15 庭園の中の木材〈京都の庭園と木材利用〉
庭園の中の木材〈京都の庭園と木材利用〉
参考 山林'93・12「京都の庭園における木材利
用の特徴/小林章氏」
〈はじめに〉
京都の伝統的庭園の木製工作物と茶室における木材利用の特徴を,用途,樹種,加工
方法,木材産地の側面から歴史的,地理的に概観してみました。茶室・露地(茶庭)は
茶の湯という立場から茶人によって構成されたものですが,茶室は数寄屋造りに代表さ
れるように日本の建築に,また露地は日本の庭園にそれぞれ大きな影響を与えてきまし
た。
文献調査と現地調査を並行しましたが,近世の茶書と作庭書の文献・絵画史料にみら
れる京都の庭園の木材利用(用途,樹種,加工方法)と,現代の京都の伝統的庭園の木
材利用がほぼ同様であることが認められ,かつ近世及び現代の京都周辺の木材産地から
京都への木材供給とその庭園における利用が認められますと,近世以来の京都における
庭園の木材利用のありようを推定することができると考えました。
〈史料にみる茶室・露地の木材利用〉
茶書の記述から,茶室,露地の木材利用についてみます。
「山上宗二記」(天正17年1589)には,千利休の頃の内容とみられますが,茶室の木
材として,丸柱に「女松の皮付き」,「栗の皮付き」を,床柱に「京丸太」,「桧皮む
き」を挙げています。山上宗二は境の出身ですが,京丸太の名がみえ,女松はアカマツ
でしょう。
「茶譜」(寛文4〜13年1664〜1673)によれば,千利休については「昔ノ松角柱ヲ立
シヲ松ノ皮付柱に仕替又ハ杉丸太ノ柱ヲ立 ・・・・・・ 天井ノ鏡板ヲ取テ ・・・・・・ 杉カさわ
ら木ノ長片木板ヲ其幅一寸ハカリニシテ少黒ク色ヲ付網代ニ組テ天井ニ張 ・・・・・・ 此庇
ハ木ノ皮付杉丸太ノ椽タルキ也」と書かれました。
古田織部流については,外腰掛,内腰掛に共に「杉ノクレ縁」が使われ,外雪隠には
「杉桁」を用い,中くぐりは「戸モ敷井鴨居モ杉ノ木地」と書かれており,「内雪隠ノ
図」をみますと,柱に丸太,竹を用いていました。内雪隠は鑑賞本意の便所です。さら
に「古田織部流露地猿戸釣両ノ柱長サ大地ヨリ五尺七寸 ・・・・・・ 釣方ノ柱ハ丸太今一方
立付ノ方柱ハ皮付ナリ柱ノ頭ヲ三方ヨリ批テ其中一方ハ多批テ其多批方ヲ垣ノ方ヘ成ヤ
ウニ立批ノカトヲ戸ノ方ニ見ヤウニ立ル」とされていました。
千宗旦の露地の揚簀戸については「皮付柱ヲ両ニ二本立空ニ皮付丸太ヲ横ニ通シテ竹
ノシヲリ戸ヲ空ノ横木ニツナイテ ・・・・」とし,二本の頭を尖らせた丸太柱のある図を
描いています。
「茶話指月集」(元禄13年1700)によりますと,利休のころ,露地には柴垣,竹の籬
カキ,杉皮塀,土塀などが用いられていました。
堀口捨己博士の研究によれば,床柱,中柱,その他の柱の,最も目立つ部材とし,樹
種はスギ(北山丸太,嵯峨丸太など),ヒノキ,クリ,クヌギ,松(アカマツ),あて
(アスナロ),ツガなどです。柱の加工方法としては,皮付柱,ゆがみ柱,面皮柱,六
角ナグリ柱,チョウナ目の入った八角柱,角柱などです。杣ナグリと呼ばれるものもあ
ります。その他の部材としてはスギ,モミ,キリ,クワ,ネズコ,サワラ,松など,ス
ギが最も多く示されています。
木製工作物が現れる庭園の形式は,池泉廻遊式や池泉鑑賞式又は露地(茶庭)です。
橋,門,垣,茶室,待合,雪隠,あずまやなどです。
〈京都の庭園の木材利用の調査例〉
△大徳寺高桐院
茶室松向軒は豊臣秀吉の北野大茶会のとき建てられたものを移し,書院は千利休の住
宅を移したと伝えられ,床柱はチョウナ目の入ったスギが使われ,屋根は柿葺です。庭
門は杉皮葺きで,錆丸太,ナグリ,竹などを使用しています。書院の濡れ縁にはナグリ
と細いスギ丸太が使用されています。
△高台寺
時雨亭と傘亭は伏見城内にあったものを移したと伝えられ,また現在,吉野太夫の遺
芳庵など優れた茶室が揃っています。
茶室時雨亭,渡廊,傘亭,茶室遺芳庵など,根太はナグリ,捨て柱はスギ丸太のほか,
クリ丸太,アカマツ皮付丸太,杉皮など多種の木材を使用しています。庭門のスギ丸太
の柱変木の梁が左右対称をやぶっています。
△詩仙堂
小さな山門に出節丸太など多彩な材料を使用しています。土盛りの木橋にも趣があり
ます。
△京都御所
小御所庭園の反橋の材料は木製です。御常御殿庭園の高欄,橋脚などにナグリを多用
しています。
△平安神宮
垣は錆丸太,左近の桜などには木の柵と支柱,藤棚の柱や梁には焼丸太が使われてい
ます。
△常照皇寺
天然記念物の九重桜で知られています。この桜はスギ丸太で支えられています。
△料亭阪口
庭門の梁にチョウナ目を入れています。店の門の柱には絞丸太が使用されています。
また,木造りの水車も趣があります。
△東福寺光明院
茶室蘿月庵の床柱にアカマツ皮付,中柱にスギ丸太が使用されています。朽ちた板橋
に趣があります。
以上,京都市内の庭園には,桃山時代に建てられた茶室など長い風雪に耐えられたも
のを見ることができますが,その部材は取り替えられていることが少なくないし,小さ
な木製工作物は更新されています。
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