03a 植物生理学2〈植物生理学とは〉
C気孔及び葉の構造と機能
蒸散が主として行われる気孔は一般に葉の裏面に多いですが,表裏ともほぼ同数の気
孔をもつ植物もあり,また,水生植物では表に多いです。
葉は表皮,葉肉組織すなわち柵状組織と海綿状組織,及び通導組織(葉脈)からなっ
ており,光合成器官として特徴的な構造を備えています。
表皮細胞は葉緑体をもちませんが,表皮細胞から分化した孔辺細胞は葉緑体をもち,
光合成を行います。孔辺細胞が十分に吸水して膨圧が高まりますと,薄い外側の細胞壁
の方が厚い内側よりも伸長し,孔辺細胞が湾曲して気孔が開きます。すなわち,気孔の
開閉は一種の膨圧変化運動で,その開閉運動は2〜3分以内に完了します。
D根の構造と機能及び土壌水
土壌から植物への水の移動は根,ことに根毛を通じておこります。根には水液や養分
吸収,及び植物体の支持という機能ももっていますが,その一部が変化して肥大したい
ろいろな貯蔵根もあります。このような機能をもつ根は主根と側根からなっています。
その相対的な配置から根系は樹枝状根と,ひげ根に分けられます。吸水は根毛の多い根
毛帯で盛んに行われます。
植物の吸水にとっては,根の生長,発達が重要ですが,土壌の状態も吸水にとって重
要な要因です。根が土壌水を能率よく吸収するためには,(1)よく耕して通気のよいこ
と,(2)吸収できる水の量が十分なこと,(3)植物やその根の生長のため適当な栄養(窒
素化合物,無機塩類)を含むこと,(4)温度が適当であること,などが必要です。
E蒸散と植物の生長
植物は蒸散によって葉の温度調節を行い,蒸散流にのって水ばかりでなく吸収した無
機塩類なども運びます。また,こうして上昇中の水は,単に大気中に放出されるだけで
なく,特に仮導管を通過する水は生長中の細胞に吸収され,植物体の生長に利用されま
す。すなわち,生長中の植物では,蒸散によって失われる水は,植物が生長に用いた残
りの水であるともいえます。
△無機塩類
@植物における無機塩類の必要性
植物の無機塩類要求性を研究するには,ドイツの植物生理学者ザックスの確立した水
耕法などが都合がよいです。(1)植物の正常な生長に必要な無機元素の種類を見いだす
こと,(2)そのうちのいずれかの欠乏によっておこる病的症状を研究すること,(3)植物
の生育に最適な無機元素の濃度と,相互の量的バランスを見いだすことです、
A植物の生育における必須元素の役割と,欠乏による病的症状
無機塩類がどのように植物に対して作用しているかをみる最も明確な目安は,植物の
最終的な生長量です。したがって,欠乏による症状も植物の阻害もはっきりした物差し
になります。また,緑色植物の場合,その最も重要な機能である光合成をつかさどる葉
に病状が現れやすいので,葉の褪色タイショクなどが植物の障害のはっきりした目印になり
ます。事実,12種類の無機元素(無機塩類のうち,Ca,Mg,K,S,P,Fe,B,
Mn,Zn,Cu,Mo,Cl。Nは空気に由来します。なお,このほかではC,O,Hは
空気又は水から得られます。)の大部分のうち,一つでも欠乏すると葉の褪色がおこり
ます。
B必須元素以外の重要な元素
必須元素は,(1)特定の植物に必須性が限定されない,(2)必須性が他の因子によって
置き換えられない,と定義されるとされています。地球上に原始的な植物が現れてから
20億年経つといわれていますが,その間植物は環境に適応しつつ分化し,進化して,現
在その種類は 370,000種あるといわれています。このように多種類の植物がどのように
して一定の栄養の必要性を獲得してきたか,しかも,どうして植物栄養に普遍性と特異
性があるのか,を理解するのが難しいです。
土壌に多く含まれ,植物体にも比較的多量存在する無機元素にSi,Alなどがありま
す。
C土壌中における無機塩類の存在状態と,植物による吸収との関係
土壌中の栄養分は,有機,無機を含め,次の三つの状態で存在しています。すなわち,
(1)土壌に溶けているもの,(2)土壌粒子表面にゆるく結合しているもの,(3)容易に分
