03b 植物生理学2〈植物生理学とは〉
 
 △光合成と炭水化物
 @太陽エネルギーと光合成
 緑色植物によって太陽エネルギーがとらえられ,光合成によって空気中のCO2が固
定され,炭水化物が合成されます。
 
     葉に照射される光の効率
 
  照射された光のエネルギー      計 100%
 
  光合成に用いられるエネルギー        1%
  透過又は反射されるエネルギー        30%
  蒸散のため熱として吸収されるエネルギー  49%
  空気に熱として照射されるエネルギー    20%
 
 固定されたCO2がすべてグルコースになるとしますと,その1モル(180g)の生成
に686kcalの太陽エネルギーを必要とします。上表の1%の太陽エネルギーとしますと,
年間約1.5×10^11tの炭素が地球上に固定される計算になります。
 A葉緑体と植物の光合成能力
 光が当たりますと他栄養的であった芽生えにおいて葉緑体のラメラ構造が完成し,そ
れとともにクロロフィルの生成がおこり,そしてCO2固定回路も完成して,芽生えは
自栄養的代謝を行うようになって乾燥重量が増え,生長します。例えばトウモロコシの
種子1個の乾燥重量は0.4〜0.5gですが,発芽生長して実をつける100日ころになれば,
2,000倍の900g乾燥重量となります。葉の生長に伴って光合成活性が上昇しますが,葉
の生長が定常期に近づくと光合成活性は低下しはじめます。
 B光合成の反応
 光合成の反応は三つの過程に分けられます。すなわち,(1)色素による輻射エネルギー
の吸収,(2)吸収した輻射エネルギーの化学エネルギーへの変換,(3)化学エネルギーを
利用し,CO2を還元してグルコースを合成します。前の2反応は光エネルギーを化学
エネルギーに変換する反応で,明反応と呼ばれ,三つ目の反応は光を必要とせず,暗所
で進行しますので,暗反応と呼ばれます。
 一般に高等植物は光合成によってもう一つの産物である酸素を発生しますが,光合成
バクテリアは酸素を生産しません。
 C光エネルギーの利用
 一般には1分子のCO2の還元に8個の光量子を必要とします。
 植物や緑藻で680nm(赤)より長い波長の光を与えますと,急に量子収量が低下して
光合成の能率が悪くなります。この現象をレッドドロップといいます。長い波長(700
nm)の光を与え,同時に短い波長(650nm)の光をあたえますと,レッドドロップ現象
がみられず,これをエマーソン効果といいます。
 D光合成の明反応
 CO2ガス以外の物質の葉緑体における光化学的還元をヒル反応と呼びます。ヒル反
応,つまり光合成の明反応にはクロロフィルが関与していますが,特に酸素の発生には
クロロフィルbが必要で,クロロフィルbはヒル反応によって酸素を発生する光合成細胞
にだけ存在します。また,ヒルの研究から,光合成によって発生する酸素がCO2に由
来するものでないことが明らかになりました。
 E光合成の暗反応,CO2の透入
 CO2の葉への透入は気孔を通じて行われ,その量は気孔の数に比例しています。気
孔を通じて葉に透入し,光合成によって同化されるCO2の量は大きく,例えばヒマワ
リの葉に十分な光を与えておきますと,葉の面積100平方pごとに1時間に13mlのCO2
が同化されると計算されます。葉において気孔の穴の占める面積は,葉の占める面積の
1%にすぎませんので,1平方pの穴を通じて1時間に13mlものCO2(空気にすれば
43l)が透入することになります。
 G光呼吸とペルオキシゾーム
 暗所における呼吸は,O2濃度が2%で最大になり,それ以上だとかえって阻害され
ますが,明所における呼吸はO2濃度を高めると増大しますから,暗所における呼吸と
は異なった過程によっており,特に光呼吸と呼ばれています。光呼吸の基質は光合成の
産物であるグレコール酸で,これが葉緑体からペルオキシゾームという細胞質顆粒に移
行し,ここで酸化(O2吸収)されてグリオキシル酸となり,アミノ酸を受け取ってグ
リシンになります。グリシンはのちグリセリンになり,葉緑体に戻ります。
 H光合成産物の変化,及びデンプンと構成多糖類
 植物が活発に生長しているときには,乾燥重量が1日に14〜15gも増えます。これは
植物が光合成を活発に行って,CO2を固定して炭水化物を生成し,これを生長のため
のエネルギー源や新しい細胞の構築原料にしているからです。細胞を構成しているタン
パク質,核酸,脂質,細胞壁,貯蔵物質などは,根から吸収された無機化合物を除けば,
すべて光合成産物を原料として合成されます。すなわち,光合成によって生成される炭
水化物は,最終産物というよりは,細胞構成物の原料です。
 光合成産物であるグルコースは,植物のもつ多糖類の基本的な素材です。植物の貯蔵
物質であるデンプンと細胞壁の骨格をなすセルロースは高等植物における代表的な多糖
類です。ヘミセルロースを分解する酵素は一般にヘミセルラーゼと呼ばれます。しかし,
ヘミセルロースと呼ばれる多糖類は多様ですので,ヘミセルラーゼとはこれら多糖類に
作用する酵素の総称です。
 このように,光合成産物はグルコースから出発して多くの種類の多糖類へ変化し,貯
蔵物質としてはデンプンに,そして細胞壁多糖類としてはセルロース,ヘミセルロース,
ペクチンなどに変化します。デンプンは植物のみならず,すべての生物のエネルギー源
として利用され,いわば地球上の全生命がこれに依存しています。細胞壁多糖類は常に
代謝的に回転しており,その分解酵素や合成酵素の働きによって細胞壁が変化し,そし
て生長し,分化します。
 
