15a 庭園の中の木材〈京都の庭園と木材利用〉
〈庭園における木材の用途〉
近世以来,茶庭や,数寄屋の庭の様式が残っています。そして,茶室や庭園工作物の
構成上,木材で目立つのは柱,桁,梁などでの棒状の部材です。茶室は,書院造りの建
築に比べますと小屋のようなものですが,茶匠の美意識により見立てられた中小径木の
素朴な木材を用いてきています。
茶室の思想的背景としては,大部分は露地草庵の茶室です。建築的形式として非都市
的な,田園山間的情趣を表現の主題としています。つまり茶室は草屋根,板屋根,木の
丸太柱,土の壁,竹組の天井で,低く小さい建築です。これらはすべて田園山間的要素
から成り立っていますが,田園山間の建築そのままではありません。
茶室は,文化的階級と都市生活者商人階級の要求とによって発達し,この意味で文化
的都市的なものということができます。茶の湯に田園的要素がみられるのは建築,庭園
及び茶器の一部のみです。茶室の表現たる「わび」は鎌倉時代から絶えず宋時代の文化
として,絵画,書,禅宗寺院の庭園が,脱俗とか,洒脱とかいう意味の表現として入っ
てきていたなかから成長してきました。茶室建築のすべての方面に一貫して表れている
のは反相称性です。
反相称主義の必然的帰結として構成的です。表現法が構成的であるために,必然的に材
料的に多素材主義です。色彩は茶室の思想である侘ワビや寂サビは,自然に反多彩色主義
ですが,決して単色主義ではありません。
庭園工作物の構成における反相称性は,古田織部による枝折戸(シホリ戸(揚簀戸)
),猿戸を吊っている2本の柱,竹穂垣などでみられます。
京都の銘木の品目と伝統的庭園における用途
出節丸太 門柱
磨き丸太 茶室,あずまや
錆丸太 門柱,垣根親柱
ナグリ 門控柱,茶室の根太,橋
面皮物 茶室の柱
皮付き丸太 茶室の柱
〈庭園の木材の加工方法〉
庭園工作物の木材の特徴は,中小径木の丸太や皮付丸太です。銘木「名栗」はナグリ
の加工によりクリ丸太の材から,樹皮と辺材を除去したものです。ナグリはチョウナに
より加工するもので,京都の民家や実用の木橋にもみられる,ごくありふれた木材利用
の技法です。チョウナは斧の一種で,材の表面加工や荒仕上げに広く用いられます。
磨き丸太は,丸太の生地を活かしつつ,より光沢を与えたもので,庭園で風雨に曝さ
れるところでも使われています。
柵や,橋には製材して鉋をかけた材を用いたり,わざと木を朽ちらせた朽ち橋なども
あります。
京都の茶室,庭園,庭園耕作物にみる木材の加工方法
丸太 皮付丸太,焼丸太,出節丸太,磨き丸太,錆丸太,面皮丸太
ナグリ 一部にチョウナ目を入れた柱,梁
変木
角材 面取りした角材,板
柿コケラ 杉皮,桧皮
〈庭園の木材の樹種・産地〉
京都の茶室,庭園,庭園耕作物の木材の樹種
茶室(古典) スギ,アカマツ,クリ,シュロ,ヤマザクラ
茶室(現代) スギ,アカマツ,クリ
庭園工作物 スギ,アカマツ,クリ,ヒノキ
これらの樹種は,ほぼ京都周辺から産出されたものといってよいでしょう。
京都府の南部山城地域は,アカマツ天然更新,コナラ,クリ,クヌギなど雑木の萌芽
更新や,竹林が多く,中部丹波地域にはスギ,ヒノキの優良人工造林地と一部アカマツ
優良天然更新林分が多く分布しています。
また北山台杉林業は北山の民間で行われ,応永年間1394〜1427に山国郷で始められと
伝えられ,茶室建築の隆盛にともなって発達したといわれています。スギの北山丸太や
アカマツの銘木などを生産しています。
大堰川上流の京北町はスギの造林が盛んですし,かつて薪炭林のあった鞍馬や花背別
所付近もスギの造林が盛んです。
南部の山城,中部の丹波の森林には,このほかモミ,ツガ,アスナロ,ヤマザクラ,
コブシ(香節)が生育しています。キリ,クワ,シュロは栽培種です。
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