22 松あれこれ〈日本人と松〉
 
            松あれこれ〈日本人と松〉
 
                    松は,わが国の樹木のなかでもっとも普通
                   にみられる樹木で,北海道と高山帯を除けば
                   国内の到るところに生育している。古代から,
                   日本人の生活範囲の拡大とともにその生育地
                   域を拡げてきた樹木の一つで,日本人はこの
                   松を建築材,暖房用や食物を調理する燃料,
                   あるいは土木用資材などに活用してきた。そ
                   して,一年中緑の葉を茂らせていることから
                   縁起のよい樹木,神の宿る神聖な樹木と考え
                   るなど,精神面でも松は日本人の心の中に大
                   きな位置を占めていた(以下略)。
                    と,著者の有岡利幸氏があとがきで述べて
                   います。
                    本稿は人文書院発行の「松と日本人」を参
                   考に,データ的な記述を抜粋してみました。
                                     SYSOP
 
〈日本人と松〉
 
〈松とはアカマツ,クロマツの総称〉
 松の木は,植物学的にはマツ科マツ属に属しています。そして2葉に分かれた針葉を
もつ樹木です。また,高木になるものと,低木のものとがあります。
 わが国に自生している松は,アカマツ,クロマツ,ハッコウダゴヨウ,チョウセンゴ
ヨウ,ヒメコマツ,ハイマツなどです。
 なお,アイグロマツは,アカマツとクロマツの雑種です。和華松ワカマツは,松くい虫対
策のために作られた一代雑種の松で,日本産のクロマツを母親として,中国産の馬尾松
バビショウの花粉を交配したものです。
 また,トドマツ(モミ属),エゾマツ(ハリモミ属),カラマツ(カラマツ属)は属
が異なるので,通常は松の仲間には入れません。
 我々がごく普通に松と呼んでいますのは,葉っぱが2枚のアカマツとクロマツで,他
の5葉の種は単にゴヨウマツと呼んで区別しています。
 アカマツはその葉が繊細な感じがしますので雌松とも呼ばれ,クロマツは針葉が太く
剛毅に感じられますので雄松とも呼ばれます。
                                                                              
〈松の呼び名〉
 △松
 五大夫,十八公,木公,貞木,偃蓋山,木長官,枯竜,千歳材,歳寒枝,青士,節
士,丈夫,清友,桓友,叢木,支離叟,青髯叟,木中仙,寿鬣,涼繖樹,宗老,鮓子南,
不臣木,虻枝,髯御史,赤葛御孫,葉桓盛,ひさきぐさ,ときわぐさ,ひさまぐさ,く
もりぐさ,とわれぐさ,ねざめぐさ,ときみぐさ,ちよみぐさ,いくさぐさ,ひさみぐ
さ,いろなしぐさ,おきなぐさ,はつよぐさ,ときよぐさ,ちえぐさ,ちよき,ととち
よさ,とかえりぐさ,たむけぐさ,めざましぐさ,ことひきぐさ,みやこぐさ,ももく
さ,はつみぐさ,とよちよぐさ,えんぎぐさ,とわれぐさ,ものみぐさ,をりみぐさ等
 △赤松
 マツ,メマツ,メンマツ,ヲナゴマツ,ヲンナマツ,アカメマツ,アカホマツ,フタ
バマツ,ノラマツ,青松,アカマツ,ドヨウマツ,ヤニカキマツ,アガマツ,ヂマツ,
ナイチマツ,陸松,ことひきぐさ,鈴くれぐさ,あさみぐさ等
 △黒松
 クロマツ,マツ,オマツ,オンナマツ,オトコマツ,シロマツ,シロホマツ,シロホ
イ,シラホ,イソマツ,ハママツ,ギンミドリ,ソナレマツ,海風松,陽松,イマツ,
ノトマツ,ヒメクロマツ,オニコ,オニマツ,マテ,雄松,白芽松,白穂松,黒皮刺松
等
 
〈松は極めて生活力の強い樹木〉
 わが国での松の自生地では,アカマツの北限は北海道苫小牧市樽前山国有林,クロマ
ツは青森県下北半島先端部の民有林です。
 海抜高では,アカマツは長野県下の大山国有林2290m付近,クロマツは鳥取県下の大
山国有林950m付近です。
 低いところでは,両種とも京都府下の天の橋立,福井県下の気比の松原などの海辺の
波打ち際で,海抜高1m前後です。
 アカマツは,林地が山火事や伐採,溶岩流などで裸山になったとき,最も初めに根を
おろすほど,逞しい生命力を持っています。
 
〈わが国における松の植生拡大〉
 長野県野尻湖の堆積物に含まれている花粉の分析によると,およそ1500年以前から,
マツ属の花粉が急激に増加しています。同時に,イネ科の栽培種,アカザ科及びソバの
花粉の集団も増加しています。
 そして,本州以南の低地帯で樹木花粉が急増し,これは農耕活動の活発化のために,
平地の森林を切り開いた結果です。これは植生遷移の典型で,最初に草本性植物が開拓
地に侵入し,続いて農耕の行われない低地の斜面にアカマツ林,高地の斜面にシラカン
バ林のような陽性の植生が優先しているのである,との報告例があります。
 
〈「魏志倭人伝」の植物名の一例(参考)〉
 西暦3世紀頃,中国で書かれた魏志倭人伝には,何故か「松」が記されていません。
 このことは,倭に松が生育していたのにかかわらず,中国における名木に的をあてて
記載したものと考えられます。
 
 魏志倭人伝記載名 読み方の例  読み方した植物の分布等
 
 ダン(木冉)   クス     暖帯から亜熱帯に生育
          タブノキ   暖帯から亜熱帯
 
 杼チョ       トチ     温帯
          コナラ    温帯
 
 豫樟ヨショウ     クスノキ   暖帯から亜熱帯
 
 ジュウ(木柔)  ボケ     中国原産
          クサボケ   暖・温両帯
 
 櫪レキ       クヌギ    暖帯北部から温帯南部
 
 投トウ(木皮)   スギ(カヤ) スギは日本特産
          カヤノキ   本州中南部,四国,九州
 
 橿カシ       カシ(類)  暖帯
 
 烏號ウゴウ     ヤマグワ   温帯
          カガツガユ  暖帯
 
 楓香フウコウ     オカツラ   温帯
          カエデ類   温帯から暖帯
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