27 不老長樹マニュアル〈天然記念物遺伝子の保存〉
 
 樹齢数百年の天然記念物に指定された巨木は,何らかの意味で人々に精神的な関わり
をもってきましたし,またその木の周辺に生物的な影響を及ぼしてきたに違いありませ
ん。
 このような天然記念物の樹木そのものも植物学上貴重なものでしょう。植栽及び保育
初期には人工の加護もあったかもしれません。とにかく数百年の間,風雪に耐えて巨木
となった要因には,やはりそれなりの遺伝要素を持っていたでしょうし,そのような長
年月生長した材質など,研究の価値があると思われます。またそのような遺伝因子はこ
れからも長く保存して,活用されてよいのではないでしょうか。
 現在のわれわれが天然記念物の樹木の二代目を残すという努力をし,それによって数
百年の史実や伝説を後世に伝えることは,とりもなおさず子孫への意義あるわはわはの
遺産となります。
 
〈事業の発端〉
 群馬県にある妙義神社には県内一の大スギがあり,国指定の天然記念物で目通り10.5
m,根元周17.7m,樹高35mありました。推定樹齢千年以上,根元に抱き込まれた祠は安
産の神として信仰されていました。
 昭和44年頃から樹勢が衰えてきて,いろいろ調査してきましたが,同46年1月の突風
(季節風)で根元から倒壊してしまいました。
 以前に林野庁関東林木育種場において,この樹の枝を接木によって保存していること
を知り,その接木をもとに若木を育成し,同48年6月に同神社に贈呈しました。
 このスギの若木は,大杉のあったもとの位置に植栽し,二代目として元気に育ってい
ます。
 
〈群馬県内の天然記念物の二代目繁殖法〉
 県指定以上の天然記念物について繁殖を試みたところの概要を述べてみます。
 △挿し木繁殖が可能な樹種は,イチイ,カヤ,コウヤマキ,スギ,アメリカショウナ
ンボク,アカメヤナギ,クワ,クスノキ,ボケ,モチノキ,タラヨウ,ツバキ,サザン
カ,サカキ,ナツグミ,ツツジ,サツキ,キンモクセイ,サンゴジュなどでした。
 △接木繁殖が可能な樹種は,イチョウ,アカマツ,クロマツ,ゴヨウマツ,スギ,ク
リ,ケヤキ,クワ,ハクモクレン,サクラ類,ナシ,サイカチ,フジなどでした。
 △ボケは株分けで繁殖しました。
 
〈二代目造成後の取扱い〉
 天然記念物の二代目造成の目的はその子孫を保存し,地元の人々が,たとえ親木が枯
れてもまた次の代の木を大事に育て,いつまでも言い伝えや信仰を引き継いでいくと同
時に,先祖の残してくれた緑の宝を大切にしようとするものです。
 この造成は,個人では技術的にむずかしい面がありますので,公共機関において保存
管理することとし,文化財保護の思想啓蒙にも供するのがよいでしょう。
 なお,遺伝的に確かな二代目としては,種子による増殖はしてはいけません。
 
          参考 「樹木医ハンドブック」安盛博著(株)牧野出版 THE END
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