「誘拐」44/車の中

急に車が止まって目が覚めた。寝ぼけながら体を起こして目を開けると、 帽子を被った人が運転手側の窓から頭を突っ込んでいだ。
「すみません、ちょっとお伺いしたいことがございまして。 …そちらのお嬢さんは?起きたのかな?」
「従妹です。急いでるんですが」
「お嬢ちゃん、お名前は?」
寝ぼけていたが、何か言わなきゃと考えた。とりあえず。
「……佐藤洋子ですっ」
「ちょっと車から降りてお話を……あっ」
車が急発進した。
「このやろう余計なことを」
制限速度など完全に無視してどんどん他の車を追い越していく。
「そこの車、ただちに止まりなさい、ただちに止まりなさい」
後ろからはパトカーがサイレンを鳴らして追いかけてくる。
「凶器は何かないのか?」
「包丁は持ってこなかったわねー。カッターナイフくらいならあるかも」
「最悪の場合はそれを使うから、用意しといて」


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