24b 樹木精油成分の利用
 
〈樹木精油成分の利用とその将来性〉
 樹木精油成分の抗菌・抗カビ,殺ダニ,快適性増進作用等の多様な働きを利用し,多
面的な機能を持つ製品の開発が行われ,精油の新しい用途が増加しつつあります。合板
に精油を付加した芳香建材や,中空部に精油を練り込んだ短繊維などはその一つです。
芳香建材としては床板,壁板,天井板が市販され,芳香繊維からは,布団,カーテン,
衣類等が製造されています。
 
         樹木からの精油採取と精油の主な用途
 
              大径木・間伐木                                    
                 ↓                                          
                            ――――――――
                            ↓      ↓
                         末木枝条    用材
                            |            ↓
              |   ―――――――
    枝打ち等による   |   ↓  ↓  ↓
    林地残材      |   樹皮 鋸屑 端材
      |       |   ↓  ↓  
      |       |   ―――――――
      ↓       ↓      ↓
      ――――――――――――――――
              ↓粉砕
                 
              ↓蒸留
      ――――――――――――――――――――――――――――
      ↓          ↓                     ↓                 ↓
   精油    留出水          熱水抽出物        残液
   |     |            |                 ↓
   |   ―――――         ↓濃縮・分離  ――――
   |   ↓   |       オリゴ糖類       ↓  ↓
   |  入浴剤   ↓吸着・分離                堆肥 木灰
   |        精油
      |
      |
      |→消臭剤
     防ダニ剤・防蟻剤
     昆虫忌避剤
     防カビ・防菌剤
     抗酸化剤
     香料(室内芳香剤・フレーバー・タバコ香料等)
     繊維への利用
     建材への利用
     養毛剤
     入浴剤
     菓子(飴)
     香料原料
     医薬品原料
     その他
 
 技術の進歩により 成分分離法や生物検定法などが容易になっています。これらの方
法による新しい成分の発掘に加え,天然のものを好む自然志向の風潮が追い風となって,
精油の用途は今後もさらに拡大していくことでしょう。
 精油関連の特許は昭和59年54件から平成元年114件へ,公開された実用新案も同年169
件から同年226件へと増加しています。樹木精油に関するニーズも,森林浴ブーム等に
よる森林の香りへの世の中の関心の高まりとともに膨らみつつあります。柑橘系やフロ
ーラルな香りが主だった室内芳香剤や入浴剤に,最近では樹木の爽やかな香りが組み入
れられるようになってきたことからもその様子が窺えられます。
 また,比較的狭い空間で家族等の身近な者に限られて使用される室内芳香剤や車内用
芳香剤等の従来の芳香剤に加え,最近ではホテルのロビー,病院,大きな会議室等の広
い公共の場で芳香剤が使用されるようになってきました。広い空間を持つ公的な場で用
いられる香りは,環境フレグランスとして積極的に利用されだしています。香りに対す
る好みの異なる人たちの集まる公共の場に流す香りは将来は生理的評価のみならず,進
歩した官能評価技術を駆使して多くの人に満足感を与えるものが選択されるでしょう。
また,放置するだけの室内芳香剤と異なり,大きな空間を対象とする環境フレグランス
では,空間の隅々まで香りを行き届かせるための空調等の大型システムが必要となって
くるでしょうし,常時香りを流すのではなく,ストレス解消に最も効果のあるような時
間をコントロールできるコンピュータシステムが不可欠となります。
 香り空間の大型化に伴い,当然ながら消費する精油量が増大することが予想されます。
環境フレグランスに限らず,芳香建材や芳香繊維の出現によって樹木精油の大量消費が
見込まれます。このような新製品を一時の流行に終わらせることなく,生活の中に定着
させるためにも,大量消費に対応できるだけの樹木精油の生産が必要でしょう。それに
は鋸屑や製材端材等の工場廃材だけでなく,間伐材や末木枝条等の林地残材の利用,用
材の除湿乾燥時に副成する精油の利用等多方面からの精油採取が行われ,精油生産量が
確保されなければなりません。
 樹木精油の場合,地域の精油採取業者が精油を採取,室内芳香剤的な小物製品の開発
を行い,地域的に販売している例をよくみかけます。アイデア溢れるこのような製品に
消費者の目も最近ではよく注がれていますが,樹木精油に秘められた多様な働きを活用
するためにも製品化した場合の機能性の評価と,製品の大量生産能力,広範な販路を持
つ企業の参画が必要です。樹木精油利用が一つの安定した産業として位置づけられるた
めには,地域の精油椎主業者と企業との連携が不可欠でしょう。
[詳細探訪(香木と香道)]
[バック]