25 すみたてまつらむ〈木炭とは〉
△茶炭:茶譜(中世)
古田織部時代ヨリ,池田炭引切テ,両切口を払テ水ヘ入,茶筌ノ穂ヲ以皮メヲ堅ニ洗
テ,日ニ四五日ホド干テ仕レ之。然バ鼠クサイ香モ無レ之。又手ニモ不レ付,又炭ノ性
モ愈 強シ,其比大名衆ハ,其洗水ヘ薫物ヲ入テ洗ヒシト云。
△炭櫃:調度歌合(平安時代)
一番 右 すびつ
埋火のしたにこがるるかひもなくちりはひとのみ立浮名哉
△火鉢:宗五大草紙(江戸時代)
殿中さまざまの事
一 御対面所にはちうしやくの火鉢ををかれ候,十月朔日より日鉢ををかれ候,たて
炭なるべし,私ざまにても急度したる時は立炭なるべし,又女中に置れ候御火鉢は,
源氏の絵などに書たるやうに台にすはりたる御火鉢也,其台はこくしつにぬりて,ま
きえかな物あるべし,又炭さしそゆる事は手にて置べし,男女おなじ
△炭質:南方録(中世)
客炭を見る心用之事
昔隅切までは,炭をつぎたる時,客者見物すると云事はなし,是台子より移りたる折
りからなれば,台子にて炭見物なき侭にて有ける,古風成けるに,右切りの向炉に成
て,客の眼下成故,釜引き上る時炉中を見入て火相に心を付,扨炭を次たるを見て,
其座延縮め,火の移りを急ぎ,又は移りを遠くする等の主の心遣に感を起し,挨拶し
ける事成を,偏に炭を饗膳のもり形のやうに心得,主も夫を専らに置ならべ,客も其
盛かたを見物して,炭出来不出来を挨拶する事,大成ひが事なり,然共根本露地の茶
の本意,湯相火相三炭の次第をもわきまへぬ輩は,さこそ有べけれ
△医療:大和本草(貝原益軒/近世)
本草を考るに櫟イチイの炭火は一切の金石の薬を煎,煖炭火は百薬を煎てあぶるに宜し,
今按,かひぎ,くぬぎなど堅き木の炭性強し,発散瀉下のつよき薬を煎すべし,其余
のやはらかなる木のけし炭を用て滋補の薬を煎ずべし。
△境界標示:嬉遊笑覧(近世)
安永二年巳二月頃,新大橋際三俣埋立地できぬ,其頃伊豆天城山にて始て炭を焼,同
国二科一色村文右衛門と云うもの,運上金を差出し此事を営む,炭を上中下に別ち売
に,下の分は粉砕けたるこな炭にて,蛤粉を焼に用しが,此時中洲を埋め築く者ども
工夫して,これを買埋めしかば,はか行て成就すと云ふ
〈炭の種類/近世〉
△地名によるもの
秋田炭,仁別炭,羽前炭(山寺炭),大沼炭,常陸炭,佐倉炭,久留利炭,安房炭,
八王子炭,青梅炭,相模炭,鶴来炭,越中炭,能登炭,輪島炭,越前炭,甲州炭,
信濃炭,飛騨炭(吉城炭,荒城炭),天城炭,伊豆炭,駿河炭,藤(富士)炭,三
河炭,太平炭,伊勢炭,田丸炭,近江炭,小野炭,鞍馬炭,横山炭,光滝炭,堺炭,
一倉炭,池田炭,播磨炭,吉野炭,山中炭,長谷炭,宇陀炭,熊野炭,日高炭,田辺
炭,長島炭,新宮炭,因幡炭,伯耆炭,意宇炭,出雲炭,備中炭,安芸炭,備後炭,
伊予炭,宇和炭,土佐炭,阿波炭,池田炭(阿波),祖谷炭,川崎炭,筑前炭,豊前
炭,大分炭,日向炭,薩摩炭(地炭,御国炭)
△原木材料によるもの
姥目ウバメ(馬目)炭,松炭,槭カエデ炭,榿ハリノキ炭,朴ホオノキ炭,椎檍カシ炭,椢クルミ炭,
櫟クヌギ炭,栗炭,槲カシワ(檻)炭,椚クヌギ(欅)炭,桜炭,桂炭,槻ツキ炭,つつじ炭,
雑木炭,堅木炭,桐炭,かしを炭(かせをすみ,えせひの木炭)
△形状によるもの
黒炭(烏金),白金(烏銀),小炭,折炭,枝炭,細炭,切炭,割炭,管炭,毬枝炭,
菊炭,獣炭
△性質によるもの
堅炭,荒炭,和炭,麩炭,毛炭,柔炭,煎炭,起炭,爆ハゼ炭,駱駝炭,トマラズ
△用途によるもの
火取炭,鍛冶炭,焚炭,磨炭,添炭,榾ホタ(加久井,囲)炭,胴炭,四方炭,点取炭
△その他
伝馬炭,消炭,足助炭,久蔵炭,備長炭(堅備,浅備),俵炭,御用炭,触番炭,売
炭,野焼炭,神代炭(自然)など
参考 「木炭」法政大学出版局
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