26 不老長樹マニュアル〈マツクイムシの害とその防除〉
 
〈原因〉
 マツノマダラカミキリというカミキリの一種が,身体のに宿して運ぶ線虫による被害
です。
 夏頃枯損の兆候が見え始めますと,その年の秋から冬にかけて真っ赤になって枯れて
しまいます。
 
〈マツノザイセンチュウの生活史とマツノマダラカミキリ〉
 マツノザイセンチュウを体内に持っているマツノマダラカミキリの成虫は,5月中下
旬頃になりますと交尾し,卵を産むためにマツの当年枝又は先年枝をかじりながら食し
ます。これを後食といいますが,その時のかじり痕に,線虫がマダラカミキリの体内か
らばらばらと落下して,マツの枝に侵入します。その後線虫は幹の方に移動して,1匹
で100個ほどの卵を産んで,1週間で成虫となって再び卵を産む増殖型の線虫となり,
この間,天敵がいないため,樹幹の中で爆発的な数に達します。6〜10月頃まで数は増
え続け,マツは枯死します。その後線虫は分散型となって翌年の5月頃までマツの中に
留まります。
 ザイセンチュウが侵入した年の7月頃にはすでにマツの樹勢が弱り始めますので,マ
ダラカミキリはその樹皮下に産卵し,9月頃まで産卵するカミキリもおります。幼虫は
樹皮下を食害し,冬を越して2〜5月に蛹となります。
 カミキリの蛹は蛹室を作ってその中に居ますが,この頃になりますと蛹室壁の周辺に
線虫が集まり,カミキリが成虫となって羽化する5〜6月に,線虫はカミキリに乗り移
って,耐久型になってカミキリが健全なマツを後食するまで体内に留まっています。こ
のようにしてマツノマダラカミキリはマツノザイセンチュウを媒介するのです。マツの
中に残った大部分の線虫はマツと運命を共にし,うまくカミキリに乗り移ったザイセン
チュウが次の伝染源となるのです。
〈マツクイムシ防除法〉
 マツノザイセンチュウを媒介するのはマツノマダラカミキリですので,このカミキリ
を薬剤で殺すか,材の中のマツノザイセンチュウを薬剤で殺すかのどちらかです。
 △後食しているマツノマダラカミキリを対象にして防除する方法
 マツノマダラカミキリが後食している時期に,スミチオンなどの薬剤を,空中散布,
地上から動力散布,マツクイムシ専用スプリンクラーで散布します。
 マツノマダラカミキリの羽化発生初期と羽化発生最盛期直前の2回散布します。
 このほかスミパインなどで,成虫の発生初期及び発生最盛期直前に散布します。
 △伐倒木内のマツノマダラカミキリを対象にして駆除する方法
 マツノマダラカミキリの幼虫はマツが秋に枯損し,伐倒した後も材内に生存して,越
冬,やがて蛹となり,ザイセンチュウを体内に宿して羽化しますので,枯損木中に生存
している期間に枝や幹を焼却してしまうのが最も完全ですが,これは適当な焼却地を見
つけるのが困難です。
 MEP剤散布や,カーバム剤のくん蒸によって線虫を駆除する方法が行われています。
 △マツノザイセンチュウを対象にして駆除する方法
 あらかじめ樹体内に殺線虫剤を含ませておいて,線虫の増殖を抑えようとするもので
す。全樹幹を対象としますので,大面積では不向きですが,天然記念物的な古木や,庭
園木などのマツ林に適用されます。マツノマダラカミキリの発生する3ケ月前までに,
樹幹にドリルで孔を開け,薬剤を入れたアンプルを突き刺しておくものです。
 △その他
 殺線虫剤として土壌に施用して根から吸収させる方法や,罹病マツに殺線虫剤を注入
して治癒させる方法などが試みられています。
 また,林内の枯れ枝や被圧木の放置,蓄積などもマツノマダラカミキリの産卵を助長
しているのではないかとも考えられますので,山の管理を十分にすることが大切でしょ
う。
              参考 「樹木医ハンドブック」安盛博著(株)牧野出版

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