50 米国の国有林野におけるレクリエーションの現況
 
        米国の国有林野におけるレクリエーションの現況
 
               参考 大日本山林会発行「山林'94.5(山口和男氏)」
 
〈はじめに〉
 米国における公的レクリエーション資源といいますと,すぐに国立公園を思い浮かべ
る人が多いですが,利用者数の点からみますと,国有林の利用状況の方が,国立公園の
それに比べて遥かに多いです。
 
   米国における公共レクリエーション資源の利用状況(百万 利用者時間)
 
      区 分       1965年 1980年
      国立公園        600    1,042
      国有林       1,900    2,819
      ダム・人造湖周辺域 1,250    2,420
      その他          50       86
      合計        3,800    6,367
 
 また将来的にも,ますます国有林におけるレクリエーションの機会が増えると予想さ
れています。日本では米国の国立公園制度については,しばしば紹介されているものの,
国有林でのレクリエーションの現況についてはあまり知られていません。本稿の目的は,
米国の国有林におけるレクリエーションの現況について政策的背景を交えながら紹介す
るものです。
 
〈米国国有林におけるレクリエーション政策の概要〉
 1891年に米国最初の国有林(当時は保留林FOREST RESERVE)が指定されて以来,今日
までに,19,100万エーカー(7,730万ha 日本国土の2倍強)が指定されており,国土全体
226,400万エーカー(91,600万ha)の8.44%にあたります。その内訳は94.7%が森林,残り
が草地その他となっています。国有林の88%がロッキー山脈以西及びアラスカに分布し
ているのは,開拓の歴史と符合しています。国有林の管轄は,職員3万人を有する米国
農務省森林局です。
 国有林におけるレクリエーションの歴史は,他の機会に譲るとして,現在のレクリエ
ーション政策に関係する主な四つの法律について簡単に紹介しましょう。
 第一の法律は,1960年に可決された「多目的利用・持続的収穫法」です。この法律は,
森林局に対し,国有林における林業・牧畜・レクリエーション・水源保護・野生生物と
魚類・原生自然地域の管理の六つの目的を達成することと,その利用に際しては持続的
利用を行うことを義務づけています。
 第二の1974年「森林・放牧地の再生可能な資源に関する計画法」では,前記六つの目
的を達成すべく長期的な計画案を策定することが義務づけられると共に,レクリエーシ
ョンに関しては,原生に近い地域から,かなりの開発を行う場所までを包括的に検討し,
利用者の幅広い要求に応えることを明記しています。
 第三は1976年の「国有林管理法」です。この法律は,先の「森林・放牧地の再生可能
な資源に関する計画法」をさらに強化するものとして,従来より優先されがちであった
木材生産と他の資源利用を両立することを強調したほか,森林計画にあたっては,住民
参加をさせることなどを盛り込んでいます。
 最後に重要な法案として1970年の「国家環境政策法」が挙げられます。これは,環境
アセスメント法であり,国有林のみならず国有地におけるすべての開発・生産・改変行
為について環境アセスメントを厳しく義務づけています。この法律によってレクリエー
ションたりとも無秩序な開発ができないようになっています。
 この他にも,レクリエーション関係の法律として,河川保護に関する法律やトレール
(道なき道を走ること)保全の法律などがありますが,前記四つの法律が国有林におけ
るレクリエーション政策の基本となっています。
 △具体的な国有林のレクリエーション政策
(1) レクリエーションは,多目的使用の一つとしてとらえられる。他の目的と競合する
場合においても,特別のレクリエーション地域(国有レクリエーション地域,国有林
景観地域など)を指定することができる。
(2) 希少な野生動植物の保護及び環境保全を前提とした継続的利用のレクリエーション
を指向する。
(3) 一部のレクリエーション利用者よりも国民全般のレクリエーション需要に応える。
(4) 見物的(受動的)レクリエーションよりも能動的レクリエーションに重点を置く。
しかも,安価で特別な技術・道具を必要としないレクリエーション活動に重点を置く。
(5) 利用者に対しては,環境保全・安全及び人権を疎外しない限り法的規制は最低限と
する。
(6) 地域に応じて,他の官庁及び私的組織とも協力し,経済効率の良い,しかも幅広い
レクリエーションを提供する。
 △前記基本政策を補強する,ワーキングショップによる国有林の今後のレクリエーシ
  ョン戦略の提案
(1) レクリエーション戦略の最終目的は利用者を満足させることであり,このためには,
利用者の幅広い需要を把握すると共に,人々とのパートナーシップが重要である。
(2) 財政的基盤を国庫外からも得る必要があり,そのために財政獲得のプログラムづく
りを推進する。
(3) 弱者,少数派とのパートナーシップを取り入れる。
(4) レクリエーション戦略履行のための研究や新技術の獲得を行う。
(5) ボランティアや若者といった人的資源と,そこからの新しい発想を取り入れていく。
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