解される形で存在するもの,です。無機塩類は前記のいずれの形でも存在していますが,
土壌溶液中ではイオンとして存在しており,根にもイオンの形で吸収されます。これら
の無機イオンは大なり小なり土壌粒子の表面に吸着された形のものが多いです。土壌中
の無機塩類は水と同様,土壌中をほとんど移動しません。したがって,植物が土壌中の
無機塩類を能率よく吸収するためには,土壌中を根が活発に生育しなくてはなりません。
根は土壌中を伸長しながら,水に溶けた無機塩類を吸収したり,あるいは土壌粒子との
接触面で粒子表面に吸着されているイオンを根表面のイオンと交換したりします。
D根における無機塩類の吸収
無機塩類の吸収に関して,植物の生理的要因として,(1)根系のひろがり,(2)根の表
面の性質,(3)根の生理的機能が大切です。根系のひろがりは,その形態,例えば浅根
性,深根性,直根性,あるいは叢根性など遺伝的に決まった根の発達の仕方の他,土壌
の状態にも影響されます。
E無機イオン吸収の機構
無機イオンの吸収は,物理的な吸収と,エネルギーを消費する積極的な吸収に大別さ
れますが,前者の割合が大きいです。
△窒素栄養
@植物における窒素栄養と土壌
植物の原形質構成成分であるアミノ酸,タンパク質,補酵素類,核酸,クロロフィル
などはすべて窒素を含んでいます。乾燥重量当たり植物体は窒素を僅かに1〜2%しか
含んでいませんが,原形質の構成成分であるタンパク質や核酸などではその含量は12〜
19%に達します。したがって,もし窒素を与えなければ植物は生長できません。
土壌中で大部分を占める生物由来の窒素化合物(タンパク質)は一般に水に不溶性で
すので,植物は直ちに利用できません。土壌中に存在する腐敗バクテリアなどの微生物
によってこれらの化合物が分解され,アミノ酸や尿素になります。植物は窒素栄養とし
てアミノ酸をある程度しか吸収,利用しませんが,尿素はよく利用します。
空気中の窒素は土壌中に存在する遊離のバクテリア,らん藻,及びマメ科植物の根に
共生しているバクテリアによって窒素化合物(アンモニア)に変換(窒素固定)されま
す。
A窒素固定と硝化
窒素固定を行う微生物は,マメ科植物に共生する根粒バクテリアと,植物に依存せず
に生活しているバクテリア(好気性土壌バクテリア,嫌気性土壌バクテリア,光合成バ
クテリア,ラン藻など)に大別されます。
NH3は窒素固定の初期生成物ですが,このNH3はバクテリアにこのままの形で蓄積
せず,そのバクテリアあるいは共生の場合は宿主植物のタンパク質,核酸の合成に用い
られます。余分のNH3は土壌中に排出され,多くの場合,硝化された後,窒素固定を
しない植物に吸収されます。硝化とは,NH3が土壌中で急速に酸化されて硝酸に変わ
ることです。
B植物による無機窒素化合物の有機窒素化合物への変換
一般に植物はアンモニアよりタンパク質合成までに,手間のかかる硝酸塩の方を好ん
で利用します。その理由は,アンモニアの濃度が高くなると植物にとって有毒になるか
らと考えられます。植物は硝酸塩だけでなく,直接アンモニアを吸収してアミノ酸を合
成しますが,アンモニアが過剰に存在しますと,根の呼吸阻害,葉緑体における光リン
酸化反応の阻害,CO2固定の阻害,デンプンなど多糖類合成の阻害などを受けます。
アンモニアは,グルタミン酸脱水酵素,グルタミン合成酵素,カルバメートキナーゼ
の三つの働きの過程を経て,有機化合物に取り込まれます。
C植物のタンパク質
植物には器官や組織に特徴的なタンパク質が存在し,細胞の分化はタンパク質の種類
によって決められます。
種子には比較的多量のタンパク質が含まれています。種子が発芽しますと,貯蔵タン
パク質は種子のもつタンパク質分解酵素によって急速に加水分解され,生じたアミノ酸
は生長しつつある胚に運ばれて新しいタンパク質の合成に用いられます。
葉のタンパク質は,葉緑体タンパク質,細胞質可溶性タンパク質,核タンパク質の3
グループがあります。
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