03 十和田山地帯
 
                         参考:鹿角市発行「鹿角市史」
 
 鹿角市の北部地帯は十和田湖の外輪山から続く高原地帯で、その大部分は十和田火山
の噴火による浮石質火山灰層で厚く被われており、米代川の支流である大湯川の源流が、
これらの台地をえぐり、沢を作って大湯川に合流している。そしてその中には、未だそ
れ程開析の進んでいない田代平タシロタイ、迷カ平マヨイガタイ、大平オオダイ、熊取平クマトリタイなどの
原形面を残している台地も多く見られる。こうした十和田山地帯はかつて一面に落葉広
葉樹の原生林に覆われていたものと思われるが、現在ではそうした原生林の見られるの
は極めて限られた地域だけになり、大部分は二次的自然林・牧野、またスギやカラマツな
どの植林地に姿を変えている。その中で最も原生的自然の姿を残しているのは、特別な
保護地域として指定されて来た十和田湖周辺である。
 
 国立公園の指定地域内の発荷峠ハッカトウゲを始め、外輪山には高木としてはブナや、シウ
リザクラ・ミズナラ・ナナカマド・トチノキなど、下層にはチシマザサ・オオカメノキ・オオ
バクロモジ・ハイイヌツゲ・ヒメアオキ・エゾアジサイなどの低木が見られ、最も安定した
典型的な冷温帯落葉樹林の姿を見ることが出来る。これは残された数少ない原生的自然
として、真に貴重である。
 指定区域外の大部分は広大な牧野や、二次的自然林、又はスギ、カラマツなどの人工
植林地に姿を変えてしまっているが、しかし幸い未だ破壊的な開発は見られず、自然の
姿をよく保っており、貴重な植物や植生の分布を見ることが出来る。その中でも最も代
表的なものとして、秋田県の特定植物群落の一つに選定されている北野キタノのシラカンバ
天然林があり、その他大清水オオシミズのオオヤマザクラ群落や、田代川のミズバショウ群
落などがある。
 
〈北野のシラカンバ天然林〉
 樹幹の美しいことで広く親しまれているシラカンバは、日当たりの良い場所を好んで
生える典型的な陽樹であり、またよく火山灰跡地・崩壊地などに他に先がけて侵入して、
一斉に広い単純林を造る先駆樹でもある。
 シラカンバの分布は本州中部地方以北の山地とされ、北海道は特に多く、東北地方で
は、岩手県に最も多く分布している。裏日本の多雪地帯には少なく、これまで山形・秋田
・宮城県には天然性のシラカンバ林は全く認められないとされてきていた。
 ところが1975年に、シラカンバの天然林が北野で発見された。此処は青森県境に近く、
標高530m、面積140haの広大な平原で、一帯は十和田火山の噴火による浮石質火山灰の降
灰で、厚い火山灰層に被われている。またシラカンバの多産地である岩手県北部と地理
的に近接している。
 周囲の林地が伐採されて牧野に変わった際、以前からミズナラ林内に生育していたシ
ラカンバの母樹の種子が、其処へ散布されて一斉林として成立したものであろうとして
いる。
 
〈大清水のオオヤマザクラ群落〉
 5月、色鮮やかに咲き誇るオオヤマザクラの姿は、国道104号線を中滝から進み、大清
水集落の入口大渉オオワタリ付近から青森県境まで、約4qに亘って見られる。
 オオヤマザクラは、北海道に多いことから別名エゾヤマザクラとも呼ばれ、また花の
色がヤマザクラに比べて紅色が濃いので、ベニヤマザクラとも呼ばれる。
 分布域は本州中部地方以北の山地や北海道で、鹿角地方の山では普通に見られる。
 この地域は大正七年、開墾地として人々が入植し、オオヤマザクラは他の樹木と共に
伐採となったと云う。
 その後大清水の住民のこの桜に対する深い愛情と、旧毛馬内営林署や旧十和田町関係
者の大きな理解と協力により、絶やされることなく残存されてきたものである。
 そしてこれらのオオヤマザクラは、根株からの萌芽ホウガ(ヒコバエ)によって増えた
のである。
 
 鹿角地方の山地に自生するサクラの種類ととしては、次のようなものが見られる。こ
れらはオオヤマザクラのように一目を惹くサクラではないが、極めて少ないので、オオ
ヤマザクラ以上に貴重で大事に保護して行く必要がある。
 
シウリザクラ
 白く小さい花を穂状に密生して着け、一見サクラらしくないが、一つ一つの花を見る
 と矢張り五弁の花弁を持つ花である。花後に実を付け秋になって黒く熟す。秋田県で
 は北部に多いサクラで、十和田湖周辺や発荷峠付近に多く見られる。
 
ウワミズザクラ
 シウリザクラよりはやや普通に見られる。花はシウリザクラに似ているがそれより小
 型で、矢張り花後秋には黒熟した実を付ける。
 
ミヤマザクラ
 花は葉より少し遅れて咲く。葉腋から花軸を出し、数個の白い小型の花を穂状に着け
 る。花軸に葉状の包葉を付けること、花弁の先が窪まないことなどの特徴がある。深
 山桜の意味だが、その名の通り比較的奥地でなければ見られないサクラで、秋田県内
 では極めて珍しい。
 
ミネザクラ
 高山性のサクラで、八幡平などの山の高所に見られる低木。
 
カスミザクラ
 ミズナラなどの生えている比較的高地の林中に見られる、ヤマザクラの一種で、色が
 やや薄い。
 
〈田代川のミズバショウ群落〉
 ミズバショウは東北地方では、各地の高山から比較的低地にまで見られ、特に珍しい
植物ではない。鹿角地方でも、少し奥地の湿地に入るとよくその姿が見られるが、人里
近い処では、年々その群落地が衰退の傾向にあると感じられるようである。
 大湯川の上流域の、田代川沿いの旧田代分校近くでは、その川畔一帯に比較的まとま
った見事な群落が見られる。此処は、鹿角地方の低地の群生地としては貴重な場所で、
毎年四月末から五月にかけて、ミズバショウの花々が咲く。
 
[関連リンク(51八郎太郎伝説)]
[地図上の位置(田代川)→]
[次へ進む] [バック]