22a 松あれこれ〈日本人と松〉
 
〈「魏志倭人伝」の植物は主に薬用〉
 著者によれば,魏志倭人伝の植物(竹を除く)は,主として薬用の,栽培種又は半栽
培種で,いずれも中国に自生し,今日まで親しまれ,敬われているものです。
 
 ウメ    中国原産の落葉高木で,実はシソの葉と一緒に塩漬けとして食用とし,
       古くは薬用とされました。
 スモモ   中国原産の落葉高木で,実は完熟すると甘く,生で果物とします。
 モモ    中国原産の落葉低木又は小型高木,葉は民間薬,実は重要な果物です。
 クスノキ  中国・日本の各地の暖地に自生する常緑高木で,樟脳を採り薬用とし,
       材から各種の器具を作ります。
 フウ    台湾,中国に自生する落葉高木で,樹脂は芳香があり,民間薬とします。
 タチバナ  中国・日本の暖かい地方に栽培されている常緑高木で,実は果物として
       食用します。
 サンショウ 中国・日本の各地の山地に生えますが,通常人家の近くに植えられる落
       葉高木で,若い葉を食用,果実は薬用又は香味料とします。
 ショウガ  熱帯アジア原産で,現在は世界的に広く栽培されている多年生草本で,
       根茎は食用及び薬用とします。
 ショウガ  熱帯アジア原産で,現在は人家に栽培されている多年生草本で,花序と
       花芽は食用とします。
 
〈いにしえの松の歌〉
 △古事記
  尾張に 直に向へる 尾津の崎なる 一つ松 あせを 一つ松 人にありせば  
  大刀佩ハけましを 衣着けましを あせを(倭建命)
 
 △万葉集
  一つ松幾代か経ヘぬる吹く風の声オトの清きは年深みかも(1042 市原王)
  たまきはる命は知らず松が枝を結ぶこころは長くとぞ思ふ(1043 大伴家持)
 
  磐代イハシロの浜松が枝を引き結び真幸マサキくあらばまた還り見む(巻二141有馬皇子)
  家にあれば笥ケに盛る飯イヒを草枕旅にしあれば椎シヒの葉に盛る(卷二142  〃)
 
  わが屋外ヤドの松の葉見つつ吾アレ待たむ早帰りませ恋ひ死なぬとに(卷一五3747)
  大伴の御津ミツの松原掻き掃ハきてわれ立ち待たむ早帰りませ(卷五895)
 
  大伴の高師タカシの浜の松が根を枕に寝ヌれど家し偲シノはゆ(卷一66)
  住吉スミノエの野木ノギの松原遠つ神わご大君のいでましどころ(卷三295 角麻呂)
  大伴の御津ミツの松原かき掃ハきてわれ立ち待たむ早帰りませ(卷五895)
  住吉の岸の松が根うちさらし寄せ来る波の音の清サヤけき(卷七1159)
 
〈折り枝〉
 平安時代の宮廷生活では,行事や,折々の贈り物をするとき,いずれも美しい錦の布
で包み,木の枝を折ったものに結び付けて,それを渡すのが風流とされていました。
 
 折り枝の愛でられる部分 植物名  季節
 
 美しい花        桜    春
             藤    春
             せんだん 春
             空木   春
             山吹   春
             しおん  夏
             ききょう 秋
             なでしこ 秋
             すすき  秋
             菊    秋
             萩    秋
             梅    冬
 
 みずみずしい葉     柳    春
             菖蒲   夏
             しきみ  夏
             榊    秋
             呉竹   秋〜冬
             松    冬
             杜     
 
 色あざやかな葉     紅葉   秋
 美しい果実       橘    冬
 白く清らかな根     菖蒲   夏
 
 なお,万葉集には,約166種の植物が登場し,ハギ,ウメ,マツ,藻モ,タチバナ,ス
ゲ,ススキ,サクラ,ヤナギ,アズサがベスト10です。
 
                        参考 「松と日本人」人文書院
[次へ進む] [バック]