呼吸の生成物も植物ではCO2です。リン酸化は嫌気,
好気のいずれの条件下でもおこります。
 D電子伝達のエネルギー論
 TCA回路で遊離した水素はイオン化し,電子はチトクローム系を経て酸素に渡され
ます。このように電子が一つの物質から他の物質に運ばれる酸化還元反応においては,
電子圧の低い,すなわち陰性の物質から,電位の高い,すなわち陽性の物質へ電子が流
れます。はじめの物質,すなわち電子供与体はいわば還元剤であり,あとの物質,すな
わち電子受容体は酸化剤ともいえます。前者には固有の電子圧があり,後者には固有の
電子親和力があります。これらの電子圧や電子親和力は起電力,つまり電位で測定でき
ます。それぞれの物質の電位は標準状態で測定したとき,標準還元単位と呼ばれます。
 Eミトコンドリア         と酸化的リン酸化
 好気呼吸をする植物など真核生物の細胞はすべてミトコンドリアをもち,ここでTC
A回路と呼吸鎖の反応,酸化的リン酸化が行われます。ミトコンドリアははじめ動物細
胞で見いだされましたが,後に植物でも見いだされました。ミトコンドリアは長さ0.4
〜5μm,厚さ約0.3〜0.8μmの楕円形に近い形をしており,1細胞当たり数個から数千
個あります。ミトコンドリアはTCA回路や電子伝達系の酵素を含み,また,前核生物
型のDNA及びリボゾームを備え,自己増殖的な性質をもつと考えられています。
 F呼吸に影響する要因
 呼吸速度は原形質の状態,呼吸酸素の活性,呼吸基質の供給などに依存していますが,
これらの内的要因は外的要因によって著しく影響されます。外的要因としては,温度(
30〜40℃で最大),酸素分圧(0.2気圧(20〜25%の酸素濃度))などです。
 G呼吸商
 呼吸によって放出されるCO2の容積の,吸収される酸素の容積に対する比,すなわ
ちCO2/O2を呼吸商(RQ)と呼びます。種子が発芽するとき,種子の種類や発芽後
の時間によって呼吸基質が異なるため,RG値は著しく変動します。
 
 △糖の代謝
 @糖の変換
 光合成産物であるグルコースはスクロースの形に変わって転流します。グルコースを
原料とする植物の重要な貯蔵多糖類はデンプンであり,構造多糖類は細胞壁多糖類です。
これは糖のリン酸化によって変換されます。
 Aペントースリン酸経路
 糖の変換における重要な代謝経路にペントースリン酸経路(PPP)があり,これは
多くの点で光合成の暗反応に似ています。PPPは葉緑体の外側,つまり細胞質中にお
こり,酵素も細胞質中に可溶な形で存在しています。
[次へ進んで下さい]