24a 樹木精油成分の利用
〈樹木精油成分の生物活性〉
△ダニに対する活性
住居内のゴミ,すなわち室内塵中に棲息するダニが気管支喘息等のアレルゲンとして
注目されています。室内塵中に見出されるダニの種類は100種類ほど確認されています
が,その中でも特に多いのがヤケヒョウヒダニ,コナヒョウヒダニです。これらのダニ
の死骸や糞が空中に舞い上がり鼻や口から吸い込まれて喘息等の原因となります。住居
の機密化,暖房設備の普及等がダニの繁殖に適した高温多湿の条件を室内にもたらし,
さらに生活様式の洋風化に伴って使用されるカーペット等がダニの良い棲み家となりま
す。室内塵中に棲息するダニ数の増加に伴い,ダニの害に悩む家は年々増加しています。
樹木精油には,室内塵性ダニ類に対して殺ダニ活性を持っているものがあります。ニ
オイヒバ,ユーカリ,ネズコの葉油は強い殺ダニ活性を持ち,ヒノキ,スギ,ベイヒバ,
ベイスギなどの材の「におい」成分はダニの繁殖を抑制します。ヤクスギ土埋木は,正
常の生立木の6倍もの精油を含み,強い「におい」を発散しますが,その精油はヤケヒ
ョウヒダニに対し,強い殺ダニ作用を持っています。
△抗菌・抗カビ作用
樹木の抗菌・抗カビ作用は古くから経験的に知られ,生活の中でも利用されているも
のが多いです。サクラ餅やササ団子の葉は容器として使い見栄えをよくする目的もあり
ますが,葉の抗菌・抗カビ作用を利用して食べ物を雑菌から保護する意味もあります。
葉油で抗菌・抗カビ性の強いものにニオイヒバ,ヒノキ,ヒバ,ツガ,カラマツ,モ
ミ,レモンユーカリ,シキミなどがあります。精油の抗菌・抗カビ活性は通常,100〜
1,000ppmで現れます。合成薬剤に比べるとその活性は弱く遅効性ですが,副作用や残留
毒性が少ないなどの良い面を持っています。材油ではヒバ,ヒノキが強い抗菌・抗カビ
性を持っています。木材腐朽菌に対しても活性のあるこれらの材は当然ながら耐朽性に
優れています。法隆寺や中尊寺金色堂等歴史上の建築物で今なお健在なものにはヒノキ,
ヒバ材を使用しているものが多いです。
ヒノキ埋木精油に多量に含まれるα-カジノールは虫歯菌に対し強い抗菌性(20ppm)
を示し,ヤクスギ土埋木精油も抗菌・抗カビ活性を持っています。ヒバ材油は,最近院
内感染の原因で話題になっているメチシリン耐性ブドウ状球菌(MRSA)の繁殖を50ppm
程度で抑える働きを持っています。抗生物質などの強力な医薬品で抑えきれないカビや
細菌に対して樹木精油が効果を発揮するのは興味深いです。
△消臭作用
ヒノキ葉油,トドマツ葉油,ヒバ材油は60ppmのアンモニアガスに対して90%以上の
脱臭率を示し,二酸化イオンに対しては精油の5%濃度でも100%の脱臭率を示します。
ほかにもアビエス葉油,桂皮油,シベリアモミ葉油,ヒノキ葉油が硫化水素に対して効
果があり,アビエス葉油,セダーウッド油,ヒノキ材油,シベリアモミ葉油,マツ材油
がトリメチルアミンに対し消臭効果を持つことが知られています。
△人に対する作用
樹木精油の薬理作用は古くから知られ,医薬品の中に混ぜられて使用されているもの
も少なくありません。これらのほとんどは服用,塗布等によるものですが,最近では精
油の気体状態での作用,すなわち「におい」を鼻や口から吸い込んだときの効果の実証
例が増えています。樹木精油の雰囲気の中では「におい」の無いときに比べ疲労が軽減
することや,ストレスのもとで現れる精神的発汗の減少とともに,脈拍数が減少し安定
することなどから,樹木精油の「におい」の下では安静時にみられる副交感神経系の働
きが現れ,緊張が解きほぐされることが明らかにされています。また,作業能率を増加
させ,気分を集中させる働きのある材油の「におい」の存在も認められています。
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