25 不老長樹マニュアル〈幹の異常〉
 
〈幹の異常診断〉
 △幹の異常現象
 ・樹形から見た異常
 幹の一部が欠け,その周辺にはカルスが盛り上がっているが,中心の木部は腐ってい
て触りますとぶよぶよした柔らかい心材部があるときは,腐朽菌が侵入して木材腐朽病
が進行している最中です。このような樹にサルノコシカケの子実体(きのこ)が見つか
ったり,白や黄色,茶褐色の紙のようなものが張り付いていたり,盛り上がって小さい
蜂の巣のような孔の開いたものなどができたら,かなりの重傷です。そして心材部は褐
色〜黒褐色,あるいは白色を呈してぼろぼろと手で掻き取れるほどに柔らかく,水気を
保ってカビ臭い匂いがするようになります。
 ・樹皮の色の異常
 幹の腐朽が進行してきますと,樹皮下の組織も侵害するようになります。新鮮な樹皮
は勢いを失って色あせ,外側から剥皮してきます。樹皮は灰白色〜褐色となって剥げ落
ち,木部が露出し,ゾウムシ科の成虫の脱出孔などが見られます。
 このような変色は樹幹の縦方向に沿って起こることが多く,地際になるに従って変色
の幅が広くなり,さらな地中の根にまで腐れが及んでいきます。
 ・樹幹の空洞化
 外側から石や鉈で叩いて,その音で知ることができます。シゴメーターという診断機
械で電気抵抗値を測定して知る方法もあります。
 △木材腐朽菌の診断とタイプ
 ・木材腐朽菌とは
 担子菌類の糸状菌のうち,サルノコシカケという硬い子実体(きのこ)をつくる菌の
仲間を木材腐朽菌といいます。
 この菌類の栄養器官は糸状の菌糸であり,これが樹幹などの中で大量に増え,一定の
環境条件が整いますと子実体を形成し,特徴のある色と形をした,硬いキノコが見られ
るようになります。
 ・腐朽菌類の生活法
 菌糸は細い細胞が1本に連続して並び,先へ行くほど何本にも枝分かれし,このよう
なものが集まると菌網(蓋)というマット状のものとなり,薄い皮状(紙状)のもの,
あるいは白い束状(紐状)となって手にとって見ることができるようになることもあり
ます。これらの菌糸は光合成をしませんので,他の生物の栄養を吸収する菌生菌です。
 ・・白色朽:腐朽菌が分泌する分解酵素が,主としてリグニンに働き,腐朽されたあ
とにセルロースが残るため,白色となります。白色の残り方によって,孔状白色朽,輪
状白色朽,斑入り状白色朽,海綿状白色朽などに分けられます。マツノカタワタケ,コ
フキサルノコシカケなどに侵された材に見られます。
 ・・褐色朽:セルロースが主として分解されたときには,褐色のリグニンが残ります。
この場合も孔状褐色朽,輪状及び繊維状褐色朽,立方体状褐色朽,海綿状褐色朽,斑入
り状褐色孔などに分けられます。ヌメリスギタケ,カイメンタケ,カイガラタケなどに
侵された材に見られます。
 ・材の腐朽条件と耐久性
 腐朽菌は一般には3〜4℃から40℃付近までの間でよく発達し,しかも24〜30℃で最
もよく発達しますので,わが国であれば何処でもこの菌に侵される危険があります。
 ヒバが腐朽に極めて強いのは,材中の揮発性物質が関与しているといわれ,またタン
ニンや樹脂も耐朽性があるといわれています。
 ・腐朽菌の侵入門戸
 腐朽菌は健全木には侵入せず,樹表面の傷口から侵入します。
 ・・人為による傷:折損,挫傷,挽傷,火傷などがあります。
 ・・気象上の傷害:落雷,凍裂,折損,日光による皮焼け,霜害などがあります。
 ・・動物による害:アリ,シロアリ,ノネズミ,ノウサギ,モグラ,キツツキなどに
よる傷害があります。
 ・・植物による害:枝岐の堆積物に生育した植物,寄生植物,コケシノブなどのシダ
類などによる傷害があります。
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