 △同化産物の展流
 @転流物質と転流の速度
 水や無機塩類は木部導管を通って上昇し,同化産物などの有機物質は篩シ管(ふるい
管)を通って上下に転流します。物質の転流は一般にその物質の豊富な部分,例えばそ
の物質を生産する部分から他の部分へ上昇又は下降しておこります。光合成産物は葉か
ら茎へ,そして茎から生長点及び貯蔵器官へ転流します。
 篩管を通る転流の速度は大きいです。一般に葉から篩管を通るスクロースなどの物質
の転流の速度は,スクロースの水中における拡散速度より大きく,40〜110p/時間に
も達します。
 A転流に影響する要因と転流の機構
 葉からの同化産物の転流量は昼間は大きく,夜は小さいです。これは,昼間は光合成
によって同化産物が葉に蓄積し,他の部分との間に同化産物の濃度勾配が夜間に比べて
大きいためと考えられます。葉に近い篩管細胞の細胞液ほど浸透圧が高く,根に近い部
分の篩管細胞の細胞液ほど浸透圧が低いです。次は温度が影響します。夜間の葉の重量
の減少は同化産物の転流と葉の呼吸によっています。重さの減少は温度にも依存してい
ます。すなわち,転流の最適温度は20〜30℃であって,30℃を超しますと転流速度は低
下します。しかし,呼吸速度は温度の上昇とともに増大します。このため,例えば温度
の低いとき,根では呼吸による糖の消費が小さいですが,根への同化産物の転流が大き
いので,糖が根に蓄積し,貯蔵物質となります。高温のときは葉でも根でも呼吸が大き
く,葉からの同化産物の転流は小さく,根における糖の蓄積もありません。
 圧流説によりますと,葉に近い部分ではスクロースの濃度が高く,その浸透圧のため
篩管細胞は水を周辺部の細胞から吸収し,根に近い浸透圧の低い部分の細胞から水が排
出されます。このため篩管内に水の流れがおこり,同時に同じ方向に同化産物の移動も
おこることになります。このとき,光合成産物は葉肉細胞から篩部細胞へ透入しなけれ
ばならず,そのためにエネルギーを消費します。篩管の細胞は周囲の細胞より高い呼吸
速度を示し,シアンなどの呼吸毒を与えたり,酵素欠乏では転流も阻害されます。
 
                 参考「植物生理学(増田芳雄氏著)」培風館発行

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