02 鹿角の植生点描〈概観〉
 
                         参考:鹿角市発行「鹿角市史」
 
〈概観〉
 鹿角地方は秋田県内の最北東部、北緯40度付近、東経141度付近に位置し、南北に走る
奥羽山系の中にある。
 森林帯は、全て落葉広葉樹林に入ると云ってよく、現在も全面積のおおむね80%は林
野となっており、山地帯の下部には二次的自然としての、コナラ・ミズナラ・クリなどを
主とした落葉広葉樹林が多い。少し高地に入ると、ミズナラ・ブナ・カエデ・ダケカンバな
どに変わり、谷間タニアイなど湿潤な処には、トチ・サワグルミ・カツラなどの生育が見られ
る。
 しかし、近年こうした自然林は、人為的植林事業が進につれて年々その姿が変わり、
スギやカラマツなどの針葉樹に置き換えられている。
 
 鹿角地方の植生を垂直的に見ると、平地で最も低い毛馬内が海抜110m、その周囲には
八幡平(1,614m)を始め一千米前後の高山も多く、低地から高地までの非常に広範囲に
亘る植生域を持っている。特に十和田湖付近や八幡平地域には、冷温帯落葉広葉樹林の
象徴とも云えるブナを含む原生的な自然から、亜高山帯・高山帯の、アオモリトドマツ・
ハイマツなどの針葉樹群落や、豊富な高山植物・湿原植物まで見られと云う、真に植物的
自然に恵まれた地域と云える。
 
 奥羽山脈の東側斜面付近を境とする、日本海側の多雪地帯には、深い積雪の下の厳し
い条件の許で、長い間にそれに適応した形の植物が多く、これを裏日本要素と呼び、約
200種の植物が挙げられる。これらの植物の中で、低木類では重い雪の下でそれに適応し
て幹が這うような形のものが多い。またこの裏日本植生の特徴として、日本海側と太平
洋側で、林床に映えるササの種類が違うことがある。太平洋側の林床は真っ直ぐ伸びる
スズタケが占めているいるのに対して、日本海側ではチシマザサ(ネマガリタケ)が林
床を占めている。勿論鹿角地方の林床に映えるササは、全てチシマザサである。
 
 鹿角地方に見られる主な裏日本要素(低木・草本類) ※右側の種は表日本の対応種
ヒメアオキ       アオキ
マルバマンサク     マンサク
エゾユズリハ      ユズリハ
ウゴツクバネウツギ   ツクバネウツギ
ハイイヌツゲ      イヌツゲ
マルバゴマギ      ゴマギ
オオバクロモジ     クロモジ
イヌドウナ       ヨブスマソウ
ハイイヌガヤ      イヌガヤ
チシマザサ       スズタケ
エゾアジサイ      サワアジサイ
ヒメヤシャブシ     ヤシャブシ
ケナシヤブデマリ    ヤブデマリ
 
 しかしまた、中には太平洋側に分布の主体がある表日本要素とされる、ミヤマザクラ
やエゾノシロバナシモツケなどが、奥羽山脈の稜線を越えて鹿角地方にも分布している
ことは、大変興味深いことである。
 
 ある調査報告では秋田県内に分布するシダ植物以上の高等植物の数は、2,000種程度と
されているが、鹿角地方では少なくとも1,200種以上は生育していると推定している。
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