平成17年「土木学会誌、2005年8月号」から転載しました。

熊本県道28号線
南阿蘇やすらぎロード
りんどう花房 川尻 昭
 2004(平成16)年の年も押し迫ったある日突然に、日々通う道「県道28号線」について思うところを書かいてみないかと打診がありました。2003(平成15)年、阿蘇外輪山を始めて貫通したトンネルの完成は、文字通り阿蘇国立公園を縦断する観光ルートとなっています。この道を使う者の一人として,私の感じ思うところを書いてみたいと思いました。
今は昔
 熊本県南阿蘇外輪山の西側に俵山峠(標高704m)があります。昔から村人に利用されていた峠越えの道の近くに、昭和35年に新しい道路が開通しました。
 峠からは、西に熊本平野、有明海、遠くに雲仙普賢岳が望め、東は南郷谷が眼下に眺望できる絶好の場所ですが、この峠への道路はヘヤピンカーブの坂道が続き、雨の日はよく深い霧がかかり、冬は凍結による通行止め等の難所で、地域住民の通勤、一部観光以外ではあまり利用されていませんでした。
 私はこのルートが好きで熊本市内の自宅から南郷谷の久木野の仕事場まで通うのに必ず利用していました。
白い巨塔と「熊本県道28号線」
 俵山バイパスの計画が決まり、付近の幹線道路整備事業がなされるなか、「俵山バイパス」の手前1km程の桑鶴地区の新道に現れた「桑鶴大橋」の巨大な白いX脚の吊り橋は、阿蘇の自然をこよなく愛する人々をあざ笑うかのようにそそり立ちました。突然奇妙な物体の出現に驚きとともに憤りさえもおぼえました。後に、それは斜張橋という橋塔だと知りました。
  
写真-1 俵山バイパス入り口付近
 この道路は熊本県が管理する、熊本市西部の小島下町を起点にして、熊本市内の市電通りを東へ、熊本県の六か市町村を東西に縦断する大動脈の「熊本県道28号線」でした。冒頭の峠越えの道路も含まれます。
写真-2 桑鶴大橋 巨大な白いX脚の斜張橋
 俵山峠を迂回する「俵山バイパス」の建設工事は平成9年に始まりました。工事の説明板を見ると「二つのトンネルと四個所の橋梁-事業延長6km」が計画されていました。峠を目指す途中、下の方に工事の進捗状況が見えます。緑の原野にX脚のような途轍もない橋塔がいつ現れるのかと、心配しながらも興味がありました。
トンネルウオーク
 その「俵山バイパス」が平成15年の秋に完成しました。開通前の9月28日、私達地元の久木野村(現南阿蘇村)観光協会では、熊本県阿蘇地方振興局土木部の協力を得て「俵山トンネルウオーク」を開催しました。
 トンネル内の車道をいっぱいに広がって歩けるのはこの日だけと、県民の多くの方が参加しました。真新しいトンネル、排気ガスがないトンネル。内部を円を描くような綺麗な照明。「ワ〜! ピカチューのタイムトンネルみたいだ!」と、子供達のはしゃぎ声がトンネル内にこだまします。乳母車に赤ちゃんを乗せて楽しそうに歩く若い夫婦、グループで参加されたシニアの皆さんも笑顔が耐えませんでした。ヒンヤリした冷風を受けながら、参加者全員土木技術の素晴らしさを肌で実感しました。
「俵山バイパス」開通
写真 -3・4 俵山トンネルウオーク
 「俵山バイパス」の開通式は平成15年10月10日。バイパス開通による直接間接的な経済効果等は今更ここで述べるまでもありません。しかし私にとってうれしいのは、ヘヤピンカーブの坂道をキーキーと痛むタイヤをなかせながら、必死にハンドルを小刻みに切る労力もなくなり、燃費の節約は勿論の事、濃霧に立ち止まる車もなくなりました。綺麗な明るいトンネル内はハンドルを手で支えるだけの運転、タイヤもなかず、なによりもうれしいのは、心配した橋梁の突起物が一個所もありません。そして阿蘇の原野に溶け込んだ見事な設計施工がなされていることでした。これが私が愛する「熊本県道28号線」であり、一般公募で決まった「南阿蘇やすらぎロード」そのものです。四季折々、いつ走っても飽きが来ません。平成15年には「全建賞」という受けたことを後で知りました。
クリーンエネルギーと環境保全
 人が自然に対する畏敬の念が薄れたときに、人は無意識に自然を壊します。各地の道路にバイパスや整備拡張された新道の傍らには、忘れ去られた旧道が、新道の陰に隠れ、生活廃棄物や産業廃棄物の不法投棄の温床になっている現状は悲しい現実です。
  また俵山バイパスのすぐ上に、西原村が誘致した10基の巨大な風力発電機が今年の春から稼働を始めました。俵山の裾野を風車が覆い尽くす様は、「桑鶴大橋」の白いX橋塔とは、比べようもない環境破壊です。環境破壊とクリーンなエネルギー。私達は今後どちらを選ぶべきなのでしょうか。

 あの唐突に突き出た白いX橋塔は、今は遠くから眺めると、周りの風車に溶け込みあまり目立たなくなりました。「X君あんたも仲間よ」と風車が語りかけているよにおぼえ、何とも皮肉な光景です。
 無意味な構築物は、結局は景観を壊すことになりますし、景観が壊れることは、その自然に溶け込んできた人の心に痛みを与えます。「南阿蘇やすらぎロード」を通して、阿蘇本来の姿の中で育んだ癒しの心をもち、訪れる人びとを私たちはお迎えしたいと思います。どうぞぜひ一度お越しください。

写真-5 風車と俵山バイパス 

 下記URLは、私が「熊本県道28号線」を紹介しましたWebサイトです。お寄りいただければ幸いです。
  http://www2u.biglobe.ne.jp/~g-grass/route28/route28.html