フォーリング・シティ
プロローグ 墜ちていく都市

 

 闇と真空をかきわけて、十三のトーチカが旋回した。
 大胆な思考と精密をきわめた計算にうらづけられて、ファンファーレが吹きならされる。
 十二の砲台が、十二の閃光を吐きだした。
 標的は一点。
 衛星軌道上の巨大ステーションはシュティーベリン反応炉の内壁に十二の穴をうがたれ、暴走を開始する。
 仕上げは、ステーションの離着床にいましもランディングしようとしている恒星船、“マリ・シャトラの使者”だ。
 十三番目のトーチカが火を噴き、リプ・アキュムレータを直撃。噴出するリプ粒子がシュティーベリン暴走と接触し、乱流をまきおこして軌道ステーションの巨躯を呑みこんでいく。
 自由落下する恒星船は暴走する反応炉の炎のなかにたたきこまれ、崩壊は連鎖反応によって拡大。軌道ステーションは超光速粒子を身にまといつけたまま、進撃を開始する。
 地表へと。
 直撃をうけたのは、海岸部に位置する中規模の交易都市ニフレタだ。
 最初に大陸規模の閃光。つづいて、惑星規模の衝撃波。
 大気圏をつらぬく落下軌道に死者の道(ラール・マイート)≠ェ深紅にきざまれ、本来ならば恒星間空間に架けられるべき超光速の橋は大気圏を狂おしく撹拌した。
 広大な面積にわたる海水が一気に蒸発。むきだしになった海底に波涛がなだれこむ。
 大量の海水の急激な移動は、潮流に劇的な変化を強要し、惑星を二周する未曽有の大津波を誘発。沿岸部の諸都市は壊滅的な打撃をこうむることとなる。
 直撃をうけたニフレタは、いっそ爽快といえるかもしれない。
 一瞬にして地表は剥ぎとられ、えぐりとられた一帯は灼熱のクレーターと化した。一切の妥協なきすみやかなる崩壊。壮麗な夜景を描きだす都市は、なお華々しい光球に呑みこまれ、瓦礫さえのこさず塵芥となって消えた。そこには、苦鳴の影さえ残るまい。
 やがて、惑星全土をゆるがす暴虐の嵐をぬって、司星庁に幾度めかのなぞめいた要求が届けられた。
 これは警告である。
 ジーナ・シャグラトの秘密をわたせ、と。